41「別れの挨拶じゃね?」①
ルシファー・小梅と青山銀子は向島第一中学校のセーラー服を身につけて、河原でしょんぼりしていた。
「しょぼーんじゃ」
「しょぼんっす」
体育座りして力なく川を眺めるふたりの両隣には、ぬいぐるみのように可愛らしい三頭身の河童が座り、彼女たちの肩を励ますように叩いている。
「月読めぇ……夏樹が学校に行って暇じゃったから謎の転校生になりすまして学園ライフをちょーっと楽しもうとしただけじゃったのに」
「いくら神様だからって言っていいことと悪いことがあるっす!」
「なーにが、痛々しいから帰ってください、じゃ!」
「最後には警察呼びますよって、私が警察っすけど!」
セーラー服を身につけたふたりは、何も疑問を持たずに中学生として「いける」と思ったのだが、もちろんそんなことはなく月読によって追い返されてしまった。
「銀子はさておき、俺様はどう見たってティーンじゃぞ!」
「ちょっと、小梅さん!? なんで急に裏切るっすか!?」
「すまんが、俺様はさておき、おどれは中学生は無理があるんじゃ」
「この間まで、女子高生だったんっすけど!?」
「それでも三年前じゃろう。中学生に至っては六年も前じゃろて。流石に無理じゃよ」
「諦めたらそこで潜入は終わりっすよ!」
残念だが、銀子はどれだけ頑張っても中学生にはなれないだろう。
月読命でさえ、銀子をみて「うわ」と言ったのだ。
二十一歳の大人の女性である銀子は、いい意味で子供らしさがない。
内面はさておき、外見的にはかっこいい系の女性である。
そんな銀子がセーラー服を身につけると、――なんということでしょう。そこには痛々しい女性がいたのです。
対して、小梅はまだギリギリ中学生でいけそうだ。
しかしモデルも裸足で逃げ出しそうな可愛らしくもクールな容姿と、細く長い足は中学生というには難しい。
愛嬌の良さがあるので、外見よりも若くは見えるが、それでも高校生が限界だろう。
「しゃーない、これだけは使いたくなかったんじゃが……海外からの転校生小梅ちゃんをやるしかないんじゃ!」
「ずるいっすよ! 両親日本人の私には無理じゃないっすか!」
「慌てるでない! 保健室の先生という適役があるじゃろう!」
「――っ、さすが小梅さんっす。しかし、保健室の先生っすか。つまり白衣っすよね?」
「なんじゃ、問題でもあるんか?」
「いえ、私の白衣姿は中学生には少々刺激的すぎるんじゃないっすかね、と不安になっちゃったっす」
「まあ、俺様たちの魅力は中学生には刺激的じゃろう! これも美女の宿命じゃ!」
ふたりを慰めていた河童さんが「やれやれ」と肩をすくめて川に帰っていく。
「――行くんじゃ!」
「行くっすよ!」
小梅と銀子は立ち上がった。
何度失敗しようと挫けないのだ。
「さすがに土地神とかそれ以前の問題として止めさせてもらいますよ」
いざ行かん、とする小梅と銀子の襟首を背後から掴んだのは、天照大神だった。
「なにすんじゃい!」
「照子ちゃん、止めないでほしいっす! 女子にはやらねばいかぬことがあるっすよ!」
「……銀子ちゃん、一応警察なんだからさ。多分、月読は容赦無く通報するよ?」
袴姿の天照大神は、少し疲れた顔をしている。
「なんじゃ、元気がないのう?」
「わかりますか?」
「そりゃわかるっすよ。いつも照子ちゃんだったら、私たちと一緒に学校に行ってくれるはずっすよね?」
「いえ、前にも同じようなことをしたお二人を止めたのは私ですけどね! ではなく、ちょっと真面目なお話をするためにふたりのもとに来たんですよ」
「なんじゃ、改まって?」
小梅と銀子の言葉通り、元気のない天照大神は力なく告げた。
「今日はお別れを言いに来たっす」




