【摂政】
王の要請を受け入れた結果、アレックス公爵として旧レクサス領の大半を封じられた。
「ねぇねぇ。梅パックでヒロイン引いたのってどんな気持ち?ねぇどんな気持ち??」
「ウザい!」
王命を受諾してしまったら『あとはよきに図らえ』ってのは王様だからできる事。こっちは実務協議があるんで宰相を窓口にしてまずは人事面を詰める。マリアでも揶揄ってないとやってられない。
まずクララがセレス伯爵になる。でもまだ外見は六歳なんでマリアをステア子爵に陞爵してもらって事実上のセレス伯爵補佐になってもらう。またセレス伯爵領の城下町をステアからアクセルに移した。
ステアのみんなは城下町が移る事には特に異論はないんだけど私が領主でなくなるほうがツラいらしい。子どもの頃にやってきて貧しい漁村からここまで発展させたのは私だからね。せめてマリアをステアに配置する事でこの町を見放したわけじゃないってメッセージを込めたつもりだ。
最低限の体裁が整ったところで王宮からアレックス公爵家の再興とそれに伴う叙爵が発表された。さらに国王が病気で執務が困難との理由から引退、まだ六歳の王子が新国王になる事が合わせて発表、新国王は婚約者と正式に結婚してアンが王妃になった。
そして私の摂政就任。宰相が事前にかなり根回しを進めてくれてたらしく大きな反発は起きなかった。父上は歓迎の意向、王都周辺のリーナ伯やランクス侯、王太后の縁者であるアクシオ侯爵や、トーケ先輩の身内になったアリオン伯爵、この辺は親アレックスの立場。対立とまではいかないけど面白くなさそうなのはレクサス公とその取り巻きたちくらい。
ただ、カスミ教がお祝いのコメントを出した事で身動き取れなくなってる。領内に信者が多数いるからねえ。ナツヒ先輩は政治と宗教の距離を取ってるからこのコメントに政治的な意味はないんだけどレクサス公からしたらけん制に感じるだろうね。
さて、摂政というのは国王の全権代理なわけだけど私が私利私欲で動いたらそのうちに自分を滅ぼす事は知っていた。これでも歴史は好きだったからね。平安時代の藤原氏だったっけ?なので、独裁者にならないためにも何重ものストッパーを自分にかけた。
その一番内側が、鈴木さんと中村さんの異世界人同盟。鈴木さんは薬剤師、中村さんは理系大学生だったそうだけどいずれにしても私より学がある。さらには中村さんの電子事典には歴史上の権力者の末路なんかも色々と情報も載ってて……うーん、コワいねえ。自制大切。
その次がハニャス先輩とトーケ先輩。二人とも次期国王の側近として育てられたからね。この世界に於いては国王代理の補佐として申し分ない。ここまでで実質的な国の施策は決定される。
それでもさらにもう一つ用意したのが御前会議。お子様国王を上座にして、摂政の私。それから宰相と筆頭宮廷魔術師、総騎士団長が並ぶ。さらにはオーリス公爵とレクサス公爵。王が全てを決めるのが当たり前のこの世界でこの合議のような制度は画期的だったらしい。
この場では異論や反論は認めるけど拒否権は認めない事にした。これは鈴木さんの提案。なんでも前世では利害が対立した場合に拒否権を乱発することで重要な議案が全く決まらなかったという話があったそうで。
もう一つ、『持ち帰って検討』ってのも必ず期限を決めることにしてある。これもズルズルと先延ばしにする妨害を防ぐためだ。
ただし本当の緊急事態に際しては私の独断で決定し追認を得る事とした。こうしておかないと魔人騒ぎや竜災害みたいな緊急事態に初動が遅れるからね。これについては乱発しないように鈴木さんやハニャス先輩にしっかり私の事を見ててもらう。
◇
外面だけ整えたけどアレックス公爵家としての人事は全く整理がついてない。
まず王都の屋敷は引き続きアレックス公爵とセレス伯爵共同で使う事にして、ミナが全てを取り仕切ってる。で、ドーバだけどクララの配下に移ってもらった。これには理由があって、中村さんの件をミナとドーバ、それからガラムたちに明かした時、電子事典に一番盛り上がったのは当然のようにドワーフ職人たちだったんだけど、ドーバもなかなかの食いつきぶりを見せた。なんかね、この世界にはない料理や調味料に心ひかれたみたい。まあドーバのお店にはセレス伯爵家の家紋も掲げてるし、移籍にはいい機会だと思う。
アクセルの街はセレス伯爵の家令としてシャドが、ステアの町はステア子爵の家令としてヴァイスが引き続き取り仕切ってくれる。で、新しいアレックス公爵家だけど、ヴァイスの息子のフォグが家令として取り仕切ってくれることになった。
次に領地は魔人騒動の報奨に賜った旧パッソ領はアレックス公爵領に組み込んだ。ペダル、シフト、クランクの街はハニャス先輩、トーケ先輩、ナツヒ先輩の三人の元攻略対象が治めてるんで、私の配下に置いたほうがいいだろう、っていう判断。それにあの地は西海岸防衛の責任もあるからね。クララの負担はなるべく減らしたい。ただクランクの街はナツヒ先輩に自治権を認めていて聖都の運営には私は関与していない。税もアレックス公爵家が徴収するんではなく直接王家に治めてもらってる。これも政治と宗教の切り離しの一環だね。鈴木さんは『バチカンみたい』って言ってた。
ステアの漁業は父上に卸すだけになってるんで昔のような利益は出てないけど、聖都巡礼の帰りにステア観光に立ち寄るのが流行ってるんで観光で利益が出てる。それにアクセルの創薬も順調なんで領地経営には問題なさそう。
それから魔道騎士団は引き続き私が国王から指揮権を委譲されたままとなる。セレス騎士団(俗称)のうち、西海岸警備隊五百騎は魔道騎士団と統合してハニャス先輩の指揮下に入る事にして衛士隊一千人を二つに分けてセレス領とアレックス領の警備に当たってもらう。後は今までと違って国境警備の責務を負うからアレックス公爵家の騎士団を作る必要があった。
はあ、どんな顔して逢えばいいんだろう、と思ってるとその相手がやってきた。
「エリザベス様、愚息が重ねて迷惑をかけた事、深くお詫び申し上げる」
「頭を上げてください。それよりも状況が他の選択肢を許さなかったとは言え、カヅチ先輩を滅したのは私です。恨まれても仕方がないと思ってます」
「いやっそれは断じて違う。貴女が手を下さなければ愚息はさらに大きな災いを国に振りまいた事でしょう。そうなれば我が家名は失墜していたところでした。『自分の強さを探しに行く』と言ってましたが、アレは最後まで『強さとはなんなのか』が理解できなかったのでしょう。ハニャス殿と一緒に仕事していたから特に痛感してますよ」
それで本題なんだけど。
「アレックス公爵家の再興と言っても私には力が足りません。特に公爵家ともなると国境警備の責務がありますからそのための騎士団設立は急務なんです」
「エリザベス様、一度引退した老兵ではありますが愚息の受けた『恩』を返すために、生涯我が剣を捧げる事をお許しいただきたい」
息子を滅ぼされた事を『恩』とはなかなか言えないよね。そう言ってくれるだけでもうれしいんだけど人材が圧倒的に足りてないのも事実だ。だから私はそれを受け入れた。
「あなたをアレックス騎士団の騎士団長に任命します。総騎士団長まで務めたかたには役不足ですが爵位も王宮と掛け合います。力を貸してください」
『役不足』は本来こっちが正しい使い方のはずです。
「私のような小娘が用意できる立場ではあなたにとっては物足りないでしょうが」という意味合い。
誤用の『役不足』は本来なら『役者不足』や『力不足』が正しい言葉のはずなんですね。
詳しくはネット検索で『役不足 誤用』をどうぞ。
※ 田中さんは中卒だからあえて誤用のほうを使うと言うのも考えましたが、ここは誤用が広がるのを防ぐ事を優先しました。
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