37「お迎えじゃね?」①
朝食を終えて歯磨きを終えた夏樹が部屋に戻って携帯の電源を入れると、祐介から何度も着信があったことを知らせる通知と、彼からの「たす、け」というメッセージが入っていたことを知る。
「祐介くんは朝から元気だなぁ」
きっとソーニャと楽しくやっているのだろう。
夏樹は祐介の家のある方角に敬礼した。
「さーて、学校に行く――ふりをしますか」
スクールバッグを手に取り、玄関に向かう。
靴箱を開けて、思い出した。
「……そういえば、俺のスニーカーさん全滅しているんだよね」
異世界から帰還して以来、度重なる戦いの結果、夏樹の買ったスニーカーたちは朽ち果ててしまった。
いくら夏樹が身体強化をしても、守れるのは身体だけ。
衣類やスニーカーは、戦いに耐えられなかったのだ。
しかも、夏樹は攻撃特化型であるため、身につけている物に配慮する細々としたことができない。
「お年玉で買ったスニーカーが……許せねえよ、異世界め。滅ぼしておけばよかった」
仕方がないので、今日はスニーカーを買いに行こうと決めた。
今の夏樹ならば、都会まで僅かな時間で行くこともできる。
幸いなことに、水無月家からもらったお金はまだたくさんあるので、スニーカーを買っても問題ない。
「ファンタジーなメーカーってないのかな? 戦ってもすり減りませんが謳い文句のスニーカーとか。あの有名ななんとか家当主シグネチャーモデルとか」
「いやいや、さすがにねーっすから」
くたびれたスニーカーに足を通して紐を結んでいると、見送りに来てくれた銀子がツッコミを背後から入れた。
「やっぱりないんだ」
「そりゃないっすよ。どちらかと言うと、逆っすよ。裏稼業の武器や武具を作る一族に、金のある一族が支援する形っすね。それでオーダーメイドを作らせているって感じっす。まあ、それでも動きやすいとか頑丈とかそう言う感じっすよ」
「なんかがっかり。伝説の鎧とかないんだ」
「異世界でなかったんすから、現代日本にあるわけないじゃないっすか」
「……伝説の鎧はあったよ?」
「あったんすか!?」
「うん。伝説の剣が星槍さんだったんだけど、同じような感じで使い手を待っていたらしいんだけど……」
「あ、なんか察しちゃったっす」
「伝説の剣と伝説の鎧ってどっちが強いかなーって思って、やっちゃった!」
「やっちゃったっすかー! 一応、聞いておくっすけど、結果はどうなったっすか?」
「伝説の鎧は塵も残らなかったよ!」
「そうっすよねー」
はははは、と夏樹と銀子は笑った。
「んじゃ、とりあえず行ってきます。すぐに帰ってくると思うけど」
「……たまにはちゃんと学生したほうがいいと思うっすよ」
「さては、銀子さんじゃないな?」
「みんなの大好きな青山銀子さんっすよ! 一応、良識ある大人として、殺伐とした時間を過ごしたんすから穏やかな日々も大事っすよって、言いたかっただけっす!」
「あー、びっくりした。銀子さんの皮を被ったクリーチャーかと思った」
「私の扱い悪すぎっす!」
「んじゃ、とりあえず行くだけ行ってみるよ。あ、晩御飯決めておいてね!」
「了解っす! いってらっしゃいっす!」
「おう! 行ってくるんじゃぞ!」
まだ朝食を食べていた小梅が、茶の間から顔を出して手を振ってくれる。
ジャックとナンシー、母とサタンも「いってらっしゃい」と言ってくれた。
少しむず痒くなった夏樹は、ははは、と笑う。
「いってきます!」
こういう日もありかもしれない。
そんなことを思い、玄関を出た。
「――おはようございます、夏樹くん。お話ししたいことがあるので、迎えにきましたよ。さあ、一緒に学校に行きましょう」
そして、笑顔を浮かべた月読命が待っていた。




