15 戦闘
月曜日。
午前八時、桜華高校にはいつも通り学生が登校していた。
普段と全く変わらない朝であった。
今日は全校社会科見学と言うこともあり、生徒たちは教室へは向かわず直接体育館に集まっている。
三〇分後、学園の全生徒が体育館に集合した。
多少ざわつきながらも全員が各クラスごとに列を作って並んでいる。
教師は全員生徒の前に立っていた。
「これより朝礼を始める。全員静かにするように」
壇上の教頭がマイクで生徒に呼びかけた。
壇上に校長が上がる。
「全員気をつけ。一同、礼!」
教頭の合図で全生徒が校長に礼をする。
校長が挨拶を始めた。
「おはようございます。本日は全校社会科見学です。今日という日はみなさんにとってもわたしたちにとっても大事な日です。なぜなら、今日はみなさんが組織の先兵となって、東京を占拠するのですから」
校長の「東京を占拠」という言葉に生徒たちがざわめいた。いつもはまともに校長の話を聞いていない生徒までもが、戸惑っている。
「みなさんには武器を持って戦っていただきます。目標は国会、行政官庁、テレビ局です」
その時、体育館の窓という窓にシャッターが降りた。入口の扉も閉じられた。
そして、教師たちが一斉にガスマスクを装着し、拳銃を構えた。
生徒たちには事態が全く把握できない。
「驚くことはありません。あなたたちはすぐに組織に忠実な兵隊に生まれ変わります。ほんの少し眠っている間に」
校長がそう言うと、館内の天井からいくつもノズルが現れ、催眠ガスを噴出した。
「何か変よ」
「先生、どういうことですか」
生徒たちがパニックになった。
生徒たちが一斉に出口に向かって駆け出す。しかし、扉は全く動かない。
「おとなしくしろ!射殺するぞ」
ガスマスクを装着した教師たちが拳銃を発砲して、生徒たちを脅す。
生徒たちは危険を察知し、教師に飛びかかる者も現れた。しかし、教師はそんな生徒たちに容赦なく発砲した。
わずか五分後、館内に充満した催眠ガスによって千人近くの全生徒が床に倒れた。
「これよりマルスを生徒全員に装着する。全員、すぐ作業にかかれ」
校長が教師たちに指示した。
「これで第一段階が終了だ」
一人ガスマスクをしていなかった校長が呟いた。
「うわあっ」
その時、一人の教師が投げ飛ばされた。
「ん?」
壇上の校長が声のした方を見る。
倒れている生徒の中でただ一人立っている女子生徒がいた。
その女子生徒は校長をじっと睨み付けている。
「ガスマスクなしで立っていられるのはこの世に一種類だけだ。待っていたぞ、エメラルド・アイ」
「あなたもね、アンバー・アイ」
女子生徒は顔の人工皮膚をはがした。日高裕美の顔が現れる。
「ほう、よくわかったな」
校長も眼鏡を外し、顔の人工皮膚をはがした。アンバー・アイの顔が現れる。
アンバー・アイは着ていたスーツも鷲掴みで一気にはぎ取った。
アンバー・アイはタンクトップにショーツという軽装になった。
「あなたたちの計画もここまでよ」
「さあ、どうかしら?これだけの人数を相手に勝てると思っているの」
「倒すわ。そして、あなたに黒須とサイボーグの居場所を吐いてもらう」
「面白い。やってみるがいいわ。全員、あの女に向かって撃つのよ」
教師たちが一斉に裕美に向かって銃を構える。
「パワー・セーブ、オフ」
裕美が呟いた。裕美の髪と瞳が青緑色になった。
裕美の全身から青白いエネルギーがわき起こり、彼女の体を包み込む。
「撃てっ!」
アンバー・アイの合図で教師たちが一斉に発砲を開始した。
裕美に襲いかかる無数の弾丸。
だが、弾丸は裕美を包むエネルギー膜の前に次々と消滅していく。
裕美はアンバー・アイに向かって歩き始めた。
「化け物か、きさまは。喰らえ」
アンバー・アイは左腕を裕美に向けた。次の瞬間、肘から下が分離し、ミサイルとなって飛んでいった。
「これで終わりだ」
アンバー・アイは勝ち誇った。
アーム・ミサイルが裕美に迫る。
だが、裕美はミサイルを右手で当たる寸前につかんだ。そして、握りつぶす。
ミサイルは爆発もせず、消滅した。
「なっ。サイバー・ホイップ」
アンバー・アイの右手首から金属色の鞭が現れた。
「そんな小手先の武器は私に効かないわ」
「黙れっ!」
アンバー・アイは鞭を振るった。
鞭の先鞭が裕美の腕に巻き付く。
「ライトニング・ボルト!」
鞭に電流が流れた。
「無駄だわ」
裕美に巻き付いた鞭が裕美の体から発散される高エネルギーで消滅した。
「そんな……」
アンバー・アイは後ずさった。
裕美はジャンプして、壇上に上がった。
「負ける……」
アンバー・アイは動揺していた。
「黒須はどこ?」
「うわあぁぁぁ!」
アンバー・アイは裕美に右手で殴りかかった。
だが、逆にアンバー・アイの右腕が裕美の顔に当たってへし折れてしまう。
「ああああ……」
両腕を失ったアンバー・アイは後ずさった。
「数百体のレッド・アイはどこに隠してあるの?」
「何のこと」
「しゃべりたくなければ、あなたの体に聞くわ。パワー・セーブ、オン」
裕美はロー・パワー・モードに戻ると、こめかみから一本のプラグ・ケーブルを引き出した。
「何をする気?」
「私もあなたも同じ人間が作り出したサイボーグ。だから、データの送受信に互換性があるのよ」
裕美はアンバー・アイのこめかみをかき上げると、そこに隠された入出力端子に、自分のプラグ・ケーブルを接続した。
「!!!」
アンバー・アイは目を見開いた。
「何……この感覚……」
「あなたの心を開いているの。あなたの心は私の心のアクセスによってどんどん解放されていくわ。気持ちいいでしょう」
「あ、ああ……」
アンバー・アイは恍惚とした表情になった。
「アンバー・アイがおかしい。あの女共々、破壊しろ」
教師たちがアンバー・アイにも銃口を向けた。
「邪魔」
裕美は自分の右手の人差し指を教師たちに向けた。その瞬間、人差し指が手から分離し、ミサイルとなって飛んでいった。
「ぐわぁ!」
教師たちがフィンガー・ミサイルの爆発で四方へ飛ばされる。
「アンバー・アイの記憶データのコピー完了。レッド・アイの居場所はつかんだわ」
裕美の胸の中で子供のように無垢な表情で眠っているアンバー・アイの髪を優しく撫でながら、言った。
「あなたの遺伝子配合を変えたわ。これであなたは苦しまずに死ねるわよ」
裕美はアンバー・アイからプラグを抜いた。数秒後、アンバー・アイの体が液体となり、床に広がった。後には内部の機械だけが残った。
「博士、生徒たちは無事です。レッド・アイの隠し場所の地図を送信します。私はこれから黒須のもとへ直接向かいます」




