綺麗な人ほど真顔が怖い
中学校。
僕の上履きに画鋲が入れられていた。僕は笑った。
これがイジメってやつか。
僕は初めての経験だが、ここまであからさまに悪戯されていると、笑いが込み上げてきたのだ。
ぼくはザーッと画鋲を捨てる。その様子を見ていたのが同じクラスの男子達だったから、犯人は誰か分かってしまった。
僕は雷のように瞬間的に同じクラスの男子達に迫った。
迫った僕はニコリと笑うと、男子達が腰を抜かしていた。
ビアンカがやってきた。
「……ん。どうした?」
「いや、何でもないよ。同じクラスの男子だったから挨拶してただけ」
「……そう。ならいい」
「行こう、ビアンカ」
「……うん。行く」
「……今日は数学があるから憂鬱」
「村で数学は教わらなかったの?」
「……ううん。村では読み書き数学が出来るのは、昔行商していて、村長になったお父さんくらいだった。村の子どもたちはみんな、お父さんから読み書き数学は教わったけど。私は数学が苦手なまま」
学校の玄関に取り残された男子生徒達は、一瞬で迫って来たアルコバレーノに驚いて腰を抜かしていた。
「あの笑顔はズルいよな」
「あんな綺麗な男ずりぃよ」
「ラブレター入れようと思ったぜ」
「ああ、間違って惚れちまう」
「え? そこ? 一瞬で迫ってきたことじゃねえの?」
「「「「え?」」」」
「一瞬で迫って来たのは、ほら。あいつダンジョン踏破して男爵位貰ってただろ。昨日の四大精霊だって人型の大人だったし」
「なんでそんなやつに喧嘩売るんだよ」
「あの綺麗な顔、俺ボコボコに出来ねえよ」
「だよな。喧嘩売ってもどうせ勝てないし、出来れば好かれていたいからイジメなんかしねえよ」
「じゃあ、なんであんなに大量の画鋲上履きに入れたんだよ」
「怪我しない為だよ」
「二~三個入れて怪我されたら困るしな」
「どうしたら仲良く出来ると思う?」
「敵だと思われたから無理なんじゃねえの?」
「しばらく自重しようぜ、俺達」
「そうだな」
※※※
数学の授業中。
アルコバレーノを見つめる女生徒と一部の男子生徒達。
「なんか視線がいたいんですけど」
「ん、アルコバレーノの美貌のせい」
「美貌ってなに? 僕は男だよ」
「……ん、美貌は男でも女でも狂わせる」
「でも、ビアンカと魔森で遭遇した時は、普通だったじゃないか」
「……ん。私は、最初に出会った時アルコバレーノが女だと思ってたから」
ず――――ん、と沈んでしまう僕。
「僕がビアンカのこと可愛いと思っていた時に、ビアンカは僕のことを可愛いと思ってたの?」
「……違う。美しいと思ってた」
頭を抱える僕。
僕がポーカーフェイスを貫いていると、一週間後。
「アルコバレーノ様は何やら怒ってらっしゃるのかしら?」
「その、いつも怖い顔していますので」
「怒ってないよ」
僕は手を振って笑う。美人は真顔だと怖いのだ。とはいえ、尋ねてきた二人もかなりの美人だ。
「……ん。私も学校では機嫌悪いのかなって思ってた」
「じゃあ、これからは普通に笑ってるから」
「……ん。その方がいい。ポーカーフェイスは私の個性」
「ビアンカの個性なのはいいけど……ビアンカの背中には羽が生えて見えるよ」
「……ん、私は天使」
「そうだね」
「……むう」
ビアンカは顔を真っ赤にして不貞腐れる。
「本気で天使みたいに可愛いって思ってるよ」
「……むう。アルコバレーノの方が何百倍も天使」
「ハハ、ありがとう」
「本当のこと」
※※※
「今日は休みだし、買い物にでも行こうか?」
「……露店巡り?」
「それもいいけど、少し高めのお店にも入ってみようか」
「……ん、行く」
「よし、行こう」
僕らは辻馬車に乗って商店街へと向かった。
露店を散策して、食べ歩きする。鳥の串焼きなのに、なぜか豚バラがあった。珍しく思い、食べたら、豚の脂身が甘くこれがとても美味しかった。
たこ焼きという丸い粉焼きを食べた。中のタコというのがコリコリとアクセントになっていて、これも美味かった。
一通り屋台を回ってから、アクセサリーのお店に入る。
アクセサリーのお店は意外と狭く、防犯がとても強固になっていた。
僕とビアンカはそれぞれプレゼントを見て回る。
宝石が大きく埋め込まれた物や、宝石の小さいプラチナ(白金)のリング。子供用に昆虫をモデルにした形だったり、ぬこやわんこの形をしたアクサセリーがある。
様々あるが、僕は宝石の小さいプラチナのリングを選んだ。ビアンカもまた、同じものを選んでいた。
「……ん。これ、婚約指輪」
「え?」
「……ん、お互い一緒の物を選んだ」
「ちが、これは偶然で」
「……偶然は、形になれば必然に変わる」
「そうか、そうだな。何も考えてなかったけど」
「……それは、私でも傷つく」
「うん。ごめん」
「……ん、まあいい。これで学校の厄介ごとを片付けられるから」
「なるほど、その為に同じ指輪を選んでくれたのか」
「……ん。多少は」
「ん?」
僕は小さい声で呟いたビアンカの言葉を聞き取れなかった。
※※※
学校。錬金術教室。
「今回は、アルコバレーノさんとビアンカさんにエリクサーの作り方を学びましょう」
錬金術はこの国では廃れている。
今まで何度も挑戦してエリクサーを作ることが出来なかったからだ。
僕とビアンカは、今日は先生として教える側だ。
「まず、乳鉢と乳棒で魔核を粉にしていきます」
「次に精製水を入れて溶かします」
「次に、世界樹の葉を粉々にして精製水を入れ、混ぜてください」
「最後に魔力を注いだら完成です」
「先生! 魔力を通すことが出来ません」
「先生、こっちもです」
「それじゃあ、皆円になってください。手を握って。今から湧き水が染み出すように魔力を流します。皆も同じように次の人へと繋げてください」
「おお」
「ん……」
「ダメ……」
探求者ギルドの時と同じように、声を漏らす女子生徒達。男子生徒は気まずくなって、皆俯いている。
「先生魔力の放出が出来ました」
「私もです!」
「あたしも」
皆魔力操作が出来るようになったので、改めてエリクサーを作り直した。
「先生、緑色の液体が作れましたー」
「先生こっちもです」
僕が確認しに行くと、エリクサーを完成させていた。
「みんなエリクサーを完成させたことを確認しました」
「あら、こんなに簡単だったのですね」
「女神王国領は魔法社会で科学や、錬金術が廃れてしまった為だと思われます。とはいえ、王国領や帝国領ではエリクサーを生成出来ませんが」
「そうなのですね。では、錬金術を行使できるのは今のところ、私達女神王国領だけなのですね」
「公国領もありますが、エリクサーを作れたという話は聞きませんでした」
「では、これは私達にしか作れない技術になりますね」
「そうですね。エリクサーは私達赤目にしか作れません」
「皆さん聞きましたか? 錬金術を極めたエリクサーは私達赤目にしか作れません。誇ってください。私達は歴史上、初めて錬金術を物にしたのです」
「うおおおおおおおおッ!!!」
※※※
どよめきが広がっていく。特に生徒の後ろに控えていた教師達から感動の声が聞こえた。
一人の生徒が泣いていた。寝たきりになった母の薬が見つからなかったからだ。それを、学校で習うことが出来た。無理してでも学校に行かせてくれた、父に感謝しかない。少しでも早く治したくて、先生に許可を得て、家へと走った。父と兄弟三人。
学校へ行かず、すぐに働きに出て学費を稼いでくれる兄、まだ4歳になったばかりの弟、仕事を掛け持ちして、寝ずに働いてくれている父。
※※※
彼は錬金術を使ってエリクサーを作りたいと言っていた。それがあっという間に習得出来てしまった。
彼は今頃、家で母に薬を与えているだろう。
僕はその為に、何百年間も学校でしていなかった錬金術の授業を申し出たのだから。
明日彼の顔が笑顔でありますように。
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