6 生徒会代議員会議
桜華高校、視聴覚室。
放課後、新校舎三階のこの教室に生徒会代議員全員が集められた。
生徒会長の喜美子が昨夜、各クラスの生徒会の代議員全員に放課後、会議室に集まるように電話連絡を取ったのだ。
座席には二十八人の生徒が座っている。
教壇には喜美子と智也が立っていた。
「みんな、集まったみたいね」
喜美子は座席を見回して、言った。
「本当にやる気なのか?」
隣にいた智也が喜美子に小声で言った。
「今更、何言ってるの。あんたが最初に言ったことなのよ」
「俺は一人でやるって言ったんだぜ」
「智也はあたしをひとりぼっちにしたいの」
「それは……」
「この話は終わり。議事を始めるわよ」
喜美子は代議員たちの方を向いた。
「これから、わたくし生徒会長より大事な話があります。お忙しいところ申し訳ありませんが、代議員のみなさん、よく聞いて下さい」
喜美子の真剣な言葉に生徒たちの視線が喜美子に集まった。
「今日、みなさんに集まってもらったのは、学園の女子生徒連続失踪事件についてご報告するためです。まず、この写真を見て下さい」
喜美子の言葉で、智也が用意していた八枚の写真を喜美子の後ろのホワイトボードに一枚一枚貼った。
「この写真はこの半年の間に失踪した女子生徒八人の写真です。次にこれを見て下さい」
智也が八枚の写真の下に一枚の写真を貼った。
「これは先日、深夜、学園の焼却場で撮影された写真です。よく見てもらえればわかりますが、失踪した日比野智香さんと北野留美さんです」
「その写真は失踪後に撮影されたものですか?」
生徒から質問が挙がった。
「そうです」
「撮影したのは誰ですか?」
「わたしです。実は失踪したはずの生徒たちがその後、学園内で出没しているという噂がありまして、わたしと智也で深夜に張り込みをしている時に撮影したものです」
「それで北野さんたちは今どこに?」
「残念ながら、わかりません。ただ一つわかっているのは、今でも学園内に失踪した八人の生徒たちがいると言うことです」
「それってどういうことですか?」
「まさか幽霊とか言うんじゃ――」
「いいえ。これから話すことはみなさんにとってショッキングなことかもしれませんけど、実は失踪した生徒たちはこの学園内に閉じ込められているんです」
喜美子の言葉で生徒たちがざわめいた。
「学園内に誘拐犯がいるってことですか?」
「はい。それも単独犯ではなく、この学校そのものが誘拐団のアジトです」
「何言ってんだよ、そんなことあるかよ」
生徒の一人が笑った。それにつられて他の生徒たちも笑う。
「静かに。これは事実です」
「証拠はあるんですか?」
「ありません。でも、このデータを見て下さい。生徒課で調べた失踪した生徒八人の身長と体重です」
智也がボードに失踪生徒八人の身長、体重が記録された表を貼った。
「全員一六七センチで体重四八キロ。ただの誘拐犯がこんな図ったように同じ身長体重の人間を誘拐することはできないわ。そうでしょ」
「それだけじゃね。学園から健康診断のデータを盗み出した犯人がいれば、不可能じゃないんじゃない?」
「全員学園にいる時に失踪しているのよ」
喜美子が向きになって言った。
「誘拐されたところを見た人間はいないんだから、学園にいる時がどうかはわからないだろう」
「そうだ、そうだ」
「じゃあ、何のために同じ身長体重の女子生徒を誘拐する必要があるの?」
「そんなの誘拐犯じゃないからわからないよ」
「変質者の犯行という線もあるわ」
「いや、そもそも生徒会長が北野さんと日比野さんの写真を写したというなら、少なくとも北野さんと日比野さんは誘拐されていないってことじゃないか」
「違うわ。彼女は誘拐されて、改造されたのよ」
「バカっ」
智也は慌てて喜美子の口を押さえた。「そんなこと言ったら、みんな絶対に信用しなくなるぞ」
しかし、遅かった。喜美子の言葉で代議員たちの間に不信感が漂ってしまった。
「改造って何ですか?」
「生徒会長は誘拐された生徒たちがこの学園のどこかで改造手術を受けてるとでも言うんですか?」
「テレビの見過ぎじゃないか?」
「生徒会長があんなことを言うなんて……」
「私、帰らせていただきます」
「僕も」
「私も」
生徒たちが次々と席を立ち、教室を出ていく。そして、ついには喜美子と智也の二人だけになってしまった。
「全く、ドジだな。失敗じゃねえか」
智也は悔し紛れに教壇の机を蹴った。
「ごめん」
「こうなったら、やっぱり校長室に乗り込むしかねえな」
「それは駄目。ただ殺されに行くようなものよ」
「じゃあ、どうすんだよ」
「八十神さんは何とかしてくれるって言ったわ。それを信じましょ」
「あんなわけのわからない男を信用できるのか。元を正せば、サイボーグを作ったのは奴なんだろ」
「それはそうだけど」
その時、会議室の戸が開いた。
喜美子と智也が戸の方へ視線をやる。
そこには一人の女子生徒が立っていた。
「あ、あの……」
「あなたは?」
「私、一年の北野佐織と言います」
「北野……ってもしかして」
「はい、北野留美の妹です。姉がこの学園のどこかにいるって本当ですか?」
「聞いてたの?」
「今日、友達から視聴覚室で事件について話し合いがあるって聞いたもので」
「この写真を見てくれ」
智也はホワイトボードからサイボーグの写った写真をはがし、佐織に渡した。
「これは……」
「どう?」
「姉です、間違いありません」
佐織は顔を上げ、二人を見た。「姉は生きているんですね。居場所はわからないってさっき、言ってましたけど、手がかりはあるんでしょう?」
「それは――」
「お願いします、教えて下さい。姉がいなくなってから、うちの両親、ずっと心配してるんです」
「教えてあげたいけど、わたしたちにも……」
喜美子がそう言いかけた時だった。佐織が開けたままにしておいた戸が突然動きだし、閉じてしまった。
「何?」
三人は戸惑った。
全ての窓にも黒い鉄のシャッターが次々と降り、窓を塞いでしまった。
「まさか」
智也たちは戸に駆け寄り、戸を開けようとした。しかし、戸は全く動かない。
「閉じ込められたぞ」
「そんな」
その時、天井から三人の前に二つの影が降りてきた。
戦闘スーツを着込んだ二人の少女。一人には見覚えがあった。
「おまえは……」
「アンバー・アイよ。また会ったわね」
アンバー・アイの瞳が琥珀色に光った。
「お姉ちゃん……」
アンバー・アイの顔を見て、佐織は驚きの表情を見せた。
「もう一人は失踪した八人の中にいないわ」
「彼女は新入りのカナリー・アイよ。前の名は中藤陽子と言ったかしら」
「中藤陽子……」
「知ってるか?」
「野球部のマネージャーだわ。失踪者リストには入れてなかったけど、彼女も最近、学校から姿を消していたのよ」
「お姉ちゃん、今までどこにいたの?」
佐織がアンバー・アイの元に歩み寄った。
「危ないわ」
喜美子が慌てて佐織の手をつかみ、引き戻した。
「放して、どうして止めるんですか?」
「あいつらは人間じゃないんだ」
「そう、人間を越えた存在よ」
「俺たちを閉じ込めて、どうするつもりだ」
「消えてもらうわ」
アンバー・アイは冷たく言った。
「あたしたちの前にのこのこ出てきて。あたしたちが何も準備してないとでも思っているの?」
「おまえたちのまわりは監視カメラで誰もいないことが確認されている。助けを呼んでも誰も来ないわ」
「そ、そうかしら。こっちにはこれがあるんだから」
喜美子は携帯電話を鞄から取り出した。「これで警察に電話すれば、すぐに警察が来てくれることになってるわ。あたしの父は刑事なんだから、はったりなんかじゃないわよ」
「ここでは携帯は使えないわ。電波が届かないから」
「へ?」
喜美子は目を丸くした。
喜美子は慌てて携帯電話を使ってみたが、電話が全く繋がらなかった。
嘘っ……やばいじゃない。
「戦うしかねえのか」
「待って。まだ、あるわ。あたしは友達にあるところで待ってもらっているの。もし三〇分以内にあたしが友達のところへ行かなかったら、友達が警察に通報することになってるわ」
「さすが、喜美子」
「それは嘘ね」
「嘘じゃないわ」
喜美子が唾を飲み込んで、言った。
「そう?」
カナリー・アイは隅のロッカーに歩み寄った。「だって、その友達、死んでるのよ」
カナリー・アイがロッカーを開けた。
ロッカーから人が荷物のように床に倒れてきた。
「ああっ!」
喜美子が口を覆った。
床には目を見開いたまま死んでいる女子生徒の死体があった。
「春美……ど、どうして……」
「校内の会話は常に録音できるのよ。その女は自転車置場に立っていたんで、私が後ろから襲って、首を折ったら、簡単に死んだわ」
「ひどい……何てこと」
「組織に刃向かう者は死ぬわ。あなたたちもすぐに死なせてあげる」
カナリー・アイが喜美子に向かって歩いてくる。
「春美……ごめんね……」
喜美子は親友を失ったショックで放心状態になっていた。
カナリー・アイが喜美子の首を右手でつかんだ。
「やめろ」
智也がカナリー・アイに飛びかかった。
しかし、カナリー・アイが左拳で智也の顔を殴ると、智也はあっけなく床に伸されてしまった。
「ううっ……」
その間、喜美子はほとんど無抵抗であった。
「お姉ちゃん、やめさせて」
佐織がアンバー・アイに駆け寄った。
「邪魔だ」
アンバー・アイが佐織の頬を引っぱたいた。
佐織は床に倒れる。
「お姉ちゃん、私のことがわからないの。私、佐織よ。お姉ちゃんの妹よ」
佐織は泣きながら、アンバー・アイの足にすがりついた。
「うるさい女だ」
アンバー・アイは佐織の頭をつかんで、持ち上げた。
「お姉ちゃん、やめて……」
アンバー・アイは佐織の頭を握りつぶそうとした。しかし、佐織の顔を見ているうちにアンバー・アイの頭で何かがわき上がってきた。
「この感覚……何だ…」
アンバー・アイは佐織から手を離し、頭を押さえた。
「どうした?」
「頭痛が……私は引きかえす。後は頼んだ」
アンバー・アイは飛び上がり、天井の穴から姿を消した。
「仕方ないわね。では、最初にあなたに死んでもらうわ」
カナリー・アイが黄色の瞳を光らせ、右手に力を入れようとした。
その時だった。
喜美子の背後にあった戸を突き破って、一本の手が現れた。
手はカナリー・アイの右手首をぐいとつかんだ。
「?」
カナリー・アイがその手に目を向けた瞬間、その手がカナリー・アイの右手首を握りつぶした。
「なっ……」
カナリー・アイが後ずさる。
同時に入口の戸を突き破って、その手の主が現れた。
青緑色の輝く髪と瞳を持つサイボーグ少女、日高裕美ことエメラルド・アイであった。
「おまえは……」
「……」
裕美は動揺するカナリー・アイに無言で拳の一撃を放った。
拳はカナリー・アイの顔面に命中し、彼女の顔面は砕け散った。
カナリー・アイはよろよろと二三歩下がると、後ろへ倒れ、動かなくなった。
「パワー・セーブ、オン」
裕美の言葉で彼女の髪と瞳が黒に変わった。
「さあ、逃げるわ」
「……」
裕美が喜美子の頬を平手で打った。
「はっ」
喜美子が我に返る。
「日高さん……」
「事情説明はいいわ。奴が爆発する前に逃げるわよ。あなたも早く」
裕美は智也を担ぐと、強引に喜美子の手を引っ張り、佐織と共に視聴覚室を出ていった。




