101.はるかな夢から未来の恵みへ
果たして、少女はそう遠くまでは連れていかれていなかった。というのも、彼女が全力で抵抗していたからである。オリジナルの名残とはいえ、虚構の神権を僅かに宿したその体は、やはり常人とは思えないほどの力を秘めているのだ。そして、そんな存在に全力で抵抗されては、成人男性二人がかりといえども抑え込むのは非常に困難である。むしろ、ここまで引っ張ってきたことにノーシスはほんの少しだけ驚嘆を覚えたのだった。
少女にかかりきりになって周囲への注意が疎かになっていた護衛二人は、案外呆気なくノーシスの神権の前に倒れた。
地面に伏してぴくりとも動かなかくなった二人を、少女が肩で息をしながら見下ろしていた。やがてレーヴそっくりの丸い金茶の瞳がノーシスを映し、どこか縋るように見上げた。
「わたしに『レーヴさん』のこと、教えてくれる?」
「いいよ、全部教えてあげる。君のお姉さんのすべてを知る権利が、君にはあるから」
そう言いながら、ノーシスはそっと少女の額に手のひらを当てる。
「君は確かにレーヴさんから生み出されたけど、複製体なんかじゃない。レーヴさんのことを知ってあの人と自分を切り離さなければ、君は君をいつか見失う」
少女が僅かに頷いて、ノーシスの権能を受け入れるようにゆっくりと目を閉じた。
どうやら過去にテオナールに面と向かって「この子どもはレーヴじゃない」と言われているようだったが、当時少女はその意味をうまく理解できず、逆に大きなしこりとなって彼女を苛んでいたらしい。
「他人の俺が訳も分からず涙を流すくらいなんだから、血縁者の君なら、レーヴさんからたくさんの想いを受け取れるはずだよ」
少女の脳内にそっと流し込まれたレーヴの一生は、やがて記憶の奔流となり、彼女を呑み込んだ。
体から力が抜け、自立できずに倒れ込みそうになった少女をノーシスは危なげなく受け止める。
ここからは、少女が目を覚ますまで防衛の一手である。ノーシスは少女の背をそっと壁に預けさせ、着々と集まりつつある相手側の陣営を相手取るために再び立ち上がる。万が一ノーシスを相手にするよりも少女を奪還することが優先される可能性も考えて、少女の四方八方は障害物で遮った。
少女が早く目を覚ましてくれることだけを願って、ノーシスは深く息を吐いた。




