30「イベントは終わらないんじゃね?」③
「あれー? おっかしいなぁ?」
少女は向島市の街並みを見下ろせるビルの屋上からスマホを操作して首を捻っていた。
「あの子って本当に由良夏樹じゃなかったの? えっと、でも、変な名前の男爵だったし。うーん、おじいちゃんの弟子だって聞いたからどれくらいの強さか楽しみにしていたのにぃ!」
少女は頬を膨らませてしまう。
探し人は違った。
祖父の「お願い」を叶えることができないのも嫌だが、人違いなどしてしまったなどと知られたら「祖母たちに」に何を言われるかわかったものではない。
「会えばわかるっていうから、会ってびびっと来た子をこの子だ! って思ったのに。おじいちゃんも唯一の弟子なら名前だけじゃなくて顔も伝えてよね!」
少女は祖父から夏樹のことを知らされ、会いに来たのだ。
他にも「この世界」に来た理由はいくつかあるのだが、由良夏樹に会い、見極めることが重要だ。
「そういえば……おばあちゃんたちに由良夏樹に会うついでに星を滅ぼす槍を破壊して来いって言われたけど、どこにいるんだろう? ていうか、ついででするようなことじゃないと思うんだけど……ま、いいか」
少女はあまり深く考えないことにした。
祖母たちほど、例の槍に思うことはない。
むしろ、祖母たちは感謝すべきだ。あの槍のおかげで祖父と出会えたのだから。
「とりあえず、しばらく帰れないし。修行はしなくていいし。おばあちゃんたちから小言を言われることもないし。――よし! とりあえずこの世界を満喫するぞ!」
少女の名は――いつる・ディロン・マルセー・ロットロット・ナイジェルマリー・赤星。
夏樹の師匠である翔・ディロン・マルセー・ロットロット・ナイジェルマリー・赤星の弟子にして、孫でもあった。
■
――同時刻。
ゴッドの作った神域の中で、
「おんどりゃあああああああああああああああああああ!」
「こにゃろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
夏樹の相棒にして、聖剣から星槍にジョブっチェンジした星槍さんこと「蒼穹の星槍」と、その半身である「名無し」は殴り合っていた。
「はぁはぁっ、もう! いい加減にしてくんない! 早く倒れなさいよぉ!」
「……断る。ひとつに戻るのもごめんだし、主導権があんたなのも納得できない」
ふたりの戦いは、異世界から帰還してからずっと続いていた。
当初から、ふたりがひとりに戻ることはないとしていたが、名無しが夏樹に未来の姿を垣間見たことで乙女の顔をしたので「一度決着つけるしかねえべ」とバトルを始めたのだ。
ゴッドの気遣いによって、夏樹はこのことを知らない。
女の戦いは何時間も続いている。
お互い顔を腫らして、瞼や唇も切っている。
鼻血を流す姿は、お世辞にも可愛らしいとは言えない。
ふたりの瞳は爛々と輝きどちらも負ける気などない。
「言わなきゃよかったわ。ついでに、万が一夏樹のためにひとりに戻る時がくるかもしれないからどっちがどっちになるかルールを決めましょうなんて」
「問答無用で私が表になるべきだった」
「ゴッドのせいで勝負がつくまで出られないし! 親切なのに、鬱陶しい!」
ふたりに残された力は少ない。
両者は拳を握り締め、女の戦いを終わらせるために叫んだ。
「きぇえええええええええええええええええええ!」
「くけぇええええええええええええええええええ!」
互いの拳が頬に刺さり、第一ラウンドは引き分けとなった。




