魔力欠乏を治した
僕らは、魔王国領の最南端、ビアンカの村へと帰って来た。
荷馬車が百台も届いたのだ。皆驚いていた。
「これ全部食料か?」
「マジか? どんな交渉したらこんなにも食料が貰えるんだ?」
「まあまあ、食料はどれだけあってもいいわけだから」
「「「そうだな」」」
「凄いな、アルコバレーノくん。ビアンカ。よくやってくれた」
村長になったばかりのビアンカの父は若い頃行商をしていた為に、文字の読み書きが出来る。帳簿を読んでいると、その量の凄さがよく分かった。
「お金はどうすればいいんだ?」
「お金は魔王様から頂いています。残りを渡しておきます」
僕は、村長に金貨300枚を渡す。
ビアンカの父は目を見開いて、口をぽかんと開けている。
「金貨300枚あれば、この量の食糧がもう一回買えるではないか」
「丁度尽きていた世界樹の葉を買い足しておくか」
「あ、世界樹の葉は馬車の最後尾に積んであります」
「へ?」
「世界樹の葉はタダだったので、何枚か貰ってきました」
慌てて最後尾を確認するビアンカの父。
「で、でかい」
世界樹の葉は最後尾の馬車を埋め尽くす大きさだった。それが、五枚ある。
「世界樹の葉って元々こんなに大きいの?」
「貴重な物じゃねえのかよ」
「村では金貨十枚でこれよりも百分の一くらいの葉を買っていたぞ」
「エリクサー何本分になるんだ、これ」
エリクサーの話が出たので、早速作り方を教えて貰えないか聞いてみた。
「僕に、エリクサーの作り方を教えてくださいませんか?」
ビアンカの父が手招きする。ビアンカがやってくる。
「ビアンカ、アルコバレーノくんにエリクサーの作り方を教えてあげなさい」
「……元よりそのつもり。家の調合室で、教えてもいい? お父さん」
「ああ、構わないよ」
「……ん。エリクサーは神級モンスターの魔核と、エリクサーの葉を調合すると出来るの」
「神級モンスター?」
「……ん。魔森の深層にいる魔物がそうよ」
「そうか、だから強かったんだ」
「強いですむ話ではないんだけどね」
乳鉢と乳棒を用意した。
まずは硬い魔核をすり潰す。
次に精製水を入れる。
液体となった魔核をメスシリンダーに入れる。
次に同量の世界樹の葉をすり潰し、メスシリンダーに入れる。
同量を入れたら、魔力を与えて、赤色になったら完成。
「……ふう、完成した」
「魔力を細かく調整するのが大変そうだね」
「……よくわかった。そう、魔力の微調整が大事」
僕はビアンカの真似をして調合してみた。
僕のエリクサーは紫色に変色した。
「あれ、失敗した?」
「……失敗じゃない。最高品質のエリクサーが完成した。やっぱりアルコバレーノは凄い」
あ、そういえば魔核を攻撃した時に緑から赤、赤から紫になるのを思い出した。
「そうか、高い魔力を加えると紫になるのか」
「……ん。そうみたい。魔導書にはそう書いてある」
「へえ、試してみたいな」
「残念だけど、今は村に患者がいない」
「患者がいないのはいいことじゃないか」
「…ん。そう思う」
「じゃあ、冒険者として活動してみよう」
「……ん。冒険者登録したから」
「そうだよ。依頼をこなしてみよう。確か不治の病に罹った病気の治療の依頼もあったはず」
※※※
魔王南領で最大の町へとやって来た。世界樹産の食糧を運ぶ分岐点だから大きいのだろう。村にも冒険者ギルドはあるが、ここには最北端で最大のギルドが存在する。
この町は王都に次いで大きく、比較的に貧民も少ない。しかし、白魔術師も多いことから錬金術師が少ない。錬金術師が少ないということは、エリクサーを作れる人間も少ないということだ。
神の敵と言われている魔王国では、魔王そのものが神であり、信者も多い。四大精霊を呼び出せる住人が多く、白魔術師、黒魔術師の適性を持つ人間も多いのは、そんなエルフが神格化されており、生まれた直後に魔核を埋め込むという洗礼の儀を受けているからだ。
魔王国というより、エルフの里は長寿のエルフの知識が溢れる宝庫だ。
それだけに失われていく技術もまた存在する。魔法文明の中心地からは科学や錬金術などの技術が失われつつあった。まあ、探せば書物の中には存在するのだが。
人間国に近い最南端の土地には失われつつある技術が未だに大事にされており、残っていたのは奇跡のようなものだ。魔核を付与するという技術が、魔力の多い者達ばかりを生み出し、消えかけていた。そんな中、巨大な魔物と戦えず、小さな魔核しか埋め込めない国の最南端では、何より錬金術が大事にされていた。
ビアンカが訓練場に人を集め、錬金術を冒険者に教えてみる。しかし、魔力を付与するところで躓く。それはまさに、自分の魔力に頼り生きて来た副作用のような物だった。
なかなか付与出来ない冒険者達が痺れを切らして出ていく。
「俺達に錬金術は向いてねぇ! そんなことより魔物討伐の方が救える人々がたくさんいる。適材適所ってやつだ」
「……上手くいかなかった」
「まあ、仕方ないよ。みんな自分達の魔力で生きてるから、魔力を取り込んだり、付与したりするのが苦手なんだよ。僕だってそうだったし」
「……アルコバレーノはなんで魔力を操作出来るの?」
「この歳になって自分の魔力じゃない魔力を取り込んだからだと思う。赤い目になってから魔力が僕には見えるんだ」
「……そう。それは私とも違う魔力操作」
「ビアンカはどうして魔力を操作出来るの?」
「……ん、私は最初から出来た」
「ビアンカは天才だね」
「…違う。私の村では小さな魔核しか取れない。だから、自然から魔力を受け取ることを最初に覚えただけ」
「十分天才だと思うけど」
「……私の村の村人なら誰でも出来ること」
「じゃあ、村人がみんな天才なんじゃない?」
「……それは、分からない」
「まあ、いいさ。それよりも依頼を受けよう。僕たちにしか出来ないんだから」
「……ん」
僕らはまず最初に、軽い病人のところへと向かった。
家に辿り着くと、そこは年季の入ったレンガの家だった。
中からは疲れ果てた壮年の男女が出てくる。
「冒険者ギルドから派遣されたものです」
「あの、正直お金があまりないんです」
「それは、依頼書で読みました。僕らはお金を取れるところからしか回収しません」
「……大丈夫。事情は承知してる」
「ありがとうございます」
「さあ、中へどうぞ」
家の中に入ると、部屋にそのまま案内された。
「三歳くらいまでは元気だったのです。ですが、10歳になってから寝込むようになってしまいました。白魔術師の神官様も何度か呼んだのですが、快方には向かわず……」
「口から液体の薬を摂取することは可能ですか?」
「最低でも一日に一回、水を飲ませているので可能です」
「それでは、娘さんを起こしてあげてください」
「ローザさあ、お薬だよ」
僕の作ったエリクサーを一口含ませると、彼女はみるみるうちに、元気な姿を取り戻していった。
「お父さん。お母さん。迷惑かけてごめんなさい」
「馬鹿、子どもが親に迷惑かけるのは当たり前だ」
「そうよ。それに迷惑なんかじゃないわ」
三人抱き合ってポロポロと涙を流す。
僕らはそれを見て涙を流すと共に、ハイタッチした。
ギルドへと戻ると、依頼完了の紙を渡す。
直後、ギルド長が出てきて、僕らに息子の病を治せる薬を調合してくれと頼んだ。
話しを聞くと、ギルド長の息子も魔力欠乏の症状が出ているらしい。
僕らはその日、最北端の冒険者ギルドの依頼である不治の病の全てを治して回った。
魔力欠乏の大きい病人もまた、治癒できた。
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