蟻の巣
僕らは王都へと戻って来た。
用事が二週間で済んだので、授業は何とかついていけた。
僕はもうすぐ15歳になる。だが、戻らないと決意を固めた。
こっちは赤目に対する差別もない。戦場も赤目のいる要塞と接している為、派手な戦闘は無かった。
僕はこの地で男爵となった。領地こそないが、年金を貰えるらしいので、普通に生きていける。なにより、ダンジョンに潜れば、一度の成果で一年は過ごせる。
未成年だが、婚約者も出来たし、人間の王国へ戻る選択肢は無かった。
しかし、帝国の要塞に手紙が届いた。探求者ギルドを介して手紙を受け取った。
そこには、今年の4月に迎えに行くと書かれていた。
僕はすぐに返事を返した。
魔王国領で男爵になったこと。
探求者パーティーの仲間が出来たこと。
王国と帝国と魔王国領が停戦で合意したこと。
魔王国領で学校へ通っていること。
そして、婚約者が出来たこと。
王女殿下こそが主人公であること。
フォルマーレ王女殿下に僕は必要ないことを、まとめて書いた。
王女殿下の主人公ではなく、本当に好きな人を見つけて欲しいと書いて返信した。
※※※
僕は今日、王都で学校に通っている。
授業内容は、社交のマナーだ。
社交のマナーは白目とは違う。赤目には目で人を操る能力がある為、力が女王陛下を上回る場合、常に伏して目を合わせないのがマナーだ。目を合わせた場合、殺されても文句は言えない。
そうはいっても女神様はレベルが五百を超えている。赤目はレベルが見れるので、反逆ししようとは誰も思っていない。なにより、神々しい女神様の姿を見て、手を出そうとは誰も思わないだろう。
僕は、なぜか王国の王女殿下への気持ちが冷めてしまった。というより、ビアンカのことを好きになってしまった。相手がエルフとはいえ、エルフ×人間は珍しくもない。
「いいですね、目を合わせるとそれだけで処罰されます。決して女神様の目を見つめないよう」
「「「はい」」」
僕も自然に魅了の魔法を使ってないか、先生に調べてもらった。結果、天然で人を魅了する容姿をしているらしい。天然で人を魅了する容姿ってなんだよと。
とりあえず、今日の授業は終わった。
※※※
翌朝、ダンジョンの門へとやって来る。
偽勇者パーティーを随分と待たせてしまった為に、偽勇者パーティーはやきもきしていた。
今では魔王国領で勇者をやっている為に偽物でもないのだが、便宜上偽勇者パーティーとしている。
今すぐに入ろうと言い出したが、伝承では自力で戻って来ないといけない為に準備に時間がかかる。
空間魔法は中身が腐りはしない為、便利なので持てるだけ食糧を詰め込んだ。
「さあ、行きましょうか」
「「「おおおおおッ!」」」
勇者パーティーが雄叫びを上げた。
ダンジョンに潜ると、リザードマンの土地へとやって来た。お土産にお酒とお菓子を持ってきた。彼らは喜んでくれたので持って来て良かった。
リザードマンの階層で、一泊する。
野営をしていると、リザードマン達がダンジョンで飼ってる牛の肉を持って来て、宴会になった。
「ドラゴンを倒したと聞いた。きみ達は凄い」
「いや、何とか倒したというか……」
「アルコバレーノが瞬殺したよ」
「旦那が一瞬で片付けた」
「兄貴が圧倒的だった」
「……ん。さすが、我が婚約者」
僕は照れ臭くて顔が熱くなる。
「旦那、まさか……」
「……ん。そのまさか」
「マジですか兄貴?」
「よくやった、アルコバレーノくん」
言い出しっぺのビアンカの顔が真っ赤になっている。
「旦那、妾でいいから私も!」
「……むう、断る」
「なんで嬢ちゃんが決めるのさ」
「……ん。婚約者は私だから。決定権がある」
「僕はまだ未成年だから」
「未成年がなぜエルフのばばあに手を出したのさ」
「……むう、ばばあじゃない」
「貴族は未成年でも婚約者がいることが多いからね」
「貴族はそうかもしれないけどさ、旦那~」
「一応皆もこの国では男爵じゃないか」
「お、そうだったな」
「忘れてやしたぜ」
「旦那、あたしは第二夫人でいいからね」
「僕の知り合いはショタコンばっかりか」
笑い合う男性陣。頬を膨らす女性陣。
リザードマンも口を開く。
「我々リザードマンも一夫多妻制。姐さん女房は鉄の草鞋を履いてでも探せという言葉もある。年上の女性を探すべき」
「旦那、あたしを嫁にした方が良いってさ」
「……フフ、私は小娘よりも遥かに年上」
「正体を現したね、嬢ちゃん」
「……中身は見た目よりも上。見た目は人間の少女くらい。一度で二度美味しい」
「ハハ、エルフには敵わん」
リザードマン達が笑った。
宴会は遅くなるまで続いた。ダンジョンとはいえ砂漠の夜は寒いので、六階層小麦畑に行って眠った。
※※※
六階層。
「……ん、『マップスクロール』」
一瞬、六回層が緑色の光に包まれる。
「……あっち」
僕は一応ロープを張って、なだらかな坂を一番先に下りていく。
他のメンバーが次々に下りてくる。
そこは一階層のヒカリゴケが生えていた。
僕は目の前にいる金剛石蟻を倒しながら迎える。
僕は呟いた。
「ここには足長蜘蛛はいないみたいだね」
その代わり金剛石蟻が多い。その階層の蟻を倒してもリポップはしない。
僕らはどんどん下へと進んで行く。
二十五階層を越えても、同じように金剛石蟻がいるだけ。
三十階層。
四十階層。
五十階層。
百十階層まで来てようやく、空気が変わった。中央を守るようにして金剛石蟻達がびっしりいる。
「……蟻の数が多い、『イフリート』」
魔人の姿をしたイフリートが現れる。
「……進化したイフリートの力を見せる『青のフレア』」
魔人が、頬を栗鼠が餌を蓄えているように膨らし、「ぶおおおおおおッ!」と放った。
金剛石蟻は一瞬で溶けていく。真ん中には子を産み続ける巨大な女王蟻がいたようだが、一緒に溶けて消えてしまった。
「……ん。やり過ぎた?」
「女王蟻の姿を見たかったけれど、倒すつもりだったからね」
「姉御、強くなりやしたね」
「嬢ちゃん、俺達も溶けるかと思った」
「旦那、あたし第二夫人の座諦めるよ」
僕は、燃え尽きてしまった女王蟻の残した魔石に触れる。
「魔石が大きいね。灰色のドラゴンと同じくらい強かったんじゃないかな?」
「……ん。それはない」
ビアンカも魔石に触れる。
「……ん。でも、今まで見て来た中で一番大きい」
偽勇者パーティーも魔石に触れる。
「これいくらするんすかね?」
「白金貨一枚はくだらないだろうさ」
「いや、白金貨百枚かもしれねえぞ」
「……ん、利益はみんなで均等に分ける。五等分」
「いや、嬢ちゃんが一人で倒したんだし、嬢ちゃん一人の物でもいいんじゃないか」
「姉御、姉御の物でいいっすよ」
「……むう、私はそんなに薄情じゃない。守銭奴でもない」
僕も偽勇者パーティー三人に向けて答えた。
「そうだね。五人みんなで分けよう。百十階の道を一緒に踏破したんだ」
「さて、これから百十階戻らないといけないわけだが」
「敵もいないし、ゆっくり帰ろうかね。旦那」
「出ておいで『ノーム』」
僕がそう言うと鹿のような角を生やした、モグラみたいな生き物が出てくる。
「ノーム、地上に向けて螺旋階段を作れるかい?」
目がクリクリしたモグラみたいなノームはうんうんと頷いた。
子犬ほどの大きさのノームが魔法陣を出すと、地中から地上の空間まで円柱の土が貫いていく。
ノームは器用にもの凄い勢いで土を削っていき螺旋階段を作っていく。僕らが螺旋階段をゆっくりと昇っていくと、ノームが僕の元に戻って来た。どうやら、地上まで完成させたようだ。
「ノーム、蟻の巣を埋められるかい?」
僕らが地上へと出ると、ノームは地上から地下空間を埋めて、戻って来た。
僕が頭を撫でてやるとすりすりと甘えてくる。僕がリンゴを与えてやると、満足して帰っていった。
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