34「ありがたい神託じゃね?」②
「由良夏樹……あなたに河童大神様から直接お礼を言いたいそうです」
「そ、そんな恐れ多いです!」
夏樹は震える。
まさか雲の上の河童大神様にお声をかけていただけるなど、分不相応である。
「河童大神様が、あなたにお礼を言いたいのです。どうか、お受けください」
「あ、ありがたき幸せ」
「では、どうぞ。はい」
「はい……え? 何これ、スマホ?」
「そうです。使い方はわかりますか、耳に当てるのですよ?」
「えっと、そりゃ使い方は知っていますけど……」
女神様に導かれるままスマホを耳に当てた。
「――由良夏樹くん、君に心からの感謝を」
「ひぐぅ」
ビターチョコのようなテノール声が夏樹の耳に響いた。
なんと神々しくも、どこまでも届きそうなイケボ。
「……耳が孕むかと思った」
「わかります」
身体を余韻でがくがくと震わせる夏樹に、河童美脚乃神が同意し頷く。
「本来ならば、もっとお声をかけたかったとおっしゃっていたのですが、河童大神様のお声を今のあなたがこれ以上聞くと脳が焼き付いてしまいます。それは河童大神も私も望んではいません」
「はっ」
夏樹はスマホを女神に返す。
「名残惜しいですが、そろそろお別れの時間です。いずれあなたは真なる意味でKとなるでしょう。その日が早く来ることを期待しています。どうか、精進くださいね」
「ありがとうございます!」
「我らの同胞のことも気にかけてくださると嬉しいです」
「もちろんです!」
「ありがとうございます。いい子ですね、由良夏樹。夢の中で呼びつけてしまったお詫びというわけではないのですが、あなたにとって良き選択ができるよう祈っております。そして、助言を――」
河童美脚乃神は、夏樹の額に手を当てて神託を与えた。
「――己のギャラクシーに従いなさい。あなたはいつだってベストを尽くしている。そんなあなただからこそ、ギャラクシーを感じ、従うのです」
まるで絵画のような光景を見る者がいたならば、涙を流し感動しただろう。
夏樹自身、神託を受ける側だったので、自分がどれだけ素晴らしい姿をしていたのか気づいていない。
だが、それでいいのだ。
由良夏樹の本質は、その内面と在り方にある。
河童大神も由良夏樹という人間の外面ではなく、内面を気に入っているのだ。
「さあ、ギャラクシーに導かれし河童大神様の民よ。お行きなさい。あなたの身体の疲労はこの私が取っておきました。しかし、心は……願わくば、あなたに安息が訪れますように」
河童美脚乃神は、夏樹の髪を撫でて消えた。
残された夏樹は敬虔な信者のごとく強く、深く祈る。
「――河童大神様万歳!」
■
魔王サタンは、いつものように夏樹の部屋で朝の目覚めを迎えていた。
来客用の布団一式はすでにサタンのものになりつつある。
「ほにゃ……」
魔王が出すような声ではない、目覚めの緩い声が夏樹の部屋に響く。
シルクのパジャマに身を包んだサタンの姿は、ハリウッド俳優のようだ。
「今日もいい朝だ。ちょっと奮発して、チーズ入りスクランブルエッグ作っちゃおうかなー!」
しゃっ、と音を立ててカーテンを開けたサタンは、いずれ息子となる夏樹を起こそうとして固まった。
「……歳かな? 幻覚が見える」
眉間をよく揉んでもう一度、まだ眠る夏樹を見た。
また目を瞑り、眉間を揉む。
三度、夏樹の寝顔を見た。
「……なんで夏樹は頭にCD載せて、牛乳パックで作ったくちばし装備してすよすよ寝てるのかな!? なにこれ、河童? 河童なの? ていうか、夜中はこんなことになっていなかったよね? 侵入者か!? 魔王も勇者も気づかない強者が侵入したのか!?」
手作り感満載の河童のコスプレをして穏やかに眠る夏樹に、サタンは朝から血圧が思いっきり上がった。




