11 智也と八十神
午後十一時、智也は隠れ家からほど近い倉庫街の立ち並ぶ港に八十神を呼び出した。まわりには二人以外に姿はない。静かな波の音だけが聞こえる。
「こんなところへ呼び出して、何の用だ」
「裕美のことで話がある」
智也は真剣な顔で言った。
「どんなことだ」
八十神はコートのポケットに両手を突っ込んだまま、言った。
「組織を潰した後、あんたは裕美をどうする気なんだ?」
「そんなこと聞いて、どうする?」
「教えろよ」
智也は強い口調で言った。
「裕美に惚れたか?」
「……ああ、そうだよ。俺はあいつのことが好きだ。けど、あいつはあんたのことが好きなんだ。悔しいけどな」
「裕美次第だ。俺は彼女を束縛するつもりはない」
「ふざけるな。彼女はサイボーグだぞ、あんたなしでどうやって生きていくって言うんだよ」
「そうだな……君の言う通りだ。だが、正直言って俺にもどうしていいかわからないんだ」
「何だって」
「俺は一年前、組織に殺されてしまった彼女を助けたい一心でサイボーグとして再生させた。しかし、考えてみれば、彼女は生を受けたところで人間として暮らしていくことはできない。かといって、今更殺すこともできない。だから、今まで一緒に暮らしてきた」
「それじゃあ、裕美のことは何とも思っていないって言うのか」
「それもわからん。裕美のことは思っているが、それが愛なのかも同情なのかも判断がつかない」
「最低だな、あんたは。そんなこと言って、本当は裕美を、組織を潰すための道具としてしか考えていないんだろ」
「結果的にはそうなっているかもしれん。否定はしないよ」
八十神は淡々と答えた。
「くっ!」
智也は八十神を思いっきり殴った。
八十神は後ろへ二、三歩よろめく。
「何でそんなに冷静でいられるんだよ。もっと本気で裕美のことを心配してやれよ。裕美を救ってやれるのはあんたしかいないんだ。俺でも他の奴でもない、あんただけなんだぜ」
「……」
八十神はポケットから右手を出し、口に付いた血を拭った。「気は済んだか。気持ちはわかるが、君は一つ勘違いしてるぞ」
「なにっ」
「裕美はロボットじゃない。ちゃんと意志を持ってる。俺たちが彼女の人生を決めてやる必要などないんだ。たとえその選択肢が狭くてもな」
「そんなのは言い訳だ。俺は見てるからな。裕美を不幸にしたら、絶対許さないぞ!」
智也はそう言うと、その場から走り去った。




