25「謝罪の時間じゃね?」④
銀子が倒れ、夏樹と一登も倒れてしまった。
千手も満身創痍だ。
「杏さん、気にせず進めて」
「え、でも」
「いいから、いいから!」
ガープが最後まで謝罪をするように杏を促す。
夏樹たちが倒れてしまったので杏は困った顔をしているが、構わないとガープが先を促した。
「ダーリンたちのことはあたいに任せな! ちゃんと最後までやりきっちまえ!」
虎童子が杏に親指を立てる。
「このままじゃ終われないだろ!」
「あたいたちが見守ってやるよ!」
ガープと虎童子の応援を受け、杏が頷き、小梅を見た。
「――受けて立つんじゃ! 俺様の心は鋼でできとるぞ! ちっとやそっとのことじゃあ、なーんも動じんからのう! 受け止めてやるんじゃ!」
「――はい!」
(……なんか、熱血っぽくなってるけど、もうちらないっ!)
小梅なら、杏が何を言おうと呵呵大笑して受け止めてくれるだろう。
それだけの信頼はある。
「――小梅・ルシファーさん!」
「おう、なんじゃ!」
「SNSにスレンダーって書いてごめんなさい!」
「ほえ?」
「脚長すぎるし、スタイル良すぎてやばいとか書いてごめんなさい!」
「お、おう?」
「こんな美人が中学生のお兄ちゃんなんか相手にするわけがないとか書いてごめんなさい!」
「ぐはっ!」
ダメージを喰らったのは、夏樹だった。
そりゃそうだ、と思う。
モデルもびっくりな美人で、性格もカラッとしている小梅が自分のような一介の中学生と知り合い仲良くしてくれていることは奇跡だと思う。
「他にも、なんで安い服で美人に磨きがかかるんだよ、とかラーメン食べてる姿も美人! とか書いてごめんなさい!」
「……以前から、もしやと思っとたんじゃが、綾川さんちの杏さんはもしかしたら根っこはええこじゃないかと薄々感じ取っておったんじゃ!」
なぜか小梅に対する悪口はまったく悪口ではなかった。
むしろ褒められているというか、美人であることを念押しされている。
これにはどんな悪口を書かれているのかと身構えていた小梅もにっこりだ。
「――異議ありぃいいいいいいいいいいいいいいいいっす!」
銀子が勢いよく立ち上がって講義する。
「なんじゃ、酒屋でビールしか買わん銀子よ」
「待ってほしいっす、小梅さんだけ悪口になっていないじゃないっすか! 褒めてますって、おかしくないっすか!」
「え? でも、事実だし」
「ええ子じゃのう! なーに、杏よ。おどれが反省したのなら、俺様は寛大な心で許してやろう。若い頃は多くの過ちをしてしまうもんじゃ。大人になって振り返ったときに、ちゃんと反省し、過ちを犯さないようになっていればええんじゃよ」
「――はい!」
「なんかいい感じに終わらせようとしているっすけど、被害者の方が多いっすからね!?」
銀子が抗議するが、小梅が杏に「気にせんでええ」と言ってしまう。
「そろそろ時間なのねん」
「え? ――どうしてマレーバクがいるの!?」
「気づいとらんかったんかーい!」
獏のマレーさんが鞄を持って立ち上がる。
「杏ちんの夢の中にこれ以上いたら負担がかかってしまうのねん。だから、そろそろ獏たちは退散する時間なのねん。みんな、言いたいことは言えたのねん?」
「待ってほしいっす、自分はまだっすけど!」
「ええいっ、大人気ないないのう! 過ちを犯した少女が反省したんじゃ、寛大な心で見守ってやるのが大人じゃろうて!」
半泣きの銀子に小梅が鬱陶しそうにあしらう。
「じゃあ、そろそろ目覚めの時間なのねん」
マレーさんが、そう言うと杏の表情が曇る。
まだ不安はあるのだろう。
「――杏」
「一登」
「一緒に戻ろう」
「……うん」
起き上がった一登が杏に笑いかける。
杏も、少し泣きそうな顔をして頷く。
「……ま、言いたいことがあるのなら、夢の中じゃなくて現実で言ってちょうだいな」
夏樹は倒れたまま顔を杏に向けず、独り言のように呟く。
これが夏樹にとってできる最大の激励だ。
「……お兄ちゃん……うん。そうするね」
夏樹には見えないが杏が笑った気がした。
「じゃあ、みんな目覚める時間なのねん。ばくばくばっくんばっくんくん!」
「――なにその可愛い呪文!?」
夏樹が顔を起きあがろうとすると、ものすごい眠気が襲ってきた。
「ま、たか」
がくん、と夏樹の意識が再び飛んだ。




