4 後悔
駅で裕美と別れてから喜美子は家に帰らず、一人繁華街の人混みの中を歩いていた。喜美子の帰宅を重くさせていたのは、電話で父親から香奈子が誘拐されたことを聞いたからだった。
何でしゃべっちゃったの、喜美子。
喜美子は殺し屋に香奈子の居場所を話してしまった自分を責めていた。
命が惜しいから?死にたくないから、しゃべったの?でも、嘘を言うことだってできたわ。結局、自分が助かりたかったのよ。弘田さんの命と自分の命を天秤にかけたんだわ。
喜美子は洋服店の前で立ち止まり、自分の姿を映しだしたショーウインドーを見つめた。
最低……。これが桜華高校の生徒会長の姿なの?汚職政治家と一緒ね。
喜美子の目には自分の姿が歪んで見えた。
「いやっ」
喜美子はその場から駆け出した。
もし弘田さんが死んだら、あたしはどうすればいいの。誰か教えて。
喜美子は心の中で叫んだ。
その時、誰かにぶつかった。
「ご、ごめんなさい」
喜美子は顔を上げた。「智也……」
「何してんだよ、心配してたんだぞ」
智也は厳しい口調で言った。
「……」
喜美子は智也から目をそらした。
「親父から聞いた、弘田さんのことは」
「あたしってひどい奴よね、自分かわいさに弘田さんを売ったんだよ」
喜美子は震えた声で言った。
「喜美子のせいじゃない。おまえを一人きりにした俺のせいだ」
「あたしが言わなきゃ、弘田さんは誘拐されなかったわ。あたしがいけないのよ」
喜美子は目に涙をいっぱいに浮かべて、智也を見た。「生徒会長をやる資格なんてないよね。あたしに比べたら、智也の方がずっと立派。勇気があるし、優しいし……いくら勉強できても、校則守ってても、そんなの何の価値もない。あたしは人間的には最低……」
「自分を責めるな。おまえらしくないぞ」
智也が喜美子の肩をつかんで、揺すった。
「あたしらしいって何?平気で人を裏切る人間のこと?人が苦しんでても平気で笑い飛ばせる人間のこと?」
智也は喜美子の頬を平手で打った。
喜美子は驚いた顔で智也を見る。
「智也、どうしたらいいの。あたし、わからない」
喜美子は智也の胸に飛び込んで、泣いた。
「おまえは最低の人間なんかじゃない。最低の人間ならこんなに苦しんだりするか。そうだろ」
智也は喜美子の背中を軽く叩きながら、小声で言った。




