【鉄騎】
「ねえ、エリザベス母上、いつも通り赤兎馬で来てるんだよね?」
ガラムが工房に使ってる小屋に向かう途中でそんな事を聞かれた。そして小屋の中に案内されると……そこには真っ黒な鉄の馬があった。
「姫さん、鉄じゃなくて魔鋼だけどな」
「ガラムと私で作った試作品。『鉄騎』って呼んでる」
馬と言うのは適切じゃないね。首の根本に自転車みたいなハンドルが付いてる。足がなくて代わりに車輪が四つ。馬がいなないてるように首を高く上げて顔は天を向いてる。
「なんなの?コレ」
「いきなりガソリンエンジンの内燃機関は難しかったからさあ、だから蒸気機関。ガソリン車が普及する前には蒸気機関を使った『蒸気自動車』ってのが実際にあったんだよ」
「クララの嬢ちゃんから見せてもらった事典でよぉ、蒸気機関ってえのを知ってぜってぇ作りてぇと思ったのさ。魔石と刻印魔法で水を生成して、炎の刻印魔法で蒸気を沸かす。それで蒸気タービンを回すって寸法だ」
「ちなみに操作系はバイクの再現で作ってもらってる。慣れてたから」
ってちょっと待って。中村さんってバイク乗りだったの?
「そだよ。最初に乗ったのがNinjaの250、それから人気のCB400に乗り換えたんだけどなんか感覚が合わなくてねえ。それでNinjaの400に戻った」
人は見かけによらないねえ。てーか見た目は七歳児か。
「だから足が届かなくてねー。シフトペダルの高さを私の体格に合わせてもらってる。大人が乗る時はその辺はガラムが直してくれる事になってる」
ちょっと絶句、娘が不良になってしまった。お母さんは悲しい。
「バカなコト言ってないで、走行試験付き合ってよ。秘密が明かせる人がまずいないし、鈴木さんは馬も乗れないしで試験に困ってたんだ」
「ちょ、ちょっと待った。ベグをどうやって納得させるつもりよ??」
「んー?それはほら。『女神様の子だから』で誤魔化せない?」
そう言って鉄の馬……鉄騎か……にまたがる七歳児。仕方なく私は赤兎馬を出してもらい、ガラムを後ろに乗せた。
「んじゃ、いっくよー」
フンーーーーーーッ!!
鉄騎の鼻からものすごい鼻息、いや蒸気か、が吹き上がる。
走り出した鉄騎の速度はすごかった。魔道騎士団の全速だよ、これ?
「ちょっとクララ。飛ばし過ぎじゃないの?危ないって」
「んーー?平気、平気。前世ではもっと飛ばしてたしー」
一時間半後、私たちはステアに到着してた。たぶん平均時速八十キロくらいだね。事前に伝書鳩を飛ばしてたらしくマリアが出迎えてくれる。
「ふう、やっぱりこの身体だと疲れるねえ。あ、ガラム。異常がないかチェックお願いね」
「おうよ」
マリアが用意しておいてくれたお昼ご飯を食べる。
「前世でも自動車が出始めの頃は『馬無し馬車』とか言われてた時代があってね。この世界で馬が無くて自走する車って絶対に奇異に写ると思ったんだ」
「だから敢えて馬っぽいデザインにした、ということ?」
「そう。これに馬車を引かせればいいんじゃないかな。飼い葉の用意もいらなくなるし、魔石ならこの世界どこでも手に入るし」
なるほど。
「それでさ、赤兎馬ってもっとスピード出るんだよね?」
出るけど?
「さっき四速までしか使ってないの。六速まで使えば時速百二十キロは余裕だから」
は?ちょっと待てぃ。
「黒猫馬車や魔道騎士団が平均時速百五十キロで移動できるようになったら、エナドリ飼い葉を一般に開放できると思わない?」
!!!
「でもさあ。あんまりトバして事故んないでよ?中村さんは異世界人同盟だけど、クララは私たちの娘でもあるんだから」
「そこは女神リザ様の加護でなんとかしてくんないかな?」
そんな時だけ神頼みにしないの!
「それよりもこの『鉄騎』だっけ?七歳児が発明した事にするのはさすがに不自然じゃない?」
そう言って割り込んできたのは鈴木さん。
「『鉄騎』の構造については、ガラムにお願いしたら模倣できなくできるかな?」
「それは任せてくれ、姫さん。クララの嬢ちゃんともそういう話になってる」
取り合えず特許的にはクリアか。
「中村さんの成果を横取りするみたいで悪いんだけど……」
「あー、別にいいよ。私がバイクに乗りたかったのと、ガラムの興味がたまたま一致しただけだから。マリアが考案した事にするのがいいんじゃないかな?」
「え?私、巻き込まれるの??」
そうだねぇ。過去の成果を考えたら『エリザベスが作りました』よりも『マリアが作りました』のほうがバランス的に妥当かもしれない。
あとはベグには口止めしとかないと……なんか私が女神様になっちゃったから天啓を受けたらしい、であっさり納得はしてくれたんだけどね。周囲に知れたら護衛が大変になるでしょ?と言ったら理解してくれた。
そんな打ち合わせをした帰り道。中村さんは本気で最高速を出してみてた。お昼に、赤兎馬にエナドリ食べさせてなかったら追いつけなかったかもしれない。ステアからアクセルまで約百二十キロを五十分くらいで駆け抜けたから時速百四十キロくらい出てた事になる。
クララは上機嫌だし、ガラムもいいデータが取れてご満悦。私だけが神経すり減らした気分だよ。




