13 作戦会議
それから一時間後、隠れ家の一室で八十神、裕美、喜美子、智也の四人による作戦会議が開かれた。
「始めに言っておくが、これは生死を賭けた戦いだ。しくじれば、命の保証はない。それでも、私に手を貸してくれるんだな」
八十神は喜美子と智也の顔を見て、言った。
「死ぬつもりなんてねえ。俺はやるぞ」
「あたしもやります。誰のためでもない。あたし自身のために」
二人の決意は固かった。
「わかった。これからは君たちを仲間として扱う」
八十神の言葉に喜美子たちは少し笑顔になった。
「それでは作戦の説明をするぞ」
八十神がホワイトボードの前に立った。「君たちも少しは知っていると思うが、この一年間、僕と裕美は組織の動きをずっと追って来た」
「あのさ、組織のことについて少し説明してくれないか。組織って言われてもなんかピンと来ないんだよな。名前とか目的とかいろいろあるだろ」
智也が言った。
「僕たちの言っている『組織』に名前はない。黒須和馬と言う男を知ってるか?」
「全然」
「一八年前にクローン人間を作り出し、世間に発表したことで学会から追放された男だ。彼は自殺したと見せて世間から姿をくらますと、マフィアや企業家から金を募り、クローン人間製造施設を作り上げた。そこで臓器売買を行い、大金を手にすると、今度はクローン人間を自らの兵隊として、組織化し、世界中の科学者を次々と誘拐していった。僕や高宮もその一人だ」
「何のために?」
「完璧な兵士を作り、自らの手で日本を滅ぼすためだ」
「そんなことして何になるんだよ」
「あの男には社会への恨み以外何もない。自分を認めない者は全て消し去るのが奴の考えだからな」
「無茶苦茶だな」
「彼は自分の兵隊の強化のために僕のサイボーグ技術に目をつけた。君たちも見てきただろう」
「ああ。でも、どうして女ばっかりなんだ。男の方がサイボーグにするなら、より強いものが作れると思うけど」
「君はわかっていないな。サイボーグは人体の三八パーセントを機械化する。その際、筋肉というものは非常に邪魔なんだよ。機械を埋め込むなら女の柔らかい体の方が手間がかからない。また、機械を埋め込んだ際の身体的拒否反応が少ないんだ」
「そんなものかな」
「僕は奴のために最初のサイボーグ、αⅠ型を完成させた。αⅠ型はクローン人間を急速成長装置で一八歳まで成長させ、その後、改造手術を施したものだ」
「もしかして、白い髪をした奴?」
「そうだ。目が赤く光ることから、レッド・アイと名付けている」
「他にもオレンジとか水色の目のサイボーグもいましたよね」
喜美子が口を挟んだ。
「そんなことより、クローン人間からサイボーグができるんなら、何で人間を誘拐するんだ?」
「レッド・アイには致命的な欠点があるんだ」
「致命的な欠点?」
「レッド・アイは量産が利くが、急速成長装置の影響からか老化が早いんだ。三九時間で一八歳にするからね。だから、サイボーグとしての寿命はせいぜい半年。これではコストもかかるし、実用的じゃない」
「それで人間を」
「そう。それがαⅡ型だ。ただし、人間では機械化手術に対する拒否反応が伴うから、対象となる人間はある程度、制限される」
「なるほど、それで学校を使って、対象となる人間を捜す場にしていたのね」
「許せねえぜ、黒須って奴」
「僕は桜華高校が組織の拠点と睨んでいる。おそらくあの学校のどこかにクローン製造基地があるはずだ。そして、黒須もそこにいる」
「それだったら、校長を締め上げて――」
「あんたの発想はそればっかりね」
「黒須よりもまず奴の計画を阻止することだ。喜美子君には話したが、奴は社会科見学を利用して、生徒全員を兵士として国会や都庁といった各施設へ送りこもうとしている」
「生徒全員をサイボーグにするのか?」
「そんな時間はない。おそらくマルスを使う気だろう」
「マルスって?」
「人間を洗脳する装置よ」
喜美子が答えた。
「よく知ってるな」
「香奈子さんに聞いたの。でも、学生たちに制圧されるほど、日本の警察力が弱いとは思えないんですけど」
「学生は都市を混乱に陥れるための捨て駒だ。奴の本当の切り札は数百体のサイボーグ軍団だ」
「数百体!」
「奴はどこか冷凍保存のできる施設に大量のレッド・アイを隠している」
「学校の中じゃないのか?」
「いや、別の場所だな。学校に隠していたのでは、いざ兵を動かす場合、目立ってしまう」
「なるほど」
「いずれにしてもサイボーグ軍団の居場所を見つけ、彼らの行動を不能にすることが、計画阻止の最重要課題だ」
「どうやって調べるんですか?」
「それは裕美に任せてある。我々は裕美の連絡を待って、直接サイボーグの隠し場所へ向かう」
「ちょっと待って。もしかして裕美に一人で学園へ向かわせる気なんですか?」
「私や君らも一緒ではかえって足手まといだ」
「けど――」
「心配しないでいいわ。これが私の仕事だから」
裕美は淡々とした口調で答えた。




