別視点 その頃王国では
その頃王国では、アルコバレーノの死が噂されていた。
伯爵家では、盛大な祝いが催され。
「アハハ、あやつが死んだとなれば、次は弟のチェロが聖女様の婚約者になる番だ!」
「良い日ですね。お父様」
「ああ、とても良い日だ。さあ、食え食え。こんな豪勢な料理は王城のパーティーでも出ぬぞ」
伯爵は一時的に領地の税金を上げ、豪華な食事を楽しんでいた。しかもそれだけではない。アルコバレーノが確実に死んだと噂されると、税金の値上げを恒久的なものとし、フォルマーレ王女殿下にチェロの名前で度々派手な品を贈りつけていた。
「ああ、チェロよ。家は最低でも侯爵家、最高なら公爵家になれるぞ。そして、聖女様の予言で豊かな土地になるだろう! こんなに素晴らしい日が来るなんて思ってもみなかった。あやつを追い出してからは聖女様があやつの婚約者として噂され、離れていった貴族どもが、今は平身低頭で我らの顔色を窺っておる」
「はい、父上。我々の時代がやって来るのですね」
「ああ、そうだ! そうだとも! 我々の時代がやってくる。我が領地が王都を上回り栄える日がやって来るのだ!」
伯爵を蔑む目をした家臣が多い中、チェロが一人拍手をする。
「本当に素晴らしいですね。諸君!」
その言葉に、蔑んでいた家臣たちもまた拍手をした。
ダンスホールに客はいないが、拍手で埋め尽くされる。
「我らの時代がやって来たぞ」
※※※
学校。
ロッソが言った。
「先生ちゃん、ほんとにアルコバレーノは死んだのか?」
黒板に術式を描いている幼女先生が返す。
「ええ、私はそう聞きました」
「あんなつえー奴が死ぬなんて、そんなこともあるんだな」
「なんでも再生力の高いアンデッドの群れが相手だったとか」
「なんでアイツは一人でそんなところに行ったんすか?」
「さあ、ギルドの任務だったと聞いてますが、任務内容により秘匿されているので直接の原因はわかりません」
「せめて俺らに頼ってほしかったっす」
幼女先生は教壇の前に立ち、真剣な眼差しで語る。
「あなた達は、死なないでくださいね」
「俺は死なねぇっすよ」
「皆さんも、死なないで戻って来てください。よいですね。必ずですよ」
みんなが見合って頷く。
「「「はい」」」
※※※
王宮では。
「姫様、食事を召し上がらなくては身体に悪いですよ」
ばあやが言った。
「アルコバレーノ様が心配で食べる気になりませんわ」
「フォルマーレ様が言ったのですよ。帝国の北の要塞に送りなさいと」
「あれは、ベストでもベターな選択肢でもありませんでした。最低限生き残る可能性がある土地を選んだだけですわ。バッドな選択肢ですわ。心配になるに決まってます」
「国王陛下に説得はしたのでしょう?」
「お父様は私の言葉に耳を傾けては頂けませんでした」
「あら、珍しいですわね。陛下がフォルマーレ様の言葉を聞かないで判断するというのは」
「あの馬鹿勇者のせいですわ」
クッションをベッドに投げつける王女殿下。
「あの馬鹿勇者がアンデッドのスタンピードを引き起こし、アルコバレーノ様を嵌めたのですわ!」
「まあ、姫様。この国の勇者様がそんなことをするわけがないじゃないですか」
「馬鹿勇者が勇者の座を守る為にアルコバレーノ様を嵌めたに決まっています。アンデッドの群れでなければ彼に傷を与えることすらできないはずだったのですから」
「なんだか見て来た者の言葉のようですが?」
「ええ、ええ、実際に何度も見て来た光景ですもの」
「今日のフォルマーレ様は冷静じゃありませんわ。誰か、誰か!」
侍女たちが集まってくる。
「お呼びでしょうか。侍女長」
「何か食べやすい物を持って来てくださるかしら」
「はい、すぐに」
「あとの方は姫様の着替えを手伝ってちょうだい」
「まだ眠くないですわ! ばあや!」
「考えるのに疲れたら寝るのがよろしいのです。子どもが国のことを考え過ぎなのです。まだ幼いのですから、遊ぶことでも覚えたらよろしいのです」
「もう! 中身は子どもではありませんわ!」
「なにをおっしゃるのです。十歳は子どもです」
「中身は十歳ではありません」
ばあやが首を傾げる。
「姫様、今日は本当にお疲れのようですわね。眠りましょう。眠りつくまで、ばあやが横で手を握っていますから」
「侍従長、お菓子をお持ちしました」
「侍従長、パン粥をお持ちしました」
「侍従長、果物のコンポートをお持ちしました」
寝間着に着替えさせ、ベッドに座らせると、テーブルを運び、運んできた料理を全てテーブルに乗せた。
よだれを垂らすフォルマーレ王女殿下。
「くッ、十歳の身体が欲望に忠実になってしまいますわ」
「ああ、ばあやは私を太らせてどうするつもりですの!?」
「決して太らせません。太ったらアルコバレーノ様と再会する時に誰かわからなくなってしまいますでしょう。でも、今日は特別です」
「ああ、美味しい、美味しいですわ! 料理長をここへ」
フォルマーレ王女殿下の部屋に料理長がやって来る。
「あなたの作るお菓子にとても満足致しました。また、作ってくださいね」
「はい、いつでも、聖女様の頼みとあらば。ですので」
料理長は耳打ちした。
「また新たなお菓子を教えてくださいね」
こうして王都に夜の帳が下りていった。
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