【女神リザ】
「まずこの世界が乙女ゲームの中ってのは大前提よね。最近忘れがちだけど意識して聞いてね」
屋敷に戻ったあと、私の寝室でマリアが説明を始めた。ミナとドーバ、私たちの前世を知ってる二人も説明に参加してもらってる。『自分たちがゲームのNPCだ』って言われても信じがたいしいい気分じゃないとは思ったんだけどマリアは協力が必要だと判断したようだ。
「ミナさんとドーバは、物語の中の世界、くらいに思ってくれてればいいから。気分は複雑だろうけど」
二人が微妙な顔をしつつも頷くのを見てマリアは話を進めた。
「この世界には『聖』を司る善神と『魔』を司る悪神がいる。まあ悪神の存在は秘匿されてるけどね。それでこの善神と悪神を生み出したのが創造神なわけ。創造神は他にも六大元素とか人間や動物、魔物なんかも生み出してるわね」
ここまでは私でも分かる。でもそれが私の身体に起きた異状となんの関わりがあるんだろう?
「ところが創造神を作った存在がいるわけよ、それがゲーム運営」
ああ、そうか。創造神ですらこの世界の頂点じゃないんだ。
「あの、それはつまり『物語の著者』のような者がいる、という意味でしょうか?」
さすがにミナは地頭がいい。それを聞いたドーバも理解した顔になった。
「その理解でおおむねあってる。でね、創造神以外にも『創造神を作った者が直接作り出した存在』がいるわけ。さっきのミナさんのたとえで言うと『物語の著者が直接作り出した登場人物』って感じかな。それがマリアとエリザベスなの。まあ他にも何人かいるんだけどね」
ああそうか。ゲーム運営が直接デザインしたからマリアの魔力は常識外れなんだね!
「言い方っ!でもそういう事ね。堕落した旧聖教会が祀ってたのは創造神が作った善神の一柱に過ぎない。聖教会を信仰してた人たちはこの一柱の善神を信仰することで神の奇跡を借り受けて聖魔法を使う。信仰する人が増えるほど善神は力を増して行使できる聖魔法も強くなる」
聖教会は信仰を疎かにして権力に走ったから余計に力が弱まったってコトか。
「それに対してマリアってのは創造神と同列の存在だから、まあ聖属性が強いのは分かるでしょ?」
その言葉にここにいる全員が頷く。
「それで私が知る限りゲーム運営……物語の著者ね……が直接作り出した登場人物で聖属性魔力を持ってる設定のキャラがマリア以外に二人いる。それがエリザベスとナツヒよ」
なんですとー!
「だってエリザベス様、聖教会に限らずこの世界の善神を全く信仰してないのに聖属性使えたでしょ?不思議だと思わなかった??」
ちょっとソコ、『確かに』とか『言われてみれば』とか言ってるんじゃねえですよ。
「それで本題だけど。ナツヒがエリザベス様を女神として祀っちゃったでしょ?だから信者の信仰心がエリザベスの身体に集まってるんだと思う。それもセレモニーで一気にヒートアップしたから器の許容量を超えた信仰心がイッキに集まったのが体調異状の原因じゃないかな」
なるほど、原理は分かった。でもこれ対策できるんだろうか?
「で、ここからがミナさんとドーバにも説明した意味なんだけど。今後同じような事態になったら、もしくはなる前に手を打つのに力を貸して欲しいのよ」
「私たちに協力できることがあるんでしょうか?」
「お願いしたい対策は三つ。今回みたいな非常事態の対応と事前の情報収集、それから根本対策ね」
けっこう対策があった、びっくりだ。
「まず二人にはエリザベス様を信仰して欲しいの」
「は?」
「まあ、信仰って言っても重たいものじゃなくて今まで通り主として敬ってくれれば大丈夫。それでエリザベス様の事を敬いながら『力を貸してください』って願えば聖魔法が使える」
「そうなの?」
「そうすると信者どもから集まった信仰心が聖属性魔力としてこの人から力を引き出せるはずだから。まあ魔力の貯金箱くらいに思ってくれて大丈夫」
「こらあ。誰が貯金箱だ」
「でも今日は上手くいったからね」
「あーそいえばさ。今日急に楽になったのはどうして?」
「ナツヒをけしかけてセレモニーとして大規模な聖属性魔法を使わせた。司祭たち全員でね。今のカスミ教は実質的にエリザベス様を信仰してるわけだから、彼らの聖魔法はエリザベス様から力を引き出すわけよ」
「つまりパンパンになってた魔力をゴッソリと彼らが持ってったから体調異状が治ったってコト?」
「そうよ。だからミナさんとドーバがエリザベス様から力を借り受けることができるようになれば今日みたいな時に対処療法になるのよ」
なんかさっそくドーバが手を合わせて祈り始めた。
「あっ!できました!!」
手のひらにゴルフボール大の光球が出来てた。それとともに身体から少し力が抜けるのを感じた。それを見てミナも真似をし始める。こっちはテニスボールくらいの大きさだった。さっきよりも大きく力を持っていかれた感触がある。
「あ、扱える魔力の大きさは個人の適正にもよるからね。出せた光球の大きさがエリザベス様への敬愛の大きさじゃないからそこは勘違いしないで。それよりも二人ともすごいわね、さすがにエリザベス様が小さい頃から仕えてただけの事あるわ」
まあ、それはそうだね。ドーバなんて十歳の頃にガラムに魔冷庫を作ってもらってすぐの付き合いだから十年近くになる。
「それで二人は日々の仕事の中でこの聖魔力をなるべく使うようにしてほしいの。使えば使うだけ技量があがって大きな力を扱えるようになっていくし、大きな力を使えるってコトは今日みたいな体調異状が起きた時にゴッソリとガス抜きができるってコトだから」
貯金箱とかガス抜きとはひどい言われようだね。でもミナとドーバが真剣だから茶化せない。
「ドーバは日々の料理に聖魔力を注ぐのがいいと思うわ。ミナさんはどうしようかな?特に希望が無ければ私の薬づくり手伝ってもらうってのもありなんだけど?」
この言葉を聞いたミナの食いつきはすごかった。まあ最初はシャフトの街に疫病が蔓延してからの付き合いだし、薬に聖属性魔力を注ぎ込むと効果が爆上がりするってのも知ってるし。一応、筆頭侍女としての本業に支障が出ない範囲にするようにお願いしとく。
「じゃあ次に二つ目の対策、事前情報収集なんだけど。これは簡単。今回のような事が起こるのって例えば大きな街に新しい神殿ができたとか、どっかに大きな女神像が立ったとかそういうタイミングだと思うの。だからドーバは料理人や仕入れ業者の情報網で、ミナさんは侍女の情報網で、それぞれそういうイベントごとがないかどうか気を配ってて欲しいの。いつ何が起こるのかわかってれば私がいれば何とか対処できるはずだから」
これには二人とも了承の意思を返す。
「で、最後に根本対策なんだけど……これはけっこう地道にやる必要があるわね。最終目標はエリザベス様の神格化って言ってもいいんだけど、ようするに器を大きくして人間の信者がどんだけ信仰を向けても簡単にパンクしないようにすればいいわけよ」
「ねえマリア。私は人外になりたいわけじゃないんだけど?」
「別にツノが生えたり羽が生えたりするわけじゃないから。私みたいになるだけよ?まあカスミ教が勢力伸ばしたら私以上に強い聖魔力を持つと思うけど」
「お嬢様が女神として信仰の対象になるなんてすごい事だと思います」
ミナやドーバまで……
「それでまずはドーバにお願いなんだけど、さっき使えるようになった聖属性魔力をエリザベス様の食事に毎回かけて欲しいの。たぶんかなり有効だと思うから」
「かしこまりました」
「それからミナさんには、そうねえ。私の薬づくり手伝ってくれるならエリザベス様用の滋養強壮剤作ってもらうのがいいかな。ドーバと同じくさっき使えるようになった聖魔力を注いで作ればエリザベス様の身体強化に有効だと思う。あとはそうねえ。ガラムたちには私から同じ事を説明しとくわ、何かいいアイディア出してくれそうだし」
なんか私の意見を無視して、エリザベス改造計画が進んでいく……
「じゃあ『女神リザ』計画発動よっ!」
「「おー!!」」
なんでノリノリなのよアンタたち。
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