見た目こそ実年齢
朝。今日はゆっくり寝ていた。
起きれなかった、というより起きなかった。
ビアンカも隣で裸で寝ている。僕もまた……。
「……アルコバレーノのエッチ」
布団を奪って包まるビアンカ。
「…………ん。先に食堂に行ってて」
「うん、わかった」
僕は慌てて服を着ると食堂へと向かった。
ビアンカが一時間遅れでやって来た。
「……ごめん、待たせて。怒った?」
「怒ってないよ」
僕はビアンカの顔が見れない。ビアンカもまた、僕の顔を見れずにいるようだ。
今からご飯を食べるので、上を向かないわけにもいかず。僕はゆっくりと顔を上げた。ビアンカも丁度顔を上げた為、真っ赤なビアンカの顔が見れた。
「……ん。昨日のことは……なかったことにする?」
不安そうに僕に尋ねるビアンカ。
「無かったことには出来ないよ。それに、気持ちが溢れて抑えられそうにない」
僕は断言した。
ビアンカの眩しい笑顔に魅了された。
「……じゃあ、ずっと一緒?」
「うん。ずっと一緒だよ」
「……アルコバレーノ顔真っ赤」
「お互い様だよ」
僕達は笑い合う。ビアンカの瞳からは、安堵の涙が一筋こぼれた。
※※※
今日は学校を休んで市場へとやって来た。
寒い地域に対応した作物の種を南の村へ届ける為だ。
「ほうれん草は寒さに強いよ。あと小松菜、白菜、人参 ブロッコリー、果物ならリンゴだね。後はライ麦、秋まき小麦だね」
「痩せた土地でも育つ物はありますか?」
「オーツ麦、大根、ネギ、玉ねぎなんかもいいよ」
「じゃあその種、店にあるだけ全部ください」
「全部買ってくれるのかい?」
「はい、だから少しまけて貰えますか?」
「おう、兄ちゃん。もちろん勉強させてもらうぜ」
「ありがとうございます」
ビアンカが改めて買った、ウサ耳空間魔法バッグに詰め込んでいく。
「金貨十枚だ」
「そんなに安くていいんですか?」
「ああ、これでも高いくらいだよ」
「じゃあ、遠慮なく購入させて頂きます」
「あいよ」
僕らが去った後、隣の店主が言った。
「随分とぼったくったね」
「何も知らないガキどもが、勉強しただけさ。今度はぼられないようにな」
店主が店を片付け始める。
「今年はもう店じまいだ」
「ちッ。羨ましいぜ」
ビアンカが改めて購入したウサ耳リュックは、八十階の探求者ギルド並みの収納力を得た。ダンジョンでレベルが上がった結果だ。
タダなので、世界樹の周りに積もった腐葉土も詰め込んだ。今日からビアンカの村まで行くので、学校の先生に休学と、偽勇者パーティーに三か月後には戻ると伝えた。
僕らは走って帰った。徒歩で一ヶ月の道を、一週間で踏破した。
※※※
「……ん、ただいま」
「おお、ビアンカにアルコバレーノくんおかえり」
ビアンカの父が迎えてくれる。
事情を話した。
「おお、それは良かった。じゃあ、村人達を集めておくよ。二人は家で休んでなさい」
ビアンカの家の前に村人達が集まると、ビアンカが腐葉土を出す。
「これは世界樹の腐葉土です。これを、田畑に混ぜる作業から始めましょう」
「おおこれが世界樹の腐葉土か」
「ふかふかしてるな」
みんなが楽しみながら、腐葉土を混ぜていく。一時間もすると、全ての田畑に腐葉土が行き渡った。一日で出来る量じゃないのに。
「……ん。ノーム」
「そうか、皆ノームが使えるんだったね」
「……ん。そう」
「では、種類ごとに分けて種を撒いていきましょう」
「種もまた、ノームが手伝ってくれてあっという間に撒き終えた。
その後、ウンディーネにお願いして水を撒いてもらう。
みんなのノーム達が田畑のあちこちで顔から下を潜らせる。モグラのようなノームだが、畑を荒らすどころか、栄養素を循環させ、野菜や穀物の芽を出した。
ノームも腐葉土が気持ち良いらしく、埋まったまま眠ってしまうノームも出て来た。村のみんなが自分のノームの頭を撫でると、「きゅう~」と鳴いて、村人たちに甘える。
愛らしいノームの姿に、村の皆は悶絶していた。
すると、田畑から芽がたくさん伸びてくる。芽は葉となり、葉は実をつける。
瞬く間に実った作物を見て、村の皆はびっくりしていた。泣いている者までいる。
豊富に実った後は、皆自分のノームを抱いて頭を撫でていた。
「作物がこんなに…」
「何年ぶりかしら、ここまで作物が実るのは」
「ああ、夢を見ているようだ」
ビアンカと僕の元に集まる村人達。
ありがとうの声が鳴り止まない。
ビアンカは照れている。
僕は胸が熱くなった。
今日は夜中まで宴会だった。
朝、田畑を見に行くと、ノーム達が埋まったままで寝ていた。僕は初めて精霊達の扱い方を学んだ気がする。言葉にせずとも、可愛がることで精霊たちは期待に応えてくれる。
僕は魔森ウサギのポチの散歩中のついでに畑に寄ってみた。
「おはよう、ノーム」
僕のノームが駆けて来て膝に抱きつく。僕が頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めた。
ポチは十分餌を与えているので、誰も襲わなくなった。
ただし、僕が四大精霊を可愛がる時は、いつも妨害してくる。
ノームを襲おうとしてきたので、空間魔法にポチを収納した。僕は子犬ほどの大きさの目がクリクリしたモグラのような生き物を抱いて撫でてやる。
村人達が作物を収穫している。僕も収穫に混ぜてもらった。どうやら、今日の朝食の野菜を採りに来たお母さん達みたいだ。
そのついでに、ノームに野菜を食べさせているらしい。
ノームは自ら育てた作物を食べさせると、精霊として進化するようだ。
僕もノームに作物を与えてみる。トマトを与えたが、なんだか少し大きくなった気がしないでもない。迷信という奴だろうか、それとも与える量が少ないのか。
まあ、どちらでもいいか。うちの子がすくすく育ってくれるなら、迷信でも信じて食事を与えようと思う。さっきから食べたそうにはしているからね。
「はい、ほうれん草だよ」
「小松菜、人参、リンゴだよ」
甘い物が好きなようで、リンゴを与えたら一番喜んでくれた。
「やっぱり甘いものが好きなんだね」
ノームが僕の顔をまじまじと見てくる。すると、身体が光ってノームに鹿のような角が生えた。
「あら、迷信だと思ってたわ」
「リンゴを与えたら良いみたいですよ」
「そうなの。それじゃあ、早速」
お母様方はノームにリンゴを食べさせた。すると皆見る見るうちに、ノーム達の頭に角が生えていった。
「あらあら」
「まあ」
「本当に進化したわ」
僕らはその日、村人のノーム達を進化させて回った。
「……ん。ノームが進化すれば、豊作が約束されているらしい」
「ありがとう、アルコバレーノくん。これで村は安泰だ」
「……ん、しばらく安泰」
「作物も採れるようになったし、村の為に人生を犠牲にするのはもう辞めておくれ、ビアンカ。お前ももういい歳だ。なあ、アルコバレーノ殿。うちの娘を貰ってやってくれるか?」
僕は姿勢を正す。
「……僕で良ければ、お嬢さんを僕に下さい」
泣き出すビアンカ。
「……うん。……ありがとう」
ビアンカの背中をさするお母さん。お母さんに抱きつくビアンカ。
「くぅ、娘の為に泣いてくれてありがとう」
ビアンカのお父さんが言った。
僕はその時、初めて自分が涙を流していることに気づいた。
僕はポツリと呟く。
「お父さんと呼んでいいですか?」
「ああ、是非呼んで欲しい」
「お父さん、僕が必ずお嬢さんを幸せにします」
「ああ、ありがとう。娘を頼む」
お父さんはお酒も手伝って男泣きしている。お母さんは、嗚咽を漏らし泣いているビアンカの背をさすっている。
「今日はいい日だ。アルコバレーノ殿も飲みなさい」
「すみません。僕はまだ未成年なんです」
お父さんとお母さんがきょとんとしている。
「「え?」」
「え?」
「見た目通りの年齢なんですか?」
「そうなのかい? 本当に? エルフじゃなくて?」
「はい」
「やっぱり成人してからにしなさい。ビアンカ」
「……ん、許可は得た」
「ビアンカ、お前はショタコンだったのか」
「ショタコンじゃない。見た目こそ実年齢」
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