13 裏切り
三日後。
『クロック』という酒場の前。裕美、喜美子、智也が立っていた。
「ここに弘田さんがいるの?ぼろっちい店ね。悪人たちに狙われたら、ひとたまりもないわよ」
喜美子は店を見て、言った。
「こういうところの方が安全なのよ」
「電話だけって言ってたのに、どうして連れてきてくれたの?」
「私は連れてくる気はなかったわ。弘田さんに強く頼まれたから、仕方なく連れてきただけ」
裕美の返答は相変わらず素っ気なかった。
「へえ、あなたでも人の言うことを聞くんだ」
しかし、喜美子の方は裕美の言動に感心した様子であった。
「……」
裕美は少しムッとした。「頼んだものは持ってきてくれた?」
「ええ」
喜美子はA四サイズの茶封筒を裕美に渡した。
裕美は中身を確認する。
「約束は守ったでしょう」
「一つ守ってないわ」
「何?」
「誰にも言わないでって言ったのに、なぜ智也君がいるの?」
「あっ、ごめん。でも、智也は仲間だし、いいでしょう」
「仲間だなんて思ったことはないわ。あなたもね」
「きついこと言うわね。もう来ちゃったんだから、仕方ないでしょう。智也も何か言ってよ」
「……」
智也は黙っている。
「どうしたの?」
「何か昨日から変なのよね、ぶすっとしちゃって。それより、会わせてよ」
「じゃあ、入って」
裕美は不機嫌に言った。
裕美たちは店の中に入った。
「誰もいないわね」
喜美子は物珍しそうに店内を見回す。
「呼んでくるからここにいて」
裕美はそう言うと、店の奥にあるドアを開けて、隣の部屋へ入っていった。
「智也、どうしたの?日高さんと会えたのに、無愛想ね」
「日高?誰だ……」
「あんた、あたしをバカにしてるの。もう」
数分後、奥のドアが開き、裕美が香奈子を連れて現れた。
「喜美子さん」
「弘田さん」
喜美子が香奈子のそばに駆け寄った。「ごめんなさい。あたしのせいで迷惑かけて」
「喜美子さんのせいじゃないわ」
「ううん、あたしのせい。自分が助かりたいばかりにあなたの居場所を殺し屋に話してしまったんだから」
「それでいいのよ。自分の命が大切じゃない人間なんていないわ。あなたのしたことは間違ってない」
香奈子は喜美子の手を握った。
「弘田さん……」
喜美子は香奈子を見つめる。
「もういいでしょう」
裕美が言った。
「あっ、智也もほら弘田さんに何か言いなさいよ」
喜美子は振り返って智也に言った。
「八十神はどこだ?」
智也が静かに言った。
「智也、何言ってるの?」
喜美子の顔が曇る。
「八十神はどこだと言ってるんだ?」
智也は腰に手をやったかと思うと、突然拳銃を喜美子たちの前に出した。
「拳銃……」
「智也、あんた、何冗談やってるの?」
喜美子が怒って智也の前に歩み寄った。
その瞬間、智也は喜美子を拳銃で殴った。喜美子がその場に倒れる。
「喜美子さん!」
香奈子が声を上げる。
「八十神博士はいないわ」
裕美が冷静に言った。
「そうか。じゃあ、人質にそこの女を連れていく」
智也が香奈子を見て、言った。
「そうはさせないわ」
裕美が香奈子の前に出る。
「邪魔だ」
智也は拳銃の引金を引いた。銃声が轟く。
裕美の額に弾丸が撃ち込まれた。裕美が後ろへ倒れる。
「裕美さん!」
香奈子は裕美を抱きかかえた。裕美は目を見開いたまま、ピクリとも動かなかった。
「な、何てことするの……」
頬を押さえた喜美子が顔を上げ、智也を睨んだ。
「おまえたちは俺と一緒に来てもらう。文句はないな」
智也は表情一つ変えず、冷酷に言った。




