そうして夜は明けていく
十階層へやって来た。
そこは、活火山のある森林だった。巨大なドラゴンが飛び交っている。
三十メートルは超えるドラゴン達。人間が入って来ても騒ぐ気配すらない。
僕らはビアンカの『マップスクロール』を使い次の階層のある地点を目指した。
そこへ向かうと、百メートルは超える大きさの灰色のドラゴンが鎮座していた。
「ほう、これは珍しい。数百年ほどのお客様だ」
僕はドラゴンの鼻息に吹き飛ばされないように踏ん張る。
「出来れば通して頂けると助かります」
「我を倒せば構わぬ」
「しかし、前の階で子どもたちが生息しているのを確認しました。もしかしてあの子どもたちの中に、あなたの子どももいるのではないかと」
「ハハハ、心配無用だ。我は数千年は生きて来た。過去にリザードマン達と出会ったが、瞬殺してやったわ」
「リザードマン達は二十五階層まで行って引き返してきたと聞きました」
「ハハハ、ありえぬ。我がリザードマンごときに敗れるなどと」
「寝ている間に通り抜けられた、ということは?」
「無い。それ以上に、この先はもう一階層のみ、魔法陣に包まれたら地上に出られる」
確かに、あのリザードマン達がドラゴンに勝てるとは思えない。しかし、嘘を吐くことでもない気がする。先祖のメンツの為? それとも実際に越えて来た?
僕はビアンカに改めて『マップスクロール』を使って貰った。
「……アルコバレーノ、他にもう一つ階段がある」
「え?」
「なんじゃと?」
僕らはビアンカの案内で、もう一つの階段へと向かった。灰色のドラゴンもそれに着いて来る。
「ここ?」
「うん、ここ」
そこは階段というよりは、急斜面だった。ロープを張って、僕が一番最初に降りる。
そこにはなんと、蟻の巣があった。金剛石蟻の巣だった。リザードマンはここから下に降りて行ったのだろう。ビアンカの『マップスクロール』を使ってもらって確認した。この階層にも階段がある。
「金剛石蟻が勝手に掘った穴みたいだね」
「金剛石蟻の奴め、余計なことをしおって」
灰色のドラゴンの方が正規ルートらしい。
正規ルートのドラゴンを倒して、下に降りるのが必要らしい。
僕はドラゴンのレベルを見る。300レベル。十分倒せるだろうが……。
喋るモンスターを殺すのは気が引ける。
「どうした?人間はモンスターを殺すものだろう」
「殺したくて殺すんじゃありませんよ。意思疎通が出来るのなら、殺す以外の方法もあるかと」
「だが、わしはこの為に生きてきたのじゃ。いざ、勝負!」
ドラゴンがブレスを放つ。僕は大剣をクルクル回して、これを搔き消した。
「ほう、やるではないか。では」
尻尾を振り回すドラゴン。ドラゴンの鱗が刃となって僕を襲う。ドラゴンがまた振り回そうとしたところで、僕が尾を切り落とした。
ドラゴンが咆哮した。
「姉御、旦那の手伝いした方がいいんじゃ……」
「……ん。私達が前に出れば足手まといになる」
今すぐにでも飛び出したかったろうに、震える手を押さえてビアンカは我慢してくれていた。
ドラゴンが再びブレスを放つ。
ブレスを僕に蹴散らされた頃に、その堅い顎門で噛もうとしてきた。僕は自らその口に飛び込み、歯を全て切り落とした。
ドラゴンは再度咆哮する。ビアンカ達は咆哮にやられて立ち竦んでいた。
僕は、ドラゴンの口から出ると、その後頭部に回り込み、剣の柄を叩きつけた。
ドラゴンは気を失ってしまう。
※※※
ドラゴンの前で野営していた僕ら。ドラゴンが目を覚ます。
「わしは……気を失っていたのか」
僕らを見つめるドラゴン。
「お前らは何をしておる」
「野営でご飯を食べてる途中だよ」
「そうではない。なぜ私を殺さなんだ」
「気を失ってる相手に止めを刺すのは、非道な気がして」
「お主は馬鹿か?」
「まだ、甘い夢を見ていたい年頃の馬鹿だよ」
「む? 尻尾があるぞ」
「僕らの魔術師に治療してもらったんだ。どう? 痛くないだろ」
「歯も生やしてくれたのか」
「……ん。私が治した」
胸の無い胸を張る少女。
「ハハハ! お前ら面白いな。いいだろう。わしが許可する。通って良いぞ」
「やった―――!」
偽勇者一行が叫ぶ。
「……やった」
ビアンカも呟いた。
階層を降りると、そこには魔法陣があった。魔法陣の中へと入ると、光り輝き、オリハルコンの装備一式が僕らの装備になった。
「おおこれは!」
「あたしなんか輝いてるね」
「おお、伝説の鎧だ」
偽勇者パーティーが本物の勇者パーティーになった。
「……むう、不満」
ビアンカが背負っていたウサ耳リュックが、普通の無地のリュックになってしまった。当然、オリハルコンの糸が編みこまれているのだが……。
僕は鎧を初めて纏った。あくまでも鉱石で出来ている為、重いかと思ったが羽のように軽かった。大剣もオリハルコン製だ。
僕らはそのまま、地上へと戻って来た。
※※※
僕らを見てダンジョンの管理をしていた職員が、「ダンジョン踏破者が誕生したぞー!」と走っていった。
僕らがギルドへと戻ると、お祭り騒ぎになっていた。
「さすがウサ耳パーティー!」
「お前らならいつかやると思ってたんだよ。ウサ耳パーティー」
「ウサ耳パーティーよくやった!」
「あれ?嬢ちゃんウサ耳のリュックはどこにやったんだい?」
「……ん。オリハルコン装備になる時ウサ耳が捨てられた」
「そっか、じゃあウサ耳パーティーは解散だな」
「どうしてそうなる?」
僕が答える。
「今まで偽勇者パーティーって言ってきたけど、本物の勇者パーティーになったんだ。もう僕は要らないね」
「そんな。おれたちにゃ、まだ兄貴が必要だ」
「そうだぜ、坊主。今回だって坊主がいなきゃ生き残れなかった。まだ一緒にやろうぜ」
「旦那、あたしは旦那にどこまでも着いて行くよ」
ビアンカが深刻な顔をして言った。
「私達はそろそろ進まないといけない。ダンジョン探索は終わり、次は学校へ入る」
「え、魔王国領にも学校があるの?」
「……むう。魔王国領じゃない。女神王国領」
「ああ、そうだった。なかなか慣れなくてさ。みんな魔王国領って言ってるから」
「……ん、私達が広めていくの。女神王国領」
「うん、分かってる」
「……これから学校へ通うから丁度良い。学校の先生達に、女神王国領と名乗らせたらいい」
「それはいいね」
「……ん。でしょ」
僕らを祝う盛大なパーティーが催された後、ギルドの寝室へと戻って来た。
「今日は疲れたね」
「……ん、疲れた」
「お休み」
「……うん、お休みなさい」
僕は途中で目が覚めた。まだ身体が熱い。熱があるわけでなく、単純に、興奮冷めやらず、起きてしまった。僕はシャワーで冷水を浴び、興奮を押さえようとしていた。するとそこに、痴女が現れた。
「……ん、真夜中にどうしたの?」
「いや、眠れなくてさ」
「……ふ~ん。それで水浴び?」
「ああ、熱を冷まそうと思って」
「……そう。私はまた寝る」
「ああ、お休み」
「……うん、お休み。まだ小っちゃいね」
「まだこれからだから! 伸び代あるから!」
僕はビアンカに言われたことが気になって寝付けなかった。
なんだかとても悔しい。
そうして、夜が明けていく。
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