帝国に送られた
猿轡、鉄の手枷をされ帝国に送られる僕。
着いていくのは勇者パーティーだ。
「途中で正気を失って暴れられたら困るからね。僕たちが帝国の北の要塞にまで送り届けることになったよ」
「一ヶ月の旅だけど、猿轡と手枷は外せない。悪いけど食事は取れないと理解してくれると助かる」
「……」
僕は無言で勇者を睨みつける。
「そんな顔しないでおくれよ。魔族はたかだか一ヶ月程度で飢え死にしたりしない。お腹は空くだろうけどね」
「なにより、万全な状態の魔族を帝国に引き渡すのは、帝国兵に死んでくれと言ってるようなものだからね」
僕はうつむいて目を瞑った。
ここから一ヶ月何も食べられないのはいいが、お腹が空いて仕方ない。僕は主張できないので、ただ我慢するしかなかった。正直、手枷、猿轡を外すことは簡単なことなのだが……。
僕は片手でジェスチャーをして、紙とペンを貰い、主張したいことを書いてまとめた。
【水も飲めないのですか?】
「ああ、水も与えることは出来ない」
【要塞に着いても食事を貰えない可能性もあるのでは?】
「ああ、その可能性も高いね。なんせ、北の帝国は魔族を神の敵だと称しているからね。一年は食事を取れないことを覚悟した方がいいかもしれない。姫様も残酷だね」
【一年も食事を貰えなければさすがに死んでしまうのでは?】
「かもしれない。分からないとしか言えないけれども」
【勇者様はこれがお望みだったのですか?】
「ククク、ハハハッ! 面白いことを言うねぇ。そうだよ。きみが邪魔だったんだ。聖女が推薦したらきみが本物の勇者となってしまう。まあ、まさか生き残るために魔族になるとは思いもしなかったけれども。きみはとても興味深いよ」
【僕は北の要塞に着いたら殺されますか?】
「いや、そうとも言えないね。北の要塞には君の同胞がいるからね」
【同胞?】
「人間と魔族のハーフだよ。帝国には神の敵といいながら、魔族と恋をする人間たちが少なくない。むしろ、北の凍る大地で食料が得づらい状況を支援しようとする声もあるほどだ。両親のどちらかが、魔族の場合助けたくもなるんだろう」
【王国で知らされている状況とは随分と違うんですね。王女殿下はご存知だったのでしょうか?】
「知っていただろうね。じゃなければ、きみに死ねと言ってるに等しい」
「きみは聖女様に感謝すべきだね」
【あなたがそれを言うんですか?】
「アハハ、確かに。おかしな話だ。きみを殺そうとしたのは僕なんだから」
【じゃあ、要塞まで我慢すればご飯を食べれるというわけですね】
「そうとは言えない。要塞に配られる食料も限られているからね。余所者に配給される食料があるといいね」
【随分と厳しい場所のようですね】
「もちろん。神の敵に認定された帝国民の魔族達が魔族と戦ってる土地だからね。大半の帝国民は要塞を守る同胞の魔族達も死ねばいいと思っている」
【魔族は…悪なのですか?】
「まさか、僕らと同様に平和を願っている人々だよ。亜人と同じように一つの種族さ。食料に困って帝国を襲うほど追い詰められているだけのね」
【なぜ勇者様は、そこまでわかっていて魔族に手を差し伸べないのですか?】
「それは、魔族を助ければ僕らが勇者の称号を剥奪されるからさ。きみが思うよりも、魔族達への認識は災害に等しいものばかりだから」
【たしかに、魔族達を放っておけば食料を奪われるのなら、災害の一つですね】
「いやあ、理解が早くて助かるよ」
【でも、助け合えれば力強い隣人が生まれることになりそうです】
「そうだね。助け合えれば、帝国にも心強い仲間が出来るだろうね。さあ、そろそろ帝国に着くよ」
※※※
帝国内。王国とは異なり、石積みの外壁が何重にも張り巡らされている。
関所を五回ほど通ると、ようやく帝都へと着いた。
帝都へ着くとそのままお城へと向かう。
お城の跳ね橋を通ると、王城へと入る。馬車を降りると、あちらこちらから、「魔族だ!」
「なぜ王城に魔族が?」「とにかく殺せ!」「魔族を城へ入れるな!」と騒々しくなった。
勇者が警備兵に書状を渡すと、数分してすぐに謁見の間へと通された。
帝国皇帝、謁見の間。皇帝の前で膝をつく勇者パーティーと僕。
「サルデーニャ王国の勇者殿、なんとまあ、余計な者を連れて来てくれたものじゃ」
「申し訳ありません。王命ですので」
「そうじゃな。其方を責めるのは筋違いじゃな」
「北の要塞へと連れていくのは了承した。じゃが、ここしばらくの飢饉で、飢えた魔族がたくさんおる。言いたいことはわかるな」
「はい、この者が食べられる危険があるということは承知しております」
「分かっているならよいのじゃ」
「其方もよいのじゃな?」
僕はこくりと頷く。僕は勇者から聞いた話で、それくらいなら覚悟していた。問題は、要塞からも魔王領からも敵と見なされるかもしれないということだ。
「ならば、王国の勇者殿の同行はここまでじゃ。ここからは我が帝国の者が同行する」
直後、僕は後頭部を何かで殴りつけられ、気を失った。
※※※
北の要塞。
僕は凍えるほど寒い牢屋の中で目を覚ます。
檻の向こうから声が聞こえる。
「おーい、おーい。やっと起きたな」
僕は完全に目を覚ます。檻の外には赤い目の人間? がいた。
「坊主、お前なにしたんだ? ここに運ばれてくるまで、猿轡と手枷されて、気絶するほど殴られて、檻の中に入れられるなんて」
ぼくは檻を素手で握り、訴えた。
「水…水をください」
「あいよ。誰か水を汲んできてくれ」
僕はビールジョッキほどのサイズの水を一息に飲んでしまう。
「はあ…生き返った」
「もう一杯持ってきてやれ」
「坊主は王国から来たらしいな。まさか、同胞が南の方から来るなんて、思ってもみなかったぜ。俺の名はビスタだ。一応この要塞のトップをやってる」
鍵を使って牢屋を開ける赤い目の人間。名をビスタ。茶髪に無精髭の優男だ。
「坊主の目は父親似か?母親似か?」
「いいえ、どちらにも似ていません」
「なら、どうして目が赤いんだ?」
「魔核を、身体に取り込みました」
ぽかんと口を開けるビスタ。
「そりゃあ。また…暴走しねえだろうな?」
「暴走ですか? 大丈夫です。理性は保っています」
「おう…そうか。まあ、それならいいんだが」
水を持ってきてくれた兵士が焼けた肉を運んでくれる。
「魔森で取れた白クマの肉だ。味付けは塩だけだが、美味いぞ」
僕はナイフとフォークで丁寧に食事を取る。
「おや、随分と丁寧に食べるんだな。まるで貴族様みたいだ」
「一応、貴族でしたので」
「ほお、更に珍しいや」
「ビスタ様もどうぞ」
「ああ、ありがとよ。お前らも飯にしな」
「はい」
肉を運んでくれた兵士がぺこりとお辞儀をする。
「坊主には15歳になるまでここにいさせろというお達しだ。何が起きたか詳しく聞く気はねえが、自我を失うんじゃねえぞ。駆除対象になっちまうからな」
「あの…ここには魔族との混血も多いと聞きましたが、どうして要塞の兵士と魔王領の住民に出会う機会があるんですか?」
ビスタが肉を頬張って食べている。
「ああ、あんなあ、魔王領には十分に食べ物が行き渡ってねぇ。むぐ、ごくん。だからよお、たまにここに食糧を求めて住民がやってくるんだ。俺の母親もその一人でな。要塞の兵士だった親父と恋に落ちちまって俺が生まれたわけよ。まあ、ここで生まれた子どもは百パーセントと言っていいほど、ここで過ごすことになるんだ。だからよお、おめえみてぇに外部からやってくる魔族なんて初めて見たぜ」
「あの、ここでは食料が乏しいと聞いたのですが。僕は頂いても良かったのですか?」
「ああ、次はいつ食べられるかわからないから、今のうちに食っとけよ。今日は魔森から白クマがスタンピードしてくれたから良かったがな。ガハハッ」
ビスタは笑って二枚目の肉を頬張った。
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