【神罰】
しばらくして神官騎士の増援が到着した。それに合わせてナツヒ先輩も一時的に前線基地に戻ってる。
「待ってっ!なんで聖都で売ってる女神木像をそんな大量に持ってきてるわけ?」
「住民たちに女神様の加護を授けようと思ってね」
「でもその木像、聖都の女神像がないと加護の付与できないですよね?」
「マサラ殿から刻印魔法の術式を教わってきた。私が女神像の代わりに信仰を中継する。理論上は行けるはず」
「お前の魔力が持てば、の話じゃないか?」
ハニャス先輩の言う通り、それは私も危惧した。
「マリア嬢に要請してアクセルから魔力回復薬を大量に融通してもらってる。どこまでできるかは未知数だけど手をこまねいて何もしないよりはいいと思う」
「……エリザベス嬢的には信仰心の収支はプラスになるはずだ。それに竜人は女神の加護を忌避する可能性が高いから戦闘に巻き込まれる事も減らせるかもしれない。さらに怒れる火竜であっても女神の気配を感じればそうそう暴れない事も期待できるね」
ハニャス先輩の評価に対して、この場での最高決定権を持つ近衛騎士団長は教会による女神像配布を認め、私も渋々了承した。
約一か月が経って、女神木像の効果が出てきた。ハニャス先輩の読み通り竜人は女神の加護を忌避し、火竜も女神の加護に被害が及ばないように立ち回ってるように見える。結果、両者の戦闘エリアは次第に狭まってきた。このまま国土外に押し出そうという意見もあったが、将来の禍根は絶っておいたほうがいいだろうという判断で、全戦力を持って現場に赴くことになった。
戦場に近づくにつれて気分が悪くなってきた。パッソ領の瘴気災害の時はこれよりも悲惨な状況だったのに。と私の中の闇属性が増大してる事に気づいた。負の感情が流れ込んできてるっぽいことが分かる。心配なんで専門家に頼る。
「おそらくだけど『苦しい時の神頼み』で信仰心のない住民たちが祈ったんだろうね。でも普段から信仰してないから神々にその願いは届かない。もちろん女神リザ様に捧げた願いでもないからエリザベス嬢にもその願いは届かない。
それで叶わなかった願いが『願いを叶えてくれなかった怨嗟』になってこの地に充満してるんだと考えられるね」
「俺もナツヒの意見に賛成だ。付け加えるなら、そこに神の器を持つエリザベス嬢がやってきたからその怨嗟が集まってきてるんだと思う」
なんだよソレ。逆恨みじゃん。それはそうと気がかりな事を聞いてみた。
「前にマリアと話し合った事があるんですよ。女神リザの邪神化について」
「ああ、マリア嬢からはその話は聞いてる。でも安心して欲しい。ここにいる神官騎士たちは女神リザ様への信仰心が篤い者ばかりだ。我々の女神を闇落ちなんて絶対にさせないよ」
私が邪神になるようなら先輩たちで討伐してくださいね。
◇
そんな不安を抱えながらも戦場に向かう。
戦場では竜人と火竜がそれぞれボロボロに傷ついてなお対峙してる。『ゲッ!』思わず内心で毒づく。
「なあ、ナツヒ」
「ああ、ハニャス」
「「「あれ、カヅチじゃね?」」」
もう先輩だけど呼び捨てだよっ!!ってーかなんてことしてくれてんだよアイツ。お父さんが泣くぞ。
「とにかく状況の終息が先でしょう。その後の事は落ち着いてから考えましょう」
女神の力の完全解放。こんな事をする日がくるとは思ってなかった。竜人と火竜の間をフルパワーの聖結界で隔てる。
『むっ?レッドムーンか、なに用だ?』
レッドムーン?……ああ、そう言えば鈴木さんから聞いたな。銀の月がヒロインで赤い月がその運命の相手だって話。それよりもドラゴンって人と会話できるんだ、と思ったんだけどどうやら理解してるのは私だけらしい。いくら女神になったからって……あーこれ転生基本セットの翻訳機能かあ。
あなたとアイツの戦いを止めに来ました。人間たちは巻き込まれて酷い目にあってます。
『だが我はアレを許す気は毛頭ない』
何やったんですか、アイツ。
『我が孫を騙し討ち同然で殺して喰らい、その力を簒奪したのだ。竜の誇りにかけて倒さねばならぬ』
「…………って言ってますけどどうします?私としては火竜さんにはお帰りいただいて竜人を始末するのが最適解だと思いますけど」
「竜人の始末って言っても簡単じゃないぞ?火竜ほどの脅威ではないとは言え、この場にいる騎士総出でもかなりの被害が予想される」
「それでも竜人と火竜を同時に相手するよりはマシです。それとリスキーですが一応は手もあります」
「カヅチは学友だったがあの事件といい、今回の件といい、自分勝手過ぎる。ここで滅しても致し方ないと俺は思う」
「俺もナツヒと同意見だな。それにおそらくあそこまで竜人化が進んでしまっては元に戻すのは不可能だろう」
「カヅチ殿の親、元の総騎士団長には私から伝えましょう」
そう言ってくれたのは近衛騎士団長。私的にはそれが一番つらかったから助かるよ。そうと決まれば火竜との交渉再開だ。
『あの痴れ者は女神リザの名において神罰を与えます。滅するとは確約できませんけど。だからあなたは巣にお戻りくださいますか』
『神が真名にかけると言うか。ならば信じよう。我が真名はソル、太陽の名を冠した火竜の祖が一柱である。人間どもが「お天道様が見てるぞ」と言うように我はこの世界の全てを見ておる』
なんだ、このドラゴン。妙に人間くさいところがあるぞ?
『ではここに盟約を結びましょう。この国の人間たちにあなたの縄張りは荒らさせない。だから竜たちも人間の領域を荒らさないで欲しい』
『あい分かった。ここに盟約は結ばれた。では私は帰ろう。あの痴れ者の始末は任せる』
そう言って火竜は見届けもせずに飛び去って行った。さて人間みたいな竜の次は竜みたいな人間の番だ。
「という感じに話がまとまりました」
「……ということは?」
「ええ、リスキーと言った手段を取ります。魔道騎士団と神官騎士たちの力を貸してください。この地に充満してる神への怨嗟を取り込んで、女神の『荒魂』として神罰を下します」
かつて鈴木さんは言った。『田中さんが善性を失わなければ大丈夫だ』と。物心ついた時には母親がいなかった。まだ小さい頃にお父さんが死んだ。伯父さんは金銭的支援はしてくれたけど家族にはなれなかった。一念発起して異世界転生したら悪役令嬢だった。断罪回避のために頑張ったけど魔人騒動に巻き込まれた。恨み言を言ったらキリがないけど、事実は受け止めて前だけ見てきた。今さら神への逆恨み程度には負けない。
体の中に負のエネルギーがどんどんと入ってきて私の中の闇属性がイッキに膨れ上がる。そのままでは制御不能になりそうだったけどハニャス先輩たちが祈りを捧げてくれるおかげで聖属性を使って暴発しないように抑え込む。そうして闇属性が最大になったところで力を解放した。
『神罰』
闇の雷がカヅチを穿つ。闇が消えたあと、そこには誰もいなかった。
「やったのか?」
「いえ、直前で逃げ出したようです」
手ごたえがない、とマンガなんかでは言うけど本当だったね。仕留めた感触がなかった。
「でも力はほとんど失ってると思います。竜の因子が残っていれば復活することもあるかもしれないですけど、おそらく数百年以上かかるでしょうね」
それならまあ、と安堵する面々。私は太陽を見上げてボソリとつぶやいた。『これでいいですか?』と。
『ガハハハハ。天晴であったぞ』そんな幻聴が聞こえた。いや、たぶん幻聴じゃない。あの火竜は本当にお天道様の視点で全てを見ていたんだろう。
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