35「爽やかな朝じゃね?」①
「今日も素敵な朝だなぁあああああああああああああああああああ! 地球って最高ぉおおおおおおおおおおおおおおおおお! ふぅうううううううううううううううう!」
学生服を着た夏樹は、健やかな朝を迎えたことに感謝し窓から叫んだ。
異世界とは違い、やはり地球の空気はうまい。
「あの、夏樹? 魔王がこういうこと言いたくないんだけど、ご近所の目があるから、ね? もう少し静かに、ね?」
「ソーリーソーリー! 久しぶりのジャパンの空気にテンションが上がっちゃってね! ははははっ!」
「……なんかうざーい」
まだ起きて十分も経っていないのだが、夏樹は絶好調だ。
それもそのはず、河童大神様の遣いである河童美脚乃神様からコンタクトがあったのだ。
しかも、皿と嘴という河童にとってなくてならない部位をもらってしまったのだ。
これを喜ばずとして、河童勇者は名乗れない。
夏樹はしばらく使っていない勉強机に座布団を敷き、皿と嘴を載せると膝をついて祈った。
「――主よ」
「あのね、サタンさんはゴッドが嫌いだから堕天したんだけど、さすがにそれはいかがかなーって、なんでもないですごめんなさい」
夏樹の血走った目が向けられ、魔王はビビった。
触らぬ神に祟りなしと言うし、ここは郷に入って剛に従おうと決めた。
「と、とりあえず、ご飯できているから食べようぜ。夏樹も今日は学校に行くんだろう?」
「え? 行かないよ?」
「じゃあなんで制服着てるの!?」
「この時間に制服着てなかったらお母さんにしばかれるからだよ!」
「なるほど! って、納得しちゃったよ! そうじゃなくて、学校に行きなさいってば!」
「嫌っ! 異世界でゴッドのお使いを何日もしたんだから一日くらいサボったって月読先生は怒らないもん!」
「怒るだろ。月読は生真面目だから、そんなに元気もりもりならサボらしてくれないと思うんだけどな」
「サタンさん、俺が何も対策してないと思っているのかな?」
「一応、聞いておくけど何か対策したのか?」
「ゴッドのせいにする」
「う、うん、まあ、いいけど、きっとバレると思うよ?」
「いけるいける!」
「夏樹がいいならそれでいいけど」
絶対にバレるなぁ、とサタンは思うも諦めた。
夏樹は絶対に学校をサボる。
大変な経験をしたのだ、きっと一日くらい多めに見てくれるだろう。
ただ、裏事情を知らない春子は絶対にあとで叱るだろうが、悲しいかな、サタンは恋する青年なので春子の味方だった。
「ところで、夏樹くんや」
「何かな、サタンさんや」
「携帯がさっきからバンバン鳴ってるんだけど、出なくていいのかな?」
「…………」
夏樹はちらり、とベッドの上でなり続ける携帯電話に視線を向ける。
ディスプレイには「祐介くん」と表示されている。
「出なくていいんじゃね?」
ダークエルフのソーニャさんを伴い家に帰った祐介が、その後どうなったのか気にならないわけではないが、なり続ける携帯を見ていると、間違いなく面倒なことが起きていると察した。
「朝ごはん食べたら折り返すよ」
「……祐介の扱いが雑ぅ!」
「へーきへーき! 異世界でもラブコメしていたから、きっとラブコメ的な問題がなにか起きたくらいで絶対に深刻じゃないから!」
爽やかな笑顔を浮かべた夏樹は携帯電話の電源を落とし、サタンと一緒に食卓に向かったのだった。




