愛してる
僕は翌日、彼にお礼を言われた。
母の病気がみるみるうちに回復していき兄も学校へ通えそうだと。
スペッロの母は弟が生まれた時、出血多量で植物人間になった。そんな母の意識が戻って、少しずつ歩き始めているらしい。
そんな話を聞き、僕は笑顔で涙を流し「おめでとう」と言った。
僕は泣くと頬と鼻が赤くなるので少し恥ずかしい。出来るだけ泣きたくないけど、涙が止まらなかった。
「うん、良かった」
僕は涙が溢れて分からなかったが、ビアンカの話によると、クラスのみんな全てが恍惚した表顔で僕を見ていたという。
その日、僕は顔を上げることが出来なかった。
※※※
一応、中学校にも武術という形で戦闘訓練があるらしい。
武術とは、いわゆる四大精霊を戦わせることらしい。
闘技場に四大精霊を出す。
使い手の一番弱い四大精霊同士を戦わせて、経験値を積ませるらしい。
僕の試合の番がやって来た。相手はビアンカだ。
僕と近いレベルがビアンカなので仕方ない。
僕は一番レベルの低いウンディーネを出す。
ビアンカは一番レベルの高いイフリートを出す。
「はじめ!」の合図と共に、イフリートのファイヤージャベリンが雨後の筍のように、数百本降って来る。
僕はウンディーネに巨大な水球を作らせ、ファイヤージャベリンを迎え撃つ。
水球に吸い込まれたファイヤージャベリンは水を沸騰させたが、蒸発させるだけの力は無かった。
「……ん、参りました」
僕は勝ったが、その能力に驚いた皆はビアンカの健闘に拍手を送ってくれた。
次は誰とやろうか決めかねていたが、教師がやりたがっていたので、教師に指導をお願いしてみる。すると、快諾を得たので闘技場に教師と立っている。
僕はウンディーネを出すが、教師はノームを出した。ウンディーネがアイスメテオ(ゴルフボール大の雹)を放つと、ノームは土の盾でこれを受け流した。
僕は直後、サッカーボール大の巨大な雹を作り、ノームにぶつけると、ノームとイフリートの合わせ技で、溶岩を作り、雹を蒸発させた。
僕は宣言する。
「参りました」
クラスメートからどよめきが起こる。
「先生がダンジョン踏破者に勝ったぞ」
「先生すげえ」
「アルコバレーノくん見てたから霞んでたけど、先生達も一級探求者ばかりなのよね。この学校」
「先生ってやっぱり凄かったんだな」
調子に乗った教師は、その後も生徒達と試合を行った。さすがに疲れたみたいだったが、全勝だった。
※※※
食堂。
「……ん、なんでさっき手を抜いてた?」
「手は抜いてないよ。まさか二人まとめて出すとは思わなかったのと、精霊使いとして、連携技が上手くいかなかったから負けたんだよ。まだ一度に一人しか出せないんだ」
「……むう。意外な弱点」
「……ん。でも召喚の儀の時にはまとめて出せてた」
「戦わないなら出せるよ。けれど、攻撃に使う時には二人以上は制御出来ずに暴走しそうで怖い」
「……なるほど」
「ビアンカは怖くないの?」
「……ん。私は子どもの頃から一緒に遊んでるから慣れてる」
「みんなは召喚の儀の時に初めて出したみたいだったけど」
「……ん。私は精霊達がいないと生きられなかったから」
「そうか。ごめん。女神王国領ではビアンカの村は端の端だったね」
「……ん。精霊がいなきゃ水も飲めないところだから。本当は早く村を豊かにしたい」
「ビアンカの村でも四大精霊はみんな呼び出せるんだよね。村も清潔だったし」
「……ん。精霊を呼べても家事育児にしか有効に使えない」
「……ん。でもアルコバレーノと一緒にいて戦闘が出来るようになった、私はついてる」
「そうだったね」
「……ん、そう」
「冬が来たら、一回村へと帰ろうか」
「……ん。そうする」
※※※
探索者ギルドに帰ってきた僕ら。
「ただいま」
僕が言う。
「……ん。おかえり」
ビアンカが返す。
「夕ご飯食べに行こうか」
「……ん」
僕らが部屋の扉から出ると、偽勇者改め本物の勇者達がやって来た。
勇者達に声をかけられ一緒にご飯を食べに行くことに。
探求者ギルドの六十階。僕らは旬のご飯が食べられるレストランへと入った。僕らはカボチャのスープを飲んでいる。
ヴァロローゾさん達に聞いてみた。
「なんかヴァロローゾさん達変わりました? いつもなら肉肉言ってるのに」
「最近、肉という肉を食べ尽くしてしまってね。季節を代表する食べ物が体にいいって思うようになったんだ」
「なるほど」
なんか納得してしまった。好きな物も食べ過ぎればやはり飽きる。
給仕が新しい料理を運んで来る。
「子羊のローストです」
「……」
「たまたまだからね」
ヴァロローゾさんがポツリと呟いた。
コース料理だから肉も運ばれてくるのは普通だろうに。
こういうところが放っておけないから……コホンッ、楽しいからこの人たちと行動を共にすることが多いのだ。
「……ん。ヴァロローゾは肉要らない?」
「いや、要るよ。要るから! 前言撤回させてもろて」
肉を頬張るヴァロローゾ。
「やはり肉は美味いよね!」
セドゥツィオーネさんはなんだかマダムな感じだ。
「旦那、私はまだ既婚者じゃないからね」
なぜ、見透かされたのだろう? 謎だ。
世紀末な男のピッチョットさんが一番丁寧にご飯を食べている。
「兄貴、これでも俺は子爵家の息子だったんですぜ」
そうなのか。
「やはり見た目じゃ分からないことが多いね」
「「「どういうこと?」」」
三人は真顔で突っ込んできた。
「兄貴は、王都にどれぐらいいる予定ですか?」
「う~ん。学校にも通い出したし、一度ビアンカの村に戻ったらまた戻って来る予定だよ」
「それは良かった。俺たちまたダンジョン攻略に行こうと思ってまして」
「蟻の巣穴だった方の?」
「そうでさあ。なんか消化不良って言うか。何か引っかかるんでさあ」
「僕も、そう思ってるよ。あのダンジョン攻略は簡単過ぎた」
「そうなんすよ。ドラゴンは兄貴以外に倒せる人間がいるとは思えませんが、蟻の女王を見てやせんので」
「そうだね。リポップするにしては、たくさんの巣穴を作ってそうだし」
「それです。あっしも思ったんですが、巣穴がダンジョン化してましたから」
「「やはり地下に女王がいる」」
今すぐにでも探索に行きたいくらいだけど、ビアンカの村のことがあるから、探索は後回しだ。
僕らはとりあえずやるべきことを片付けてから、合流してダンジョンに潜ることを決めた。
「ビアンカ、一度村まで戻ろうか?」
「……うん。蟻、気になる。けど、まずは大事なことを片付けてから」
「そうだね。しばらく休学して村まで戻ろうか」
「……うん。寒い地域に育つ野菜や麦を買っていく」
「じゃあ、明日は学校休んで市場へ行こう」
※※※
部屋へと戻って来た。
空は真っ暗だが、月が綺麗に出ている。
ベッドに座る僕、隣に座り、もたれかかるビアンカ。
「……。ずっとこんな日が続けばいいのに」
「僕も、そう思った」
「……なら」
僕はビアンカの言葉を遮って、言葉を返す。
「僕には、待っている人がいるから」
「……飢え死にするかもしれない、北の要塞に送った人?」
「うん。そう言われるとそうだね」
「……ん、なんて言われてたの?」
「僕が、この物語の主人公だって」
「……主人公? 愛してるとかじゃなくて?」
「うん。愛してるとかじゃなくて、主人公だって」
「……あ…して…る……」
「なに?」
深呼吸するビアンカ。
「……私は、あなたを、愛してる」
僕の唇に口づけしてくるビアンカ。
僕はドキドキして、ビアンカを両腕で抱きしめる。
僕はそのまま、ビアンカを押し倒した。
ビアンカは顔を紅潮させて、受け止めてくれた。
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