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魔王陛下と謁見した

 魔王陛下と謁見した。


 僕はビアンカに連れられて村へとやって来た。


 小さく寒風が吹き荒ぶあちこちに穴の開いた家を想像していたのだが、家の様式は僕らの家と大した差はなかった。


 立派なレンガの家で、風の入る隙間も無い。窓ガラスまで嵌められていたのは正直驚いた。王国だと高価そうな家だ。それが村の一般的な家だという。


 村の一角には、なんと冒険者ギルドも普通に機能し、魔族以外の人族も普通にいた。


 僕はそこで冒険者登録をし、各地を巡った。


 そう、どうしても世界樹をこの目で見たかったのだ。僕は、遠くから見ても明らかに大きな樹を見上げている。雲を突き抜けてもなお高いところに見える。魔王領に入って二か月が過ぎ、三か月目に入ろうとしているのに、未だ遠い。


 魔王国にもスラムがあって人間とのクオーターは差別されている。赤い目を持っていないからだ。


 魔王国では洗礼の儀と称して、幼い赤ん坊に魔核を埋め込むことが条件づけられている。


 しかし、一部の人族がこれを反対し、抗議を上げ、人権を訴えている。


 わざわざ抗議しなくとも、人間の治める土地に行くことだって出来るのに…だ。


 なぜわざわざ留まって対立し合うのかは意味が分からないが、生まれ育った環境はどうにも捨てがたいのだろう。


 さて、ここまでビアンカと二人でやって来たのだが、最近はどうにも面倒くさい連中に捕まってしまい苦労している。


「なあ、兄貴。そろそろ休まねえか?」


 10歳の僕を兄貴と呼んでくるスキンヘッドの輩。


「ねえ旦那~今日こそはホテルでいいことしましょうよ~」


 胸元まで空くように、ローブを着崩している痴女のショタコン。


「聖剣はあの世界樹の下にあるはずだ」


 魔王領で聖剣を求める自称勇者。


 皆人間族だが、人懐っこい。連れて来た僕のペット、ウサギのポチにさえ兄貴と呼ぶ始末。


 居酒屋兼宿屋に入る。僕は道行きで魔物を狩ると、ギルドで換金して旅費に当てていた。三人組は魔物も倒せず、旅費も無い為、10歳の僕に着いてきた形だ。


「ねえ、三人とも僕と一緒に戦闘しようよ。経験値も増えるし、お金も得られるよ」


「兄貴! それはいい案ですね! 兄貴が瀕死に追い込んだ魔物に最後の一撃を加えたらいいと言うことですよね」


「それなら私も賛成よ。私の清らかなる肌に傷をつけずにすみますわ」


「はあはあ、俺も賛成だ。もう少しレベルを上げて体力を付けなきゃあそこまで百年かかっちまう」


 そういうつもりじゃなかったんだけど。


「まあ、旅程が短くなるなら、いいか」


「……アルコバレーノ、こんな連中放っとけばよかったの。白目は足手まといになるだけ」


 ビアンカが呟いた。ビアンカも世界樹が見たいと着いてきた。


「姉さんそれは酷ってもんですぜ」


「黙りなさい。ロリには興味ないのよ」


「嬢ちゃん、速くレベル上げて足手まとい卒業するから勘弁してくれ」


 僕は、魔物の多い道を歩いて行く。


「ひいいいッ!ケルベロス」


「兄貴! 任せやした」


「旦那、期待してるよ」


 僕は一瞬でケルベロスの頭を一つ殴り飛ばした。今ケルベロスの他の頭は気を失っている。


「さあ、今だよ。みんな、止めを刺して」


 みんなに片手剣を渡すと一人一人ざくりと刺していく。


「おお、これはすげえぜ兄貴!」


「まあ、お肌の潤いまでアップしたわ」


「おお、勇者の鎧が軽くなった」


 これを二時間ほど繰り返すと、


「うおおお、敵が弱いぜ兄貴!」


「あらまあ、まあ、まあ、まあ! 私の肌は赤ちゃんにも負けませんわ」


「くらえ、勇者スラッシュ! おお、敵がゴミのように散っていくぞ」


 とりあえず自信をつけた三人組。ビアンカと一緒に僕について来る。


 ※※※


 僕は間近で世界樹を見上げている。まさに壁だ。ここを登ると、魔王がいるらしい。


「ここを登ると魔王がいるんすね! さっさとやっつけちゃいましょう」


「ここに魔王がいるのね。魔王を倒せば私の肌は赤ちゃんを超えますわ」


「ここが魔王の居城か。勇者の剣はどこにあるんだ?」


 世界樹の根に着いた。


 鍛えたおかげで身軽な僕らは、一ヶ月かかるはずだった蔦登りを、三日だけで終わらせて頂上へと辿り着いた。


 今、目の前には魔王城がある。


 魔王城の警備兵が、なぜか扉を開けてくれた。


 僕とビアンカが入ると、ほか三人は締め出される。抵抗するがあっという間に屈服されてしまう。


 魔王城に入ると、透き通った衣を着た、白金の髪をした見目麗しいエルフが迎えてくれる。


 しばらく見惚れているとビアンカの肘が横っ腹に入る。僕が膝をつくと少し驚いた顔をする魔王。


 ビアンカも慌てて膝をつく。


 魔王が僕の頭に手を置く。


「あなたからは不思議な匂いがします。あなたは魔族ですか? それとも人間ですか?」


「僕は人間です」


「あなたは私を殺しに来たのではないのですか?」


「いいえ、ただご尊顔を拝見させて頂きたくやって参りました」


「珍しい人種もいるのですね」


「私にとって魔族とはビアンカなのです。彼女は人間にも区別無く優しい少女でした。もっと好戦的な魔族と深く知り合っていれば、魔王陛下を討伐に来たかもしれません」


「フフフ、率直な意見ですね」


「はい、ところで、一つお伺いしても構わないでしょうか?」


「なんでしょう?」


「陛下の治めるこの大地は、北と呼ぶにはとても暖かく食料にも困っていないように見えます」


「ええ」


「それなのに、なぜ南の方では民が飢え、戦争を繰り返しているのでしょう?」


 頭を抱える魔王陛下。


「団結には敵が必要なのです」


「団結…ですか?」


「ええ、南や西や東にはそれぞれ、違う神を信奉する国があります」


「違う神を信奉する者たちがまとまるには、一つの敵を持つのが早い。その国々が、我が国に弓を向けるのです」


「しかし、戦のせいで南の民が飢えていることには、気づいておられたのでしょう」


「ええ、ですが。魔王領にもいるのです。戦争の為に政治を行う者達が。戦争は、商人達を肥え太らせます。そんな商人達に向けて戦争をする貴族が、少なからずいるのです」


「どこも同じということですか」


「ええ。あなたなら、この状況を何とか出来ますか?」


「では、商人に不利益が出ると思わせたらどうでしょう?」


「不利益?」


「はい。商人たちが稼げない戦争をしてみてはどうでしょうか」


 ※※※


 僕は偽物の帳簿を魔王城の官僚に書かせると、空の荷馬車を百ほど借りて南へと向かった。


 僕は、ビアンカを連れて、商人ギルドへと行った。ちなみに偽勇者含む三人は世界樹に残った。


「魔王陛下からのお達しです。これより、戦に使う食糧を魔王軍が買い付ける時は、商業ギルドは平時のままの金額にせよとのお話です。また、商業ギルドが民間から買い付ける時は、平時の10%高く買えとのことです」


「平時の10%増で買って平時の金額で売る? 誰がそんなものを買うのですか?」


「では、魔王軍は買いません。これは、南の魔王領が飢えない為の陛下の英断です。破ることがあれば、この国ではもう商売は出来ません」


「戦が出来なくなって配給が配られず困るのは魔王領の民達ですよ」


「人間達は魔王軍を怖がっていますから、戦わないのならその方がよいのです。王国、帝国からは既に和平案が出されています」


 若手の職員を手招きして呼ぶ受付の職員。若手職員の耳に手を当て口を寄せる。


「ちょっと、ぼそぼそ(調べてくれるかしら?)」


「しばらくあちらでお待ちください」


 ビアンカが拍手をして僕を礼賛してくる。


「……ん。アルコバレーノ、帝国とも王国とも話が出来て凄い、偉い」


「二国とも戦争で疲弊してたからね。まさか、魔王国に帝国と王国の大使館があるとはおもわなかったけれど」


 僕の頭を撫でてくるビアンカ。


「ビアンカは本当はいくつなんだ」


 ビアンカが僕の額をデコピンしながら言った。


「……ビアンカは13歳。女の年齢を聞くのは失礼」


「アルコバレーノ様。受付までお越しください」


 受付の女が神妙な面持ちで迎えた。


「失礼しました。あなた方のおっしゃる全てが正しかった。ですが…」


「食料は相場の10%高くして、魔王様にお返しします」


 冷たい目をして受付の女は笑った。


「いえ、食料は実は世界樹に溢れているのです。申し訳ありませんが、腐らせるのも勿体無いので、商業ギルドの皆さんで頂いちゃってください」


「はい?」


「何か?」


「いえ…」


「それでは、平時の5%で買い取って頂けないでしょうか?」


「そろそろお暇します」


「それでは、平時の値段で買い取って頂けないでしょうか?」


「うーん。それならば…仕方ないですね」


 ※※※


 僕らはビアンカの村に近い中では、最大の町に泊っている。


「……食料が溢れてるから要らないと言った時はびっくりした」


「10%増の値段で買うわけにはいかないからね」


「……アルコバレーノは駆け引きが上手。魔森の魔物を狩った時もそうだった」


 ちなみに、ビアンカの村を治めていた貴族は解任された。代わりに、ビアンカのお父さんが村の村長となり、村を治めていくことになった。


「……むう、お父さんが村長になったのは少し心配……アルコバレーノがなってくれたらよかったのに」


「僕にも帰るところがあるからね」


「……むう」


「まあ、もうしばらくいるから」


 街灯がついて空にも光の道が出来る頃、僕らは泊っている宿屋へと辿り着いた。


楽しんで頂けたら評価をお願いします。

つまらなかったという方もつまらなかったという評価をお願いします。

<(_ _)>

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