17 待っていた男
「黒須がここにいるのね」
裕美は学園内の研究棟に足を進めた。
棟内は照明一つ点いていない薄暗い場所ですぐ奥には上の階に行く階段があった。
入口の左側には廊下が続いている。
裕美は階段を上った。六階まで途中立ち止まることもなく。
そして、六階のある一室の前で足を止めた。
「ここだ」
裕美はドアを開けた。
真っ暗な部屋。
裕美が室内に入ると、突然照明が点いた。
「!」
室内は虫で真っ黒に覆われていた。
裕美の足下では蜘蛛や百足が無数にうごめいている。
裕美は表情一つ変えず、奥の部屋へ進んだ。
その部屋は畳二畳ほどの小さな部屋であった。その部屋も裕美が入ると、自動的に照明が点いた。なぜかこの部屋だけには虫は入ってこない。
裕美が足を一歩踏み出したところで後ろのドアが自動的に閉まった。それと同時に部屋がガクンと揺れる。
「エレベーター?」
裕美は部屋そのものがゆっくりと下に降りていることに体で感じた。
二分後、部屋の震動が止まった。
ドアの向い側の壁がシャッターのように上昇した。
「これは――」
裕美の目の前には長い通路が現れた。真直ぐな一本道で距離は五〇メートル以上ある。
裕美はためらうことなく部屋を出て、通路を歩きだした。
「博士、聞こえますか」
裕美は腕時計型の無線機に話しかけた。しかし、雑音以外は流れてこない。
「ここでは無線は無理か」
裕美は通路の終着点であるドアの前で立ち止まった。
ドアにはノブのようなものはなく、右側にテンキーの付いたカードリーダーが備えつけられていた。
「パワー・セーブ、オフ」
裕美の言葉で彼女の髪と瞳が青緑色に変わり、体がエネルギーの膜に包まれた。
裕美がドアを両手で押すと、ドアが飴のようにドロドロと溶け、手が中へ入っていった。
裕美はそこから両手でドアに円を描き、中をくり貫いた。
裕美はドアにできた丸い穴から中へ侵入した。
「待っていたよ」
裕美を待ち受けるかのように部屋の奥の肘掛け椅子に男が座っていた。
「黒須」
裕美は男を見た。
「ノックをすればドアを開けてあげたのに、せっかちな人だ」
黒須はワインを飲みながら、言った。
「この部屋は――」
そこは部屋一面にいくつものモニターが埋め込まれたコンソール・ルームであった。
「ここで学園を監視していたというわけね」
「まあ、そういうことだ」
「生徒たちは助けたわ。あなたの計画もこれで終わりよ」
「大したお嬢さんだ。全く嫌になる。ぜひ君の名前を聞きたいねえ」
「日高裕美よ。名乗ったところであなたにはわからないでしょうけど」
「僕は黒須和馬だ。以後、お見知りおきを」
黒須はグラスを少し上げた。
「もう会うことはないわ。あなたはここで死ぬんだから」
「死ぬだって。さて、どうかな。僕の遠大な計画を探り当てた君たちには敬意を表しておこう。しかし、生徒たちの洗脳を防いだぐらいで、僕の計画がストップするとでも思っているのかい」
「あなたが外人墓地に隠しているサイボーグたちのことなら博士が何とかしてくれるわ」
「ほお、あの男一人で何ができるというのだ」
「モニターで観てみたら。あるんでしょ」
「いいだろう」
黒須はリモコンのボタンを押し、モニターの一つを外人墓地のカメラに切り替えた。




