11 体育館裏
放課後――
「やっと見つけた」
体育館裏を訪れた喜美子は、しゃがみ込んでアスファルトの地面を観察している裕美を見て、大きな声で言った。
「あら、久坂さん」
裕美は喜美子に気づいて、顔を上げた。
「あら、じゃないわ。校内中、探したんだからね」
喜美子は少し息を弾ませていた。
「何か用ですか?」
「あなた、何者なの?」
「日高裕美ですけど」
「名前は知ってるわよ。あなた、転校生じゃないでしょ。生徒課で名簿を調べたのよ。二年A組にあなた
の名前はなかったわ。もちろん、桜華高校全クラスの名簿にもね」
「そうですか」
裕美は立ち上がった。
数分間の沈黙。
「それだけなの。何か言うことはないの」
喜美子は少し戸惑った様子で言った。
「久坂さんの言う通りですよ。少しばれるのが早かったですね」
「あっさりしてるのね。あなた、わかってるの?学園の関係者でもない人間が学園に入るってことは住居不法侵入よ。犯罪なの」
「でしたら、警察に通報したらいかがですか?」
「どうしてそんなに落ち着いていられるの?警察に逮捕されるのよ」
「久坂さんはそんなことしないと思うから」
「どうしてそう思うの?」
「あなたは私がどういう人間で、何の目的でこの学園に来たのかを知りたいんでしょう」
「……」
裕美に自分が思っていることをつかれ、喜美子は口をつぐんだ。
「私があっさり警察に連行されれば、そのことはわからなくなるものね」
「じゃあ、教えてくれるの?」
「あなたの出方次第で」
「わかった。今日のところは見逃してあげるわ」
「それで十分。ねえ、これを見て」
裕美は足下を指さした。
喜美子が裕美のそばに歩み寄る。
「何も見えないわよ」
「水でほとんど洗い流されているんだけど、わずかに血痕が残っているでしょう」
「どこに?」
喜美子はしゃがみ込んでみたが、夕方と言うこともあって、地面に血痕があるのかどうかよくわからない。
「また誰かが失踪したのかもしれませんね」
「え?」
喜美子は裕美を見た。
「生徒たちの話だと、体育館裏は不良生徒のたまり場になっているそうですけど、今日は全く姿を見た人がいないそうです」
「さぼりでしょ」
「だといいんですけど、こちらの木には小口径の弾丸がめり込んでいた痕があるんですよ」
裕美は桜の木の幹に手を置いていった。
「何が言いたいの?」
「犯人を知りたくありませんか?」
「犯人って、まだ誘拐かどうかもわからないじゃない」
「そうですね。じゃあ、みんなはどこへ行ったんでしょう」
「そんなこと知ったこっちゃないわ。本当に失踪したのなら、そのうち警察が調べるでしょう」
「自分のこと以外は無関心ですか」
「何か腹立つわね」
喜美子は裕美の含みのある言い方に嫌悪感を覚えた。
「今夜九時、よかったら正門の前に来て下さい。おもしろいものが見られるかも」
裕美はそう言うと、その場を去っていった。
「何なのよ、あの子」
喜美子は裕美という人間がさっぱりわからなくなった。




