29「イベントは終わらないんじゃね?」②
はっきり「人違いだ」と断言した夏樹に、少女は大きな動揺と困惑を見せた。
「ほ、本当に違うの?」
「違うでごわす!」
「えー、でも」
「違うでごわす! 拙者、由良夏樹などというイケメンなど知らぬでござる!」
「……そっかー、人違いかー。おかしいなぁ」
少女は困った顔をするとぺこり、と頭を下げた。
「なんだかすみません。人違いしちゃったみたいです」
「気にすることはないでごわす。人間、間違いはあるでごわすよ」
「ありがとうございます。じゃ、じゃあ、私は失礼します」
「ごわす!」
「おかしいなぁ。あれぇ、本当にどこで間違えちゃったんだろう?」
何度か頭を下げた少女が、腕を組み首を傾げて去っていく。
しばらく少女の背中を見送ると、不意に彼女の姿が消えた。
夏樹は念入りに周囲を探ると、
「あっぶねー!」
冷や汗を流して、この場を乗り切ったことに心から安堵した。
「なにあの子! なんかすっごく強いんだけど!? なっちゃんの超絶イケメンモードでも勝てるかわかんないとかやばくね? まじやばくね? 超やばくね?」
心臓がバクバクと跳ねる。
正直、アマイモンよりもはっきり強いとわかる人間が現れるとは思わなかった。
「異世界で大バトルして帰ってきた日に、さらに強い敵が来るとかパワーバランスがインフレしちゃうんですけどぉ! いえ、なっちゃん的にはまだ強くなれるんですけどぉ、昨日の今日でそこまで急に強くなれるわけがねえだろぉおおおおおおおおおおおおおお!」
夏樹は、肉体も、魔力も、そして星槍さんの力もすべて出し切っていない。
つまり、まだ強くなる伸び代はある。
あるのだが、そんな急に強くはなれない。
異世界では魔力を無理やり取り込んで消費することで全盛期に近い力を使うことができたが、地球でそんなことをして自然に影響が出たら困るのだ。
そもそも、現時点で無理をして力を捻り出したとしても、先ほどの少女とまともに戦えるとは思わない。
「……はぁはぁ……なんかイベントばかりで疲れる。マジで疲れる。このままじゃ過労死しちゃう。イベント酷使で過労死しちゃう!」
夏樹は力なくその場にへたり込んだ。
「……ていうか、さっきの子って本当に人間だった? なんとなく違う気が……人間には人間なんだけど、なんか違和感があるんだよなぁ」
新たな神々だけではなく、まだ未知なる存在がいることに夏樹は心底ため息をつく。
――だが、同時に、笑みも浮かべていた。




