2 秘密計画
翌日。
前夜の雨が嘘のように晴れ上がった午後、八十神は池袋の地下街にあるファーストフードの店にいた。奥の二人席で、一人ハンバーガーを食べている。
入口の自動ドアが開いて、一人の女性客が入ってきた。サングラスをかけ、グリーンのショート・ジャケットを着、黒のジーンズを穿いた十七、八の女である。背中に小さなリュックを背負っている。
女は店内を見回してから、奥の席の八十神を見つけると、八十神の方へ歩いていった。
八十神は女に気づいて、顔を上げた。
「来たか」
「狙われてるのにこんなところで待ち合わせて大丈夫なんですか?」
女はサングラスを外した。女は喜美子であった。
「かえって人のいるところの方がいい」
喜美子は八十神の向かいの席に座った。
「学校は大丈夫なのか?」
「さぼりですよ」
喜美子がぶっきらぼうに言った。
「そいつは済まなかったな」
「左手は大丈夫なんですか」
「ああ」
八十神は手袋をした左手を見せた。
「義手ですか?」
「まあな」
八十神は左手の指を動かした。「前の手よりは不便だが、指は動く」
「すごいですね……」
喜美子は目が点になった。
「今日は君のボディーガードはいないのか?」
「智也は学校に行かせました。それで用件は?」
「まず、桜華高校の資料の礼を言いたい。それから、君たち姉弟には香奈子が本当に世話になった。君たちがいなかったら、生きて香奈子と会うことができなかった。感謝する」
「礼なんて……弘田さんが死んだのは……」
「彼女が死んだのは君たちのせいじゃない。それより、君たちには大事なことを伝えておく」
「大事なこと?」
「来週の月曜日、桜華高校から兵隊が出動される。君たちはこの先、学校へは行かない方がいい」
八十神は喜美子にしか聞こえないくらいの小声で言った。
「兵隊ってどういうことですか?」
喜美子も小声になる。
「この写真を見てくれ」
八十神が喜美子に一枚の写真を渡した。
「これはこの間、学校の焼却場で取った女たちの写真……」
「そうだ。この写真の二人の女に見覚えは?」
「いいえ」
「桜華高校で失踪した日比野智香と北野留美だ」
「嘘」
喜美子は八十神を見た。
「何なら調べてみたらどうだ」
「どういうことなんですか?」
「桜華高校は組織のアジトの拠点だ。組織は生徒の中からサイボーグに合う素体をピックアップしている」
「生徒たちを誘拐してサイボーグにしてるってことですか?」
「そういうことだ」
「ということは学校そのものがぐるってことですか?」
「校長ほか上の連中は組織の人間だろう」
「そんな……信じられない」
「まだまだ序の口だ。組織は生徒全員を兵隊化することを考えてる」
「まさか……」
喜美子は口を覆った。「来週の月曜日って、全校社会科見学ですよね。もしかして――」
「君の考える通りだ」
「駄目よ、そんなこと。みんなに報せなきゃ」
「それはやめた方がいい」
「どうして?」
「そんなことが組織に知れれば、君たちは消されるぞ。組織はこの日に全てを賭けているんだ」
「けど、このままじゃ――」
「僕が、出来るだけのことはする。君と弟はもう学校へは行かず、おとなしく家にいたまえ。君だって組織の恐ろしさは知っているだろ」
「みんなを守ってくれますか?」
「ああ」
「お願いします」
喜美子は小さく頭を下げた。




