26「ひと足先に目覚めたんじゃね?」
「マチュピチュっ!」
夏樹が目を覚ますと、喫茶店に戻っていた。
「……初めてですよ、起きると同時にマチュピチュと叫んだ方は。さすがのゴッドもびっくりです」
「あ、ゴッド。俺、寝てた?」
「ええ。獏のマレーさんの能力によってぐっすりでした。まだ他の方々は起きていませんが、すぐに起きるでしょう」
同じテーブルには、小梅たちが突っ伏している。
獏のマレーさんが、優雅にコーヒーを呑んでいたが、夏樹に気づいて帽子をとって挨拶をしてくれた。
「いろいろありがとうございました。マレーさんのおかげで、あの子は前に進めると思うよ。それに、俺たちも」
「いいのねん。友達のガープちんの頼み事でもあるのんね。アマイモンちんのことしか考えないガープちんが誰かのためにお願いしてくるなんて貴重な経験だったのねん。獏こそありがとうなのねん。ガープちんとアマイモンちんたちを殺さないでいてくれて、本当に感謝しているのねん」
マレーさんの表情は優しげだった。
彼にとって、ガープは本当に良き友人なのだろう。
夏樹はガープたちと異世界で戦ったが、殺さなかった。
地球に戻ってからも、恩赦を求めた。
その結果、マレーさんが手伝ってくれた。
――縁とは不思議だ。
親しい者以外はどうでもいいと割り切っていた夏樹であったが、気づけば縁に恵まれている。
人々の輪も大きくなっていると思えた。
「俺も少しは成長できているのかなぁ」
「夏樹くんはちゃんと成長していますよ」
夏樹の、なんとなく出てしまった声にゴッドが反応した。
彼の顔こそ見えないが、声はとても優しい。
「勇者召喚をされる前の君は人間関係に疲れていたと思います。事情は知っているので、仕方がないと思います。よく人を嫌いにならなかった、よく人を拒絶しなかったと感心しています。しかし、君は勇者召喚をされて、異世界人とは言え人間の嫌なところをこれでもかと見せつけられました。その心情は察するに余り有ります」
「……ゴッド」
「ですが、君は折れなかった。心は傷つき、今も血を流しているでしょう。しかし、折れていない。君は負けなかった。負けてたまるかと奥歯を噛み締め、踏ん張りました。――尊敬に値します」
きっとゴッドは優しい顔をしているのだろう。
「ありがとう。そう言ってもらえると……救われます」
「ゴッド的には、君を救えるのは君自身です。杏さんが自分の意思で目覚めることを選んだように、夏樹くんにもこれから多くの選択があるでしょう。どうぞ、君にとって良き選択をしてください」
「うん」
「そして、隣人を大事にしてください。君の隣には小梅さんをはじめ、友が、家族がいます。辛かったら頼ればいいのです。喜びを分かち合えばいいのです。……長くなりましたが、夏樹くんの未来に幸あれと心から願っています」
夏樹はゴッドに静かに頭を下げた。
「さあ、そろそろみんなが目覚めますよ。杏さんもです。夏樹くんは彼女にまだ思うことがあるでしょうが、あの子はもう大丈夫だと思います」
「うん」
「君たちにはたくさん面倒を押し付けてしまいましたね。しばらくゆっくりと羽を伸ばしてください」
ゴッドがそう言うと、小梅たちがゆっくり目を覚ました。




