2 病院
「ここで止めて」
裕美が言うとタクシーが止まった。
「弘田香奈子がここに……」
裕美が病院の白い建物を見上げて、言った。
石造りの門の表札には『山岡中央病院』とある。
裕美は運転手に料金を払ってタクシーを降りると、病院に入った。
そして、五階の五一八というプレートの付いた病室の前まで来た。
裕美は壁のプレートに書かれている入室者の名前を見た。
「この病室ね」
裕美が入口のドアをノックしようとした時、病室のドアが開いた。中から出てきたのは久坂であった。
「おっと、失礼」
「弘田さんはいますか?」
「ああ、中にいるよ。君は?」
「久坂喜美子さんに頼まれました。弘田さんが狙われてるって」
「喜美子に何かあったのか?」
久坂は血相を変えて言った。
「?」
「すまない。私は久坂智也と喜美子の父親なんだ」
「喜美子さんが殺し屋に脅されて、ここの場所を教えてしまったそうです」
「喜美子は無事なのか?」
「ええ」
「そうか」
久坂の表情が和らぐ。
「弘田さんに会わせてもらえますか?」
「ああ、いいとも」
久坂がそう言った時だった。
「きゃあっ!!!」
香奈子の病室から悲鳴が起こった。
久坂と裕美が顔を見合わせる。
「病室からだ」
久坂たちはすぐさま病室のドアを開け、中へ飛び込んだ。
「!!!」
病室の半分開け放たれた窓のそばには、香奈子を両手で抱きかかえた一六、七の少女が立っていた。
「弘田さん!」
「彼女を放せ!」
「できんな」
少女は窓枠に足をかけ、窓から出ようとした。
「動くな!」
久坂はホルスターから拳銃を抜き、少女に向けて構えた。
「撃ったら?女に当たってもいいならね」
少女の目が紫色に光った。
「ちっ」
「久坂さん」
裕美が久坂の前に出た。
「弘田さんを誘拐しても無駄よ。彼女は八十神博士の場所は知らないわ」
裕美が少女に向かって、言った。
「おまえ、なぜ我々が八十神忠士を捜していることを知ってる?」
「彼の居場所は私が知ってるわ」
「どこだ?」
「彼女を放してからよ」
「信じられんな。本当に八十神の居場所を知っているなら連れてこい、場所は――」
「横浜海浜公園の中央広場、今夜午前二時」
裕美が言った。
「……よかろう。それまではこの女を預かる。裏切れば、どうなるかわかっているな」
少女はそう言うと、窓から外へ飛び降りた。
久坂が窓に駆け寄り、下を見る。
少女は香奈子を抱いたまま無傷で着地していた。待機していたかのように車が建物の影から現れ、少女の前で止まった。少女が車に乗り込むと、車は急発進して、走り去った。
「何て奴だ、人間とは思えん」
「人間じゃないわ。少なくとも今は……」




