王女襲来
僕らはとりあえずダンジョン攻略を終えた。
蟻の巣穴は塞がり、本来のドラゴンの群れのダンジョンだけになった。
僕らはまたレベルが上がっていた。
僕が五百レベルを超え、ビアンカが四百レベルを超えた。偽勇者達も三百レベルを超えた。
僕らは再び、学校へ通う。
学校ではビアンカが数学の追試をさせられており、僕はそれにつきあった。
ビアンカが言う。
「……ん。学校辞めたい」
「数学は僕が教えるから」
「……ん。頑張ってみる」
ビアンカはふんす! と気合を入れ直した。
「……やったー追試終わったー」
「よくやった」
「家に帰る前にご褒美のケーキでも食べに行こうか」
「うん、食べる!」
※※※
ダンジョンから蠢くものがある。
僕は忘れていた。
ダンジョン産のモンスターはリポップするものだということを。
※※※
その夜。
ダンジョン一階層に巨大な金剛石蟻が現れた。
女王蟻だ。
まだ若いが、人間を飲み込んで力を戻しつつある。
探求者ギルドはダンジョンへ入るのを禁じた。
蟻が元々どこにいたかを、知る機会が無かったので失念していたのだ。
金剛石蟻は元々一階層にいた。
そう一階層にいたのだ。
ダンジョンで死んだモンスターは再びダンジョンにリポップする。長い間、穴を掘り進めていく間に、何層にいたかを忘れていたが、弱い魔物として一層に存在していたのだ。
その上、探求者ギルドは探求者に警告を発するのを忘れていた。
金剛石蟻の女王が元々どこにいたのかを、知っていたのに伝えなかったのだ。
当然、探求者ギルドは非難された。僕らにも非難の矛先が向いた。金剛石蟻を討伐したが、リポップすることを伝えなかった為だ。ダンジョン一階層は、金剛石蟻の巣だった。
僕らには罪は無いが責任が有った。僕らは一週間に一回はダンジョンに潜って金剛石蟻の女王を討伐した。一週間に一回が女王蟻のリポップ期間だったからだ。
最初こそ非難されていた僕らは、女王蟻を確実に討伐していく中で、英雄と呼ばれるようになった。人間とは調子がいいもので、自分たちの実力では勝てない者を、簡単に倒せることを知ると、持ち上げるようになる。
僕らは出来るだけ女王だけを仕留め、その間に生まれた蟻の卵を探求者達が倒せるだけ倒していく。丁度いいレベルアップの穴場になっていた。最近では、探求者に混じって学校の生徒や一般人の主婦も狩っていく。何か起きた時に、レベルは高いほどいいのだから。
さて、罪人からあっという間に英雄と呼ばれるようになった僕ら。十五歳になったので、帰らないと伝えたが、きっと王女殿下は来ているだろう。そう考えると、申し訳ない気持ちが出てくるので、ビアンカの村へと戻った。もちろんビアンカも一緒だ。
僕とビアンカは要塞へと向かう。
僕の姿が見えたのか、フォルマーレ王女殿下が僕の懐に飛び込んできた。
「おかえりなさい、アルコバレーノ」
「ただいま、フォルマーレ様」
僕はビアンカを呼んだ。
ビアンカがやって来た、綺麗なカーテシーをする。
「……ん。初めまして、王国の王女殿下。私は女神王国領からやってきた……」
「ビアンカ様ですね」
「……ん。どうして…手紙に書いた?」
僕はビアンカの問いに首を横に振った。
「王女殿下の予言は健在ですね」
「あら、この方のお名前は『学園デスティニー~黒猫の髭~』で出てきますわ」
「フォルマーレ様。あなたの言うRPGというものがなにかは分かりませんが、あなたは全てを知っている。僕が主人公というのも、そのRPGというものの中の知識ですね」
「ええ、その通りですわ」
「じゃあ、結末は変えられるのですか?」
「それは、あなた次第ですわ」
「そうであるなら、王女殿下は私のことをどう思っていますか?」
「運命の人だと思っています」
僕は少し考えた後答えた。
「では、陛下は僕のことを愛してるわけじゃないんですね」
「それは……ですが……これから育てていけばいいのですわ」
「僕は……運命の人を見つけてしまいました。その子のことを愛しています。殿下はそれもご存知ですよね?」
「ええ……ええ、ですがそれはとても悲しい運命を辿りますわ」
「では、どのような運命になるかを教えていただけますか?」
「それは……」
「駄目でしょうか?」
「駄目、ではありませんわ」
「それでは、是非教えて頂きたく」
僕の失礼な態度に、マルツォが動いた。
「おい坊主、聖女様の予言を個人的なことに使うでないわ」
僕の頭に拳を落とそうとするマルツォ。
「マルツォ、構いません」
王女殿下がマルツォを制した。
「魔王国領と、帝国、王国で大きな戦争が起こりますわ」
「なぜです? この間帝国と王国とは和解したはずです」
「まずはあなたを巡って王国と魔王国領が戦争になります」
「僕を巡って? 赤目の僕に何が出来ると言うのです?」
「あなたは王国にとっても大きな戦力なのです。簡単に捨てられません」
「僕が女神王国領につきます」
「それが問題なのです。王国からしたら魔王国領に大事な勇者を取られたことになります」
「僕が、勇者?」
「あなたはもう既に人間に戻る技術を見つけたのでしょう?」
「ええ、見つけました。ですが、今更王国に戻る理由もありませんし、お世話になった女神王国領に手を出すこともしません」
「それが、戦争の引き金になるのです。王国は我が国の勇者を、返せと叫ぶでしょう。今のあなたになら、それだけする価値はあります。当然、魔王国領もあなたを譲らないでしょう。あなたはダンジョンを踏破した実力者なのですから」
「それだけご存知なら、王女殿下が戦争を治めて下さい」
「それは……あなたが王国に戻らないと何とも出来ません」
「聖女様なら結果をご存知のはずです。結果を知っているのなら、いくらでも変えることは出来るでしょう。僕は二度王国にて捨てられました。女神王国領では誰も僕を捨てようとしませんでした。僕は戦争になれば女神王国領で戦います」
「はあ……。分かりました。ですが、覚悟はしておいて下さい。戦争を始めるのは、商人たちとそれに阿る貴族たちです」
「では、一旦帰りますわ。出来る限りの事をしてみますが、戦争になったらあなたは魔王国領を守り抜きなさい」
僕は王女殿下を前に膝をついた。
「はい。必ず」
王女殿下が笑う。
「フフフ、相変わらず頑固なのですね」
僕は顔が熱くなるのを感じた。
「いえ、そうですね」
僕と王女殿下は笑い合った。
「さあ、帰りますわよ。マルツォ、あまり睨まないの」
真っ赤な顔をしてマルツォが僕を睨んでいる。
「しかし殿下。わしは国への裏切りは許せるが聖女様への裏切りは許せません」
クスリと笑う、王女殿下。
「世の中はそんなに上手くいくことばかりではありません」
「このまま、真っ直ぐに王都に帰りますわよ。時間をかけては戦争が始まってしまいますわ」
「王女殿下、拾って頂いたことには感謝しております!」
僕が叫ぶと、王女殿下は馬車の中から手を出し軽く振る。
「ビアンカ、しばらくビアンカの村で様子を見よう」
「……ん。ごめん、アルコバレーノ」
「謝らないでよ。僕は王女じゃなくてビアンカを選んだんだ。その選択が間違いだなんて思ってない」
僕に抱きつくビアンカ。
「……ん。ありがとうアルコバレーノ」
要塞の皆が口笛をヒューヒューと吹いて、からかってくる。
僕は顔が火照り、周りを見渡せないでいた。
ビアンカの心音がドクンドクンと脈打って感じる、いや、それとも僕の心臓の鼓動だろうか。不安の鼓動だろうか? どちらにしても覚悟を決めたことだ。女神王国領を全力で守り切ろう。それがぼくがあの日、ビアンカを抱いた時の決意だったのだから。
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