【特別講師】
マリアが裏で手を回したらしくカスミ教でも正式に『女神リザ』という呼び方が定着しつつあるらしい。
なんだかね、もういいや。
バタバタしてるうちに新学期。かねてからの要請に応じて私は学園の入学式に招かれてた。『セレスの聖女』だの『国王陛下の懐刀』だのに交じって『女神リザ』とかざわめきの中から聞こえてくる。
「新入生のみなさん、入学おめでとうございます。
……………………
最後にまとめますが。まず昔はともかく現代においては攻撃魔法一辺倒と言うわけにはいかない。補助魔法も有効に扱う事で戦闘を有利に運ぶことができる。さらに一度の戦闘に限らず、戦術的・戦略的な視点で見れば補助魔法のほうがむしろ重要である。
あるいは非戦闘時の生活魔法は日々の暮らしを豊かにする大きな可能性を秘めた分野である。
私の体験談ではありますが、みなさんがこれから学園で魔法を学んでいくにあたり頭の片隅に置いていただければと思います。ご清聴ありがとうございました」
約四十五分のスピーチにワーッと歓声があがり拍手喝采。この後十五分の休憩をはさんで三十分のパネルディスカッションだ。
◇
そしてパネルディスカッションの時間。最初の質問は担当の先生からだった。聖属性魔力を使った農作物の収量アップや土魔法を使った道路づくり、学生時代に研究発表会で発表した内容について訊かれた。水を向けてくれたと言ったほうがいいかもしれない。
敢えて答えやすい質問をすることで質問コーナーを盛り上げてくれるようだ。
「ではここで若い人にも議論に参加してもらいましょう」
「あ、えーと。僕、セレスの聖女のファンなんです!」
会場から軽い失笑が漏れる。かなりテンパってるようだ。
「それで、旧パッソ領でのご活躍をお聞かせいただいてもいいですか?」
えーと……魔人の事は一般には伏せてあって騎士団の機密なんだよね。先生のほうに視線を向けると首を横に振った。
「ごめんなさいね。騎士団の機密に関わる事はお話できないの」
「あっ……ごめんなさい」
事前に先生が質問内容のチェックをするはずだったんで、これは咄嗟に聞いてみたくなって口をついてしまったんだろう。司会役のフォローで仕切り直しになる。
「学生が疫病を鎮圧したり、学園に入る前にも鮮魚事業を成功させたり、そういうのってやっぱり特別な才能なんでしょうか?」
「そんな事ないのよ。アドバイスするとしたら『常識を疑ってかかるクセを付ける』って事かな」
うーん。上手く伝わってないなコレ。会場の学生たちも困惑してるし。
「『内陸である王都まで鮮魚を持ってこられるわけがない』とか『学生だから疫病鎮圧なんて荷が重い』とか無意識に決めつけちゃってないかしら?決めつける前に『本当にそうだろうか?』って自分を疑ってみるいいでしょう。
私が公爵の娘に生まれついたのは幸運だったけど。オーリス公爵は娘の言う事だから、で動くほど甘くはない。それはこの場にいる貴族の令息や令嬢も一緒でしょう?
ならどうするか?実績を示したの。貴族であっても……いえ、貴族であればこそ無視できない実績を示せば学生であっても道は開けます。今日ここに呼ばれてきて一番伝えたかった事はこの事かもしれないですね」
その後もいくつか質問や意見交換を行いパネルディスカッションは終了した。学生たちの反応を見るに大成功だと言えるだろう。
でも逃がさないよ、若者たち。中庭にはミナが準備を済ませていた。焼きトウモロコシの時間だ。去年は卒業式も入学式もできなかったからね。最上級生だけは記憶に残ってるらしい。え?忘れられるわけがないだろ、って?
喜々としてかぶりつく最上級生に恐る恐る手を出してくる下級生たち。そう言えば副団長からセレス騎士団(俗称)の設立を薦められてたっけ?リクルート活動にはまだ早いけど優秀な子が来てくれるに越したことない。心証をよくしておくのも大事かな。
◇
その後は比較的平穏な日々が続いた。とは言っても遊んでたわけでもなく、度々シフトの町に行ってはトーケ先輩と相談したり、魔道騎士団のベースキャンプに行ってはハニャス先輩と新しい街づくりの相談をしたり、副団長とシフトから王都への街道敷設の話をする傍ら、クララの子育てもある。マリアだってアクセル男爵としての仕事があるし、ホイールへの街道も仮開通して通行税を取るための関所を設けたりと忙しい。
リーナ伯爵のサスの街でも新しい神殿が出来て、また私の身体がパンクしそうになったりと話し出したらキリがないけど、新年早々魔人が現れたあの時と比べればとても平和だ。
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