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エメラルド・アイ ~サイボーグ少女の復讐劇  作者: mf
第二章 サイボーグ少女
32/53

16 駆け引き

 午前四時、険しい山道を抜け、香奈子たちの車はアスファルトで舗装された車道に出た。

 山道では真っ暗で道も悪く、いつ木にぶつかって事故を起こすか気が気でなかっただけに、車道に入ってからは幾分、香奈子は落ち着くことができた。


 しかし、不安が解消されたわけではない。


 いつ組織の追っ手が襲ってくるかもわからない。そして、後部座席の二人も……


  国道は深夜のせいか、ほとんど対向車にすれ違うことはなかった。


「弘田さん、大丈夫?」

 助手席の喜美子が言った。


「え?何」

 香奈子がはっとして、喜美子を見る。


「何か具合悪そう。弘田さん、病気なんだし、少し休んだ方が……」


「そんな時間ないわ。早く町へ行かなきゃ」


「このまま逃げられると思ってるの?」

 今まで黙っていた後部座席のあゆみが言った。


「逃げなければ、殺されるわ」


「殺す?組織は八十神さえ捕らえられれば、あなたたちに用はないわ」


「嘘よ。あたしをホームから突き落としたじゃない」

 喜美子が後ろを向いて、言った。


「それはあなたが組織の邪魔をしたからよ。ねえ、取引しない?」


「取引?」


「私をここで解放すれば、あなたたちを逃がしてあげるわ」


「断るわ。あなたは犯罪者よ。警察に逮捕されるべきだわ」

 香奈子は前を見たまま、言った。


「この私がせっかく逃がしてあげると言ってるのよ」


「逃がすも何もあなたは今、私たちに捕まってるのよ。状況を考えるのね」


「すぐに仲間が来るわ」


「だったら、なぜ取引を持ち出すの。本当は自分の今の状況を組織に知られるのが恐いんでしょ」


「……」

 香奈子の言葉にあゆみは顔を険しくした。「私をこのまま警察へ突き出せば、智也の洗脳は永久に解けないわよ」


「智也……」

 喜美子の顔が曇った。


「洗脳を解く方法を知ってるとでも?」


「私の指示に従えば、智也を助けてやってもいいわ」


「マルスを使った洗脳をあなたに解くことができるの?」


「!」

 マルスという言葉にあゆみは眉を動かした。「マルスを知ってるの?」


「忠士さんに聞いたわ。マルスを装着された人間は人間性を破壊され、二度と元には戻らないって」


「嘘!弘田さん、八十神さんなら治せるって言ってたじゃない」


「ごめんなさい」


「そんな……じゃあ、智也はもう元に戻らないの。嫌よ、そんなの」


「喜美子さん、落ち着いて」


「治す方法はあるわ。確かに八十神の研究していたマルスにはそんな欠点があったけど、その後の組織の研究でその問題は解消されたのよ」


「じゃあ、なぜ彼はやつれてるの?マルスを装着された人間は食事も睡眠も取らないから、二、三日すれば、その疲労ははっきり顔に現れるわ」


「装置を外せば元に戻るわ」


「外したら、脳を持たない人間になるわ」


「喜美子、あなたは私と香奈子とどちらを信じるの?私でなければ、智也は治せないわ」


「あたしは……」

 喜美子は戸惑った。


「喜美子さん、騙されては駄目よ。確かに今は智也さんを治せないけど、忠士さんならきっと何か考えてくれるわ」


「ふふふ、そんなの待ってたら、智也は死ぬわよ。あなた、大事な弟を殺すの?」


「あ、あたし……」

 喜美子は迷った。「本当に元に戻るの?」


「もちろん」

 あゆみははっきりと言った。


 喜美子は考え込んだ。


「弘田さん、車を止めて」


 喜美子は持っていたマシンガンの銃口を香奈子に向けた。


「どうして……」

 香奈子は悲しそうに喜美子を見た。


「あたしは智也を失いたくないの、わかって」


「ははははは、形勢逆転ね」

 あゆみは勝ち誇ったように笑った。


「止めないわ」


「弘田さん!」


「悪魔と取引なんかしない」


「智也を殺す気なの?」


「智也さんはもう助からないわ」


「止めて。本当に撃つわよ」

 喜美子の語気が強まった。


「運転中の私を撃つの?」


「……」


「お願い、わかって。あの女のいる組織は……うっ」

 その時、香奈子の腹部に激痛が走った。「こ、こんな時に――」


「弘田さん、どうしたの?」


「何でこんな時に――」


 香奈子は苦悶の表情で腹部を押さえた。

 車の運転が蛇行になる。


「うぐっ!」

 香奈子は吐血し、ハンドルに体を投げ出した。


「弘田さん、弘田さん!」

 喜美子は香奈子の体を揺すった。


「ブレーキを踏んで!」

 あゆみが言った。


「え?どれ?」


「それよ」


「こ、これ」

 喜美子はブレーキを思いっきり踏んだ。


「バカ、それはアクセルよ!」


 スピードを上げた車は車道脇の山の斜面に乗り上げ、数メートル勢いで昇ったかと思うと、そのまま転がり落ち、車道にひっくり返った。


「ううっ……あたしたちを殺す気!手が使えないのよ」

 あゆみは額から血を流しながら怒鳴った。


「弘田さん、大丈夫?」

 喜美子は運転席の香奈子を心配した。


 しかし、香奈子は答えなかった。


「何とかここから出なくちゃ」

 喜美子はシートベルトを外し、ドアを開けた。


「ううっ……いてぇ、何なんだ」

 後部座席の智也が苦しそうな声を上げた。


「智也?」

 喜美子が後ろを見る。


「ここはどこだ……」


「智也、元に戻ったの?」


「どうなってんだよ、何で俺、縛られてんだ」


「嘘……智也が元に戻った……」

 喜美子は喜びのあまり、声が震えた。


「当然よ。マルスは使ってないんだから」

 あゆみがぼそっと言った。


「え?どういうこと?」


「話は後。早く助けなさいよ」


「わかってるわよ」


 喜美子は先に車から出ると、まず運転席の香奈子を引っ張り出し、続いて後部座席の智也とあゆみを車から出した。


「ひどい目にあったわ」

 あゆみは頭を振った。


「智也、大丈夫?」

 喜美子はナイフで智也のロープを切った。


「いてて。一体、何がどうなってんだ」

 ロープの外れた智也は早速、手で頭を押さえた。


「智也は操られてたのよ。それでこの女の命令であたしと弘田さんを誘拐したの」


「俺が?待てよ、そういえば、俺、教室で女子生徒に下駄箱に呼び出されて、そこで突然、後ろから襲われて、注射されて……そっから、何も覚えてねえや」


「あんた、さっき、智也にマルスは使ってないって言ったわね」

 喜美子があゆみを見て、言った。


「この子は薬を利用した催眠術で操っていただけよ」


「どうしてマルスを使わなかったの?」


「あなた、弟を廃人にしたかったの?」


「そんなわけないでしょ」


「私は八十神にさえ会えれば、無事にあなたたちを帰すつもりだったのよ」


「ウソっ!日高さんを智也に殺させたじゃない」


「何だって!おい、俺が裕美を殺したのか」

 智也が驚いて、言った。


「そうよ。あんたは日高さんを射殺したの……」


「そんな……」

 智也は愕然として、両手を地に着いた。


「あはははははははは」

 あゆみが笑った。


「何がおかしいのよ」

 喜美子が睨んだ。


「あの女は死んでないわ。だって、あの女はサイボーグよ」


「サイボーグ!?」


 智也と喜美子は顔を見合わせた。



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