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個の武勇

 要塞は地獄だった。


 ある一室では女子供がまとめて灰になるまで焼かれ、抗う兵もまた、数の利に押され焼却されていた。


 僕もまた、イフリートを呼び出し、敵を焼却していく。


 相手は帝国の仲間だという。要塞を守る追加要員とされ、要塞に入ってきたが、数が揃ったところで帝国の白目達は攻撃を始めたという。


 僕は怒りに流されて、なすがままに白目達を焼いていった。白目達は逃げ惑うが、僕の出したイフリートの『青のフレア』で一瞬で焦げていく。


 僕は指揮官の男を大剣で首と胴に切り離した。顔が分からなければ、どちらが勝ったか分からなかったからだ。僕はその生首を髪を掴んで持ち上げ、戦争の終結を宣言した。戦争というよりは仲間の裏切りだが……。


 帝国兵達は、指揮官の死に追い込まれ、両手を上に白旗を上げていく。


 要塞の赤目達は家族を合わせて数千人は死んだだろう。


「なぜ、帝国は要塞の人達を襲ったんですか?」


「赤目だからだ。前線に出て、いつ後ろから襲われるか分からないという不安があったんだろう」


 僕の憎しみの炎が身体を焼いていく。


「たったそれだけの理由ですか?」


「ああ、赤目なら信用できない。同じ国の民でもな」


 僕は要塞に残る全ての白目の兵士を焼いた。


 白旗は関係無い。なぜなら、自軍にて反乱を起こした者達を粛正しただけだからだ。


 この後、帝国は新たに要塞へと白目を派遣した。


 伝書鳩にて、「要塞を魔王領から守るべし」とただ一言が届いた。


 王都から小さな王子が葬儀に参列した。まだ右も左も分からない子どもがだ。


 王子が呟いた。


「そなたらはなぜ、仲間を殺したのじゃ?」


 僕が答えた。


「王子、仲間を殺したのは帝国の白目の兵士達です」


 王子が返す。


「我は赤目は大罪人だと教わった。大罪人を粛正するのは、道理であろう」


「王子、要塞の赤目を理由もなく殺したのは白目の帝国兵なのです。そこに道理はありません」


「じゃが、我は赤目は悪だと教わった。白目こそが正義ではないのか?」


「王子、では赤目の罪とは何ですか?」


「赤目として生まれたことじゃ」


「王子、それは理不尽過ぎます」


「そうなのか?」


「はい。それに、赤目は最初から赤目だったわけではありません」


「なに? 違うのか?」


「はい、赤目とは幼い頃に魔石を身体に取り込んだもの達のことを言うのです」


「なぜわざわざ赤目になるのじゃ?」


「それは、土地が枯れて作物が取れず、魔石を取り込まないと生きていけなかったからです。魔石を取り込めば、お腹は空かせても五年は水だけで生き残れます。また、神級モンスターの多い地域で生き残るには、最低限の力が必要ですから。まあ、今では宗教的な儀式として行われていますが」


「なに? 要塞には神級モンスターが出るのか」


「要塞には出ませんが、近くに魔森と呼ばれる神級モンスターの出る森があります」


 王子は瞳を輝かせる。


「なに? それは行ってみたいぞ」


 横から、近衛騎士団の団長が口を挟んできた。


「神級モンスターとは、我が近衛騎士団でも倒せるか五分五分です。守れる保証がないところへ、殿下を連れていくことは出来ません。王国出身の赤目が、余計なことを吹き込むでないわ」


「これは失礼を」


 僕は片手を胸に当て大仰に返す。


「殿下には白目も赤目も変わらぬ帝国民だと理解して頂ければ結構です」


「そうだな。赤目も我が帝国民じゃ。父上も悲惨な状況を生んでしまったことを後悔してるからこそ、我をこの地に派遣したのじゃろうからな」


「殿下は聡明な方ですね」


「そうじゃろう?」



 近衛騎士団団長が、再び口を挟む。


「貴様、殿下を洗脳するつもりか?」


「いいえ、本当のことを言っただけです。殿下がどう受け止めようが、あなたには関係ありません。勿論、私にも」


「ちッ、減らず口を」


 近衛騎士団がピリピリしている。いい気味だ。


「殿下、赤目の言うことなんぞ、放っといてください。帝国民の……いいえ、人間にとっての神敵ですので」


「おかしなことを言う。お主は普段から人の言葉を素直に聞き、広い視野を持って判断しろと言っておるのに」


「それは、人間のみの話です」


「赤目も人間ではないか。家族を殺されて、怒りを我に向けておる。人間そのものじゃ」


 近衛騎士団団長は口を噤んだ。


 僕は驚いた。この歳で何が正しいかを判断する能力。どこも王子や王女はこんなにも聡いのだろうか? それともこの子や王国のフォルマーレ王女殿下が特別なのか?


「さあ、葬儀が始まる。皆静かにしろ」


 棺を覆っていた国旗が親族の手にたたまれて渡される。親族が咽び泣いている。


 儀仗兵が、敬礼し次いで空に魔法の一斉射撃をおこなった。


 バグパイプやラッパの演奏が始まる。


 一万はいた死者全部を埋葬するのに丸一日かかったが、近衛兵達が席を外してお茶を飲む中、王子と僕はずっと手を合わせていた。


「王子のような人がいて、少し安心しました」


「よせ。我は赤目も白目も我が国民でありながら助けられなかった。今度はこんなことはさせぬ」


「殿下は北の女神様と気が合うかもしれませんね」


「ああ、我もそう思う。北の女神様は戦争がお嫌いな人だからな」


「殿下はまるで女神様と会って来たような話をしますね」


「ああ、もう何度も会ったことがある。一方的なものであるがな。『学園デスティニー~黒猫の髭~』の主人公殿」


「あなたもですか」


「この後の帝国の戦争派は、我が防いでみせる。お主は女神王国領の戦争派閥を抑えてくれ」


「自信があるのですね」


「次の戦争を止められるのは我しかおらん。父上や兄上方は全く戦争を止めることを考えておらぬ。あまつさえ、赤目を皆殺しにしろと宣っておる」


「安心しろ。そなたはこの世界の主人公じゃ。そなたが望めば戦争を終わらせられる」


「僕には赤目を守って白目を殺すことしか出来ませんよ?」


 クツクツと笑う王子。


「それ以外の選択肢は我も知らぬ。そなたが赤目の防波堤になればよい」


「戦争派を防げば、戦争は終結するということですか?」


「そうじゃ。今回は要塞だけですんだ。今回は、な」


「白目の戦争派は我が滅ぼす。お主は赤目の戦争派を滅ぼせ」


「それは、僕に赤目の戦争派達を殺せということですか?」


「そうじゃ、それくらいの覚悟を持たずに、この戦争は止められぬ」


「殿下はいくつなのですか?」


「三つじゃ」


 はは…僕の周りはそんなのばっかりだ。


「じゃあ、殿下は白目の戦争派を殺す覚悟が出来ているということですか?」


「勿論じゃ。我はとっくに暗部に命じておる」


「三つで既に専属の暗部がおられるのですか?」


「うむ、二歳の時に殺されないよう作った」


「王子殿下は何番目の子なのですか?」


「我は正妃の次男じゃ。叔父を入れると王位継承順位は三番目じゃな。よって暗殺されかけたことは一回や二回ではないわ」


「王子が大人っぽく見えるのはそのせいでしょうか?」


「我の見た目は三つじゃが、中身は四十を超えておる」


「それは、どういう理屈なのですか?」


「異世界転生という奴じゃな。そこで『学園デスティニー~黒猫の髭~』というゲームをやったことのある人物じゃ」


「この世界はあなた達にとってはゲームでも、実際起きてることは現実で、人が死ねば生き返らせることは出来ません」


「そうじゃな。王国の王女は聖女と呼ばれて楽しんでおるが、わしはいつ殺されるものかとびくびくしながら生きてきた。王国の聖女と帝国の第五王子では、出来ることも、権限も限られておる。そこでじゃ」


 大人びた真っ直ぐな瞳で僕を見つめてくる王子。


「お主もわしの暗部にならんか?」


 僕は答えを保留してもらった。


楽しんで頂けたら評価をお願いします。

つまらなかったという方もつまらなかったという評価をお願いします。

<(_ _)>

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