7 暗殺
その夜、秦野は仕事を終え、車で帰宅した。
「あなた、お帰りなさい」
秦野がベルを鳴らしてドアを開けると、玄関では妻が出迎えた。
「ああ、ただいま」
疲れた様子で秦野は靴を脱いで、家に上がった。
「お食事は?」
「食べてきた。これから部屋で仕事をするから、先に寝ててかまわんよ」
「わかりました」
秦野は廊下を重たい足取りで歩きながら、書斎へ入った。部屋は両側が本棚で、法律関係の本がずらりと並んでいる。広さは八畳ありそれほど狭いという感じはない。
秦野は鞄を机に投げ出し、自分は肘かけつきの回転椅子に体をまかせた。そして、一度大きく背筋を伸ばして、息を吐いた。
「忠士……」
秦野は机の一番上の引出から一枚の写真を取り出した。それは自分と高校生の頃の八十神が写った写真であった。
私は最低だな。自分かわいさにおまえを二度も裏切ってしまった。一年前、最初におまえから組織のアジトに隔離されているという電子メールをもらった時、黒須に伝えず、法的な処置を執っていれば、こんなことにならなかったのにな。私は黒須が逮捕され、自分と黒須の関係まで暴かれ、自分の地位を失うのが恐かった。忠士、本当にすまない。
秦野は写真の八十神に心の中で何度も謝った。
トントン――その時、ドアをノックする音がした。
「お父さん、入っていい?」
ドアの向こう側で娘の和美の声がした。
「入りなさい」
秦野が写真を引出にしまいながら言った。和美は右手を後ろに回して、静かに部屋に入ってきた。和美はパジャマ姿だった。
「何か用か?」
秦野が体を和美に向けて、尋ねた。
「お父さんにおやすみを言いにきたの」
「そうか」
「お父さん、仕事、大変そうね」
「和美が心配してくれるなんて珍しいな」
「あら、私はお父さんのこと、いつも心配してるのよ。それより、どんな仕事してるの?」
「和美には関係のないことだよ」
「知ってるわよ。黒須って男を逮捕しようとしているんでしょ」
「和美、どうしてそれを……」
秦野の顔色が変わった。
「ねえ、そんなことやめたら?」
和美が秦野に近づいた。
「何を言ってるんだ、おまえ?」
秦野は娘の言動に戸惑っていた。
「組織に逆らうと殺されるよ。こんな風に」
和美は突然、右手に隠し持っていたナイフを秦野のわき腹に刺した。
「か、和美……」
秦野は愕然とした目で和美を見つめた。
「八十神に味方するとこうなるの、わかったでしょう」
「和美……」
秦野は目を見開きながら、床の上に前のめりに崩れた。




