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97.太陽は燃え盛り

 スルトはヘリオスの元へと一直線に駆けていた。道中に見かけた異形はその体内に炎を埋め込み、横をすり抜けがてら内から爆発させる。

 進むにつれて増えていく異形の姿に、スルトは眉をしかめた。突然姿を現す異形の数も然り、全員が全員同じ方向へと何かに導かれるように突き進んでいくのだ。

 どうやら、ヘリオスが集中攻撃を受けているという外れてほしかった予想は的中しているようだった。

 ぐ、と唇を噛み締めて、至る所にいる異形たちを屠っていく。スルトが駆け抜けていった箇所には、大きな爆発と崩れゆく異形の姿だけが残された。

 時折スルトは大きく跳躍して、集団でかたまっている異形たちのなかに地面を踏み抜くようにして着地した。衝撃を逃がすように深く腰を沈めた状態のスルトとは違い、異形たちは不意を突かれ、さらにはスルトの着地の反動によって宙に体を浮かせる。その瞬間にスルトは自身を中心として大きく炎の刃を一閃し、周囲の彼らの胴を泣き別れにした。

 その後の彼らには目もくれず、スルトはすぐさま駆けだす。

 ヘリオスの気配が、すぐそこに迫ってきているのだ。

 それからそう時間もかからずにスルトの視界に入ったものに、彼は赤い目を見開いた。

 不自然に宙に浮かぶ異形の塊。蠢く彼らの中心に、ヘリオスがいるのだろう。まるで蜘蛛の糸を伝って空に手を届かせようとしているかのように、あとからあとから異形たちがその塊に加わっていく。

 その悍ましさに、大切なひとを傷付けられた激情をそのままに、スルトはその異形たちに手をかざした。空気がゆだるほどの熱が彼らを包み込み、一瞬ののちに彼らは細かい破片へと成り果てた。

 果たして、スルトが会いに来た相手は、ころりとその破片から零れ落ちてきた。

 高所からまっすぐと落下してくる真白の彼の軌跡を示すように、赤が尾を引いていた。


「ヘリオス!!」


 悲鳴のような声だった。

 今まで一度だって出したことのない、喉を裂くような悲鳴だった。

 必死に受け止めたヘリオスの体は、身体がゴムでできているかのように脱力しきっていた。まるで精巧な人形のように、重力に逆らわずに腕が落ちる。体はぼろぼろで、ところどころ穴すら開いていて、それなのにどこか満足感を漂わせて、スルトとお揃いの赤い瞳を瞼の裏に隠している。

 それでも、スルトは泣かずにはいられなかった。


「ごめんね、ごめん、気が付かなくてごめん。ヘリオスは痛いの嫌いなのに、一人で頑張らせてごめん」


 返事はなかった。もうヘリオスはここにはいなかった。神になって、遠くへと行ってしまった。

 所詮人間であるスルトの必死に伸ばした手は、太陽には届かなかったのだ。

 しかし、彼の体にはまだ僅かに神性が残されている。スルトに、この世界を壊すための導を示してくれていた。

 急速に温もりを失っていくヘリオスの体を一度緩く抱きしめて、スルトは目を閉じる。


「うん、見えたよ、ヘリオスが照らしてくれたから。だからあとは俺に任せて。俺がこんな世界焼き尽くすから、ヘリオスは安心してレーヴとミスラに会いに行ってね」


 ぽろぽろと閉じられた瞼の間から涙がこぼれる。サングラスがその涙を受け止めるような形になって、スルトはサングラスをぐいと外した。

 引きつりそうになった呼吸を押しとどめるように深く息を吐いて、スルトは虚構の壁をまっすぐに見つめた。ヘリオスが照らした偽りとの境界線が、いまのスルトにははっきりと認知できている。


「俺は、スルト(世界を焼き尽くす者)だから。ちゃんとできるよ」


 彼はその吹き上がるような炎の瞳を燃やし、虚構へと手をかけた。

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