【アレックス公爵家】
竜騒ぎの後始末に立て続けでのレクサス公爵配下の大罪で揺れた一年はあっという間に過ぎて、今年はクララも六歳になる。最近、月日が経つのが早く感じるね。
「ナニ年寄りくさいこと言ってんのよ。私たちは永遠の十七歳でしょ」
「「おいおい」」
私とクララのツッコミがハモった。
「まあそれはともかく今年も新年の祝賀会だからねえ。セルシオ公爵家の滅亡にレクサス公爵の配置替えとか色々あったからちゃんと出席しないとなんだよなあ。メンドくせえ」
「そんな言葉遣いしちゃダメでしょう?キリキリ働くっ!」
そう言ってる自分は今年も寝正月じゃんか。
「だって私は陛下のための薬づくりはちゃんとやってるもの」
「ちゃんとやってる、つうても女神像頼りじゃんかあ」
「ヒロインの魔力使えばもっとラクできるんだけどねえ。色々と面倒が起こりそうだから」
陛下の余命を少しでも伸ばすため、私は宰相にお願いして許可を取った。マリアには第二王子の妊娠で実績があるから比較的簡単に許可がでたらしい。
それでマリアに事情を打ち明けて長寿の漢方薬を作ってもらってる。これには中村さんからもたらされた専門書の知識も大きく役に立ってる。さらにカルダが考案した女神の加護をエナドリ飼い葉に応用する技術を使って漢方薬の材料は女神像が設置された蔵に保存されている。
つまりは私が宿した女神の力、鈴木さんの薬学、中村さんのもたらした専門資料の三つが融合して国王の命を支えてる状態だった。
そんな国王の状態確認もあって私は祝賀会に出席した。
祝賀会で国王は普段とあまり変わらない様子だった。けれども普段より少し覇気がない気がした。一方、レクサス公爵は欠席で名代として麾下の子爵が形だけ参加してる。欠席理由は『新たな領地での立て直しで苦労してる』って事だったけど、たぶん本音では人心掌握が上手くいってないんだろう。
何しろ、彼らは住民の被害お構いなしに暴れまわった挙句になんら成果を出せずに逃げ帰ったというのが一般的な評価だからだ。その上、ナツヒ先輩の布教でカスミ教信者が多く、竜災害を止めたのも実はカスミ教の女神様だと住民たちはみんな知ってる。
むしろ出席してたら、どのツラ下げてきたんだ?とプークスされるレベルなのが昨今のレクサス評なわけでして。
そうして帰り際に宰相から『日を改めて話がある』と言われて帰宅した。
◇
「なんで私たちまで呼ばれたのよ?」
「しょうがないじゃない。アクセル男爵と次期セレス伯も連れてこい、ってのが先方のリクエストなんだから。あ、中村さんは子どものふりしてればいいから」
そう言いながらも宰相からの要請に私は心当たりがあった。いつもと違って日差しがたっぷりと入る部屋に案内される。直接日が当たらないように配慮された場所には大きな肖像画が飾られてた。
「「「!!!」」」
「ははうえ?」
思わず声を上げたのはクララ。
「よく似ているであろう?」
やっぱり化粧で誤魔化してたか。いつもの爽やかイケオジは見る影もなく、かなり年老いて見えた。
「陛下。この肖像画は?」
「今は絶えてしまったがアレックス公爵家の姫が二百年前に王家に輿入れして王妃となった。奇しくもエリザベスという名でね。彼女は二人の王子を産んだ。一人は次の国王に、もう一人が分家を起こしてそれがオーリス公爵家になった。つまり彼女は私と君の共通のご先祖様と言うわけだな」
一人称が『私』になってる。これは完全にプライベートな話という事だろう。
「私は君にアレックス公爵家を再興して欲しいと願っているんだ」
「なぜそこまで私を買ってくださるのでしょうか?」
「前にも話したような気もするがな。本音を話すとしようか、私は君に憧れたのだよ。
最初に鮮魚の話を聞いた時にはまたオーリスのヤツの親バカが始まったと思ったものだ。だが調べさせてみれば本当にエリザベス嬢の出した成果だと分かった。
その自由な発想は私にはなかった。王と言うのは孤独なものだ。そのうちに君は美しく育った。その姿がこの肖像画に瓜二つな事にまたビックリして、血を感じたよ。さらにだ、私の祖母はマリノ伯爵家から輿入れしてきてね。アレックス公爵家が滅んだのは他国の侵略に対して一族郎党全滅するまで抵抗したからなんだが、そのおかげで生き残ったのがマリノ伯爵家だったんだ。
そのマリノ伯爵家は数年前に血筋が途絶えてしまったんだけれども、空き家になった王都屋敷を買い取ったのが君だったのには奇妙な縁を感じたんだよ」
ちょっと待って。設定が渋滞してるよ??
つまり、なんだ?大昔に私と同じエリザベスって名前の王妃が居て、それがイケオジと私の共通の先祖で。外見が私そっくりと。さらにそのアレックス公爵家ってのがイケオジのおばあさんの家を守って滅亡して、イケオジのおばあさんの実家を私が買い取った??
自分で言っててもまだ理解が追い付いてない。
「しかし私に権力が集中してしまうのは危険だと思わないのですか?」
「王とは全てを背負うものだ。またそうでなくては政は行えぬ。しかし君は言っただろう、『民あっての統治者だ』と。統治者が民におもねる事はあってはならぬが、だからと言って民の事を考えない統治者では国は衰退するであろう。サレナがそうであったように。今、レクサスが苦労してるように。君の発想は先進的だ。時代を突き抜けているともいえる。だからこそ君に賭ける気になったのだ。この国を託すに値する、とな」
権力は分散して互いにストッパーになるべきだ、という考えはこの王国ではまだ早いのだろう。だから国王は私に権力を集中させる事が国の安定につながると考えてる。反論したい気分はあるけど、残り余命の短いこの人に負担を掛けたくない。
「みなが尽力してくれておるのは知っているがもう私の命は長くないだろう。これも我が子に呪印を刻むような所業の報いなのかもしれぬ。
だがそれでも私は……『余』は王なのだ。民の幸せを考えずして王を名乗る資格はない。エリザベス嬢、そなたにこの王国を……いや、王家なぞがなくなっても構わぬ……この国を託したい」
いや想いは分かったけど私には重たいよ?それ?
「その肖像画の額縁には誰にも読み取れぬ彫刻が刻まれておってな。ちょっと見てはくれぬか?」
私とマリアは目くばせして国王に一礼してからその肖像画に近づく。もちろんクララも連れてだ。
『乙女ゲーム世界に転生したら攻略対象のご先祖様だった件。
やっぱり梅パックじゃダメね、もう少し頑張ってお金出しとけばよかった。
将来、乙女ゲームの時代に転生者がいたらどうか王国の未来のためにがんばってください』
思わず三人で顔を見合わせてしょっぱい顔をする。でも……これじゃあ断ることもできないかなあ。
「王命、拝受いたします」
その言葉に国王は満足そうに頷いた。
反応があると励みになります。よろしければリアクションや感想等いただけると嬉しいです。
これからもお付き合いいただければ幸いです。




