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エメラルド・アイ ~サイボーグ少女の復讐劇  作者: mf
第一章 女子高生連続失踪事件
16/53

13 対決アンバー・アイ

 午後九時。

 裕美(ゆみ)は桜華高校の正門前に立っていた。


「ウッス」

 道を歩いてきた智也(ともや)が裕美を見つけて、声をかけた。


「ごめんね、ついて来ちゃったの」

 智也の隣にいた喜美子(きみこ)が言った。


「別にいいわ」

 裕美は特に表情も変えずに言った。


「喜美子から聞いたんだけど、転校生じゃないんだって?」


「ええ。疑り深い彼女のおかげですぐにばれてしまったわ」


「こいつはそういうところ、鋭いんだ」


「うるさい」

 喜美子は智也の腹に肘鉄を喰らわせた。「それで何をするの?」


「張り込み」


「張り込み?どこの」

 喜美子が甲高い声で言った。


「しっ!声が大きいわ。警備員の人が来るでしょ」


「学園内なの?」

 喜美子が声をひそめて、言った。


「ええ」


「張り込んでどうするの?」


「誘拐犯人を捕まえるわ」


「犯人が中にいるの?」


「質問が多いわ。黙って手伝うのか手伝わないのか、すぐ決めて」


「校則違反よ。学園に忍び込むなんて」


「じゃ、おまえは手伝わないな。裕美、俺は手伝うぜ。さあ、行こう」


「ま、待って」


「帰れよ」


「呼ばれたのはあたしだよ。手伝うに決まってるじゃない。だから、ここへ来たんだから」

 喜美子が慌てた様子で言った。


「喜美子は仲間外れにされるのが嫌いなんだ。かわいいとこあるだろ」

 智也が裕美に耳打ちした。


「ええ」

 裕美が微笑む。


「何、こそこそ話してんの」

 喜美子がムッとする。


「時間がないわ。中に入りましょう」


 裕美は門を少し開けて、中へ入っていく。


「鍵は?」


「壊れてたわ」


「あ、そう」


 裕美に続いて、喜美子たちが中に入った。

 裕美たちはクラブ棟裏の焼却場へ行った。


「ここに何かあるの?」


「行けば、わかるわ」


 裕美は焼却炉に近づいて、その前に立つと、その重い扉を軽く開けた。

 裕美のそばにいた喜美子が中を覗き込む。しかし、暗くて何も見えない。

 裕美はポケットから懐中電灯を取り出すと、焼却炉の中を照らしながら、手で中をあさる。


「見て」


 裕美が照らした場所にはすすにまみれた青色の寝袋があった。


「寝袋みたいだけど」


「中身はこれよ」

 裕美が寝袋のチャックを少し下ろした。


「ひっ」


 喜美子と智也が息を飲んだ。

 チャックの隙間から若い女の顔が現れたのである。


「誰かわかる?」


「し、知るわけないでしょ。これって人間の死体?」


 喜美子はろれつの回らない口調で言った。かなり動揺している。


「ここの生徒みたいよ」

 チャックの隙間からかすかに見えている桜華高校の制服を見て、言った。


「警察に報せなきゃ」


「報せるのは後。犯人は今夜中に死体を回収に来るわ」


「どうしてわかるの?」


「明日になれば、第三者に死体を発見される恐れがあるわ」


「焼却炉に現れた犯人を捕まえるのか?」


「そういうこと」


「危険だわ、そんなの。相手は殺人犯なのよ」


「捕まえるのは私に任せて。それにしても――」

 裕美は考え込んだ。


「どうしたの?」


「そこのゴミ置場にあんなにゴミ袋が積み上げられているのに、ここの焼却炉はいっぱいだわ」


「だから?」


「一つじゃないかもしれない」


「えー、うそぉ」

 喜美子は不安な顔をする。


「まあ、いいわ。そこのゴミの山に隠れて、犯人を待ちましょう」


「あたし、帰っていい?」


「いいけど、帰る途中で犯人に殺されないでね」

 裕美は真顔で言った。


 裕美たち三人はゴミ袋の山の裏に隠れた。


「いつ来るのかしら」

 喜美子は智也の腕にしがみつきながら、言った。


「今、気づいたんだけどさ」

 智也が裕美を見て、言った。


「何?」


「眼鏡、かけてないな」


「あれはだて眼鏡よ」


「眼鏡なんかかけない方がずっとかわいいぜ」


「あなたにはわからないのよ」


「わからないって、何が?」


「それより、智也君、これを」

 裕美は智也にカメラを渡した。「暗視カメラよ。ボタンを押し続ければ連続シャッターが切れるから、私が合図したら、お願い」


「わかった」


 かくして、裕美たちの張り込みが始まった。


 最初の一時間は緊張感があったものの、その後は退屈な時間となり、喜美子は横になって眠ってしまっていた。


「もうすぐ一時ね」

 裕美が腕時計を見て、言った。


「食べるか?」

 カレーパンを食べていた智也が裕美にもう一つのパンを勧めた。


「……」

 裕美は一度受け取ろうとしたが、すぐに手を引っ込めた。


「ううん、お腹はすいてないから」


「何か話しない?」


「いいけど」


「日高裕美って言うのは偽名なのか?」


「本当の名前よ」


「じゃあ、年は?」


「十八」


「何だ、一つ上か」


「……」


「転校生じゃないとすると、普段は別の学校へ通ってるのか?」


「学校へは行ってないわ」


「そうか。事件を調べてるってことは探偵か何か?ドラマじゃあるまいし、まさか刑事ってことはないよな」


「どちらでもないわ。事件を調べてるのは自分のため」


「失踪した生徒の中に裕美の知り合いが?」


「いないわ」


「裕美の話からじゃ、おまえが何者なのかさっぱりわからないぜ」


「知らなくていいわ。今後、つきあうこともないから」


「はっきり言うなぁ。これでも、俺は裕美に興味があんだけどな」


「私にはないわ」


「あっ、そう。何か昨日と比べると、冷たい態度だな」


「そうね、自分のことを知ろうとする人間には警戒するからかもしれない」


 それから、三十分後。


「誰か来るわ」

 裕美は小声で言った。


「喜美子を起こすか?」


「いいわ。智也君、カメラをお願い」


「本当に一人で捕まえる気か?俺が行くよ」


「私の言う通りにして。お願いだから」


「ああ」


 焼却炉に二つの人影が現れた。

 一人は焼却炉の前に立ち、重い扉を開けると、中にあった死体を引っ張り出していた。

 もう一人は見張り役なのか、焼却炉から少し離れたところに立ち、周囲を見回している。


「私が合図したら、シャッターを切って」

 裕美はそう言うと、ゴミ袋の山から飛び出した。


「そこまでよ」


 裕美は二つの影に向かって叫んだ。同時にさっと手を挙げる。

 智也がカメラのシャッターを切った。

 二つの影が裕美を見た。


「な、なんだ」


 その瞬間、智也は愕然とした。

 二人の賊の両目が光っていたのである。

 一人は水色、もう一人は琥珀色であった。


「焼却炉で死んでいる人間を殺したのはあなたたちね」

 裕美は平然とした口調で言った。


 賊は黒いジャケットを着た少女たちであった。二人ともまだ高校生ぐらい。しかし、表情は子供のかけらもなく、死人のように無表情で、その瞳は冷たい。


「おまえたち、何者だ」

 智也が少しうわずった声で尋ねた。


「私の名はアンバー・アイ」

 琥珀色を目を持つ少女が答えた。


「私はアクア・アイ」

 続いて水色の目を持つ少女が答えた。「おまえたちには死んでもらう」

 アクア・アイが裕美に襲いかかった。


「危ないっ!」

 智也が思わず立ち上がって叫んだ。


 だが、裕美はアクア・アイの拳を寸前でかわすと、逆に腕を取って、彼女を地面に投げ飛ばした。

 その間にもアンバー・アイが智也に襲いかかっていた。


「智也君!」


 裕美は智也の助けに向かおうとするが、アクア・アイが裕美の足をつかんで、転ばせた。


「おまえの相手は私だ」


「くっ」

 裕美はアクア・アイを睨み付けた。


 アンバー・アイが智也に殴りかかる。智也はとっさのことでカメラを持ったまま、動けない。


「智也っ」


 その時、喜美子が智也の手を引っ張り、智也をかがませた。

 アンバー・アイの攻撃が空振りとなる。


「喜美子、カメラを持って逃げろ。俺が何とかする」


 智也は喜美子にカメラを預けた。


「無理よ」


「いいから」


 智也は喜美子の背中を押した。喜美子はためらいながらも、その場から駆け出す。

 アンバー・アイが喜美子の後を追いかけようとするが、智也がそこへ立ちはだかった。


「先へは行かせないぜ」


 智也はアンバー・アイを殴った。

 だが、アンバー・アイは表情すら変えず、平然としている。


「くそっ!」


 智也はアンバー・アイを何度も殴ったが、全く動じる様子がない。


「何て奴だ」


 智也は逆に真っ赤になった拳を押さえた。


「死ねっ」


 アンバー・アイは智也に向かって鋭い拳を放った。


「ひっ」


 智也は顔を引きつらせる。

 アンバー・アイの拳が智也の顔の直前で止まっていた。


「おまえは……」


 アンバー・アイの腕をつかんでいたのは裕美だった。


「アクア・アイは――」


 アンバー・アイが焼却炉の方を見ると、そこには倒れているアクア・アイの姿があった。


「くっ」


 アンバー・アイは裕美の腕を振り払って、逃げた。


「追うわ、智也君」


「ああ」


 裕美と智也はアンバー・アイの後を追った。

 アンバー・アイがクラブ棟の角を曲がる。

 続いて裕美たちが曲がった。


 その時、裕美たちが誰かと衝突した。

 双方とも後ろへ吹っ飛んだ。


「いたたっ、誰だっ!」

 尻餅をついた男が大きな声で言った。


「げっ、上原……」

 智也が男の顔を見て、言った。男は智也の担任の上原であった。


「おまえは久坂弟。こんなところで何やってるんだ」


「先生こそなんだよ」


「俺は宿直だ」


「今、ここに女が走ってきただろ」


「女?知るか。それより、何でここにいるんだ」


「説教はいい。大変だ、焼却炉に死体があるんだよ」


「何をバカな。どうせつくなら、もっとましな嘘をつくんだな」


「だったら、ついてこいよ。証人だっているんだ。な、裕美。あっ、あれ」


 いつのまにか裕美の姿はなくなっていた。


「どうした?」


「何でもねえ。さっさとついてこい」

 智也はそう言って焼却炉へ歩きかけた時だった。


 焼却炉の方で大爆発が起こり、闇夜に白い噴煙が上がった。


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