14 目覚め
「裕美……裕美……」
八十神の声で裕美は意識を取り戻した。
正確に言うと、裕美の耳の中にある感音センサーが八十神の声に反応し、停止中であった裕美の頭脳システムを作動させたのである。
裕美のアイ・カメラには次々とシステム・チェックの情報が映し出される。
数秒後、チェック完了のメッセージと共に目の前が明るくなり、視界が開けた。
裕美の目の前には八十神の顔があった。裕美のアイ・カメラの焦点調整が行われ、八十神の顔にピントが合わさる。
「博士……」
裕美は体を起こした。
裕美は周囲を見回した。そこは裕美が倒れた場所と同じ店の中であった。
「大丈夫か?」
「額にマグナム弾を受けたため、システムが緊急停止してしまったんです」
八十神は裕美の額を見た。裕美の額は割れ、銀色の頭部が露出している。
「人工皮膚で修復してやる必要があるな」
八十神は裕美の額を撫でた。「システム部分はどうだ?」
「問題ありません。それより、どうしてシステムが停止してしまったのか?」
「自爆防止用に僕がつけたんだ」
「え?」
「君に限らずサイボーグには機密保持のため、自爆装置が付いている。通常、レベル五のダメージで機能が働くが、それを防ぐためにレベル四でシステムがダウンするようにしたんだ。そうすれば、自爆させずに済む」
「全然知りませんでした」
「それより、香奈子たちが誘拐されたみたいだな。こんな手紙を残していったよ」
八十神は裕美に手紙を見せた。
「『弘田香奈子と久坂喜美子は預かった。返して欲しくば、組織より持ち出した研究ファイルを持って、明日の朝七時までに一人で黒牙渓谷の山荘へ来い。サイボーグを連れてきたら、香奈子の命はないと思え』。博士、すみません、私……」
「ん?」
「私、博士に無断で喜美子さんと智也君をここへ連れてきてしまったんです。ところが、智也君が突然私たちを襲って……」
「マルスか?」
「おそらくそうだと思います。私の不注意でした。博士、本当にすみません」
「ミスをしない人間なんていない。そうだろう……」
「……」
「終わったことを責めても始まらない。今は香奈子たちを救うことが先決だ」
「博士はもう私を信用してくれませんよね。私のせいで香奈子さんを奪われてしまったんですから」
「いいや。裕美を信用できなくなったら、自分も信用できなくなる。自分の思い通りに動く人間だけが、信頼できる人間だというなら、その人間はただのロボットじゃないか。僕は何があっても裕美を信じてるよ」
「博士……」
「僕はこれから黒牙渓谷へ行く」
「私も」
「一人で来いと言ってるんだ、一人で行くさ」
「危険です。智也君は完全に組織の殺し屋となっています」
「わかってる」
「だったら……ん」
裕美が何か言いかけた時、八十神の唇が裕美の唇を塞いだ。
裕美が驚いて、目を見開く。
八十神は口を話し、裕美を優しく見つめた。
「忘れないでくれ。僕は香奈子だけでなく、君だって失いたくないんだ」
「博士……ううっ、こんな時、本当なら涙を流したいのに……私は……」
「涙なんかなくたって、裕美の気持ちはわかるさ。だから、今はゆっくり体を休めるんだ」
八十神はそう言うと、小さく震える裕美の体を抱いてやった。




