22「謝罪の時間じゃね?」①
一登の手を握り立ち上がった杏は、夏樹に向かって深く頭を下げた。
「今までごめんなさい!」
「…………あ、うん。別に大丈夫っす」
謝罪した杏に対して、夏樹の口から出たのは自分でも驚くほど素っ気ない言葉だった。
(いや、これは違うか。千手さんととらぴーが空気読めよ、みたいな顔してるし)
「そ、そうだよね。今までしてきたことを考えると、許してくれるわけがないもんね」
「あー、そうじゃなくて。なんていうか、その、あー、えー」
「……由良が政治家みたいになってるんだが、これ本当に困ってるのか?」
「ダーリン。とらぴーはふざけているに一票!」
「そうかなぁ?」
(困ってるんだよ! あとタイガー童子さんって一人称とらぴーだったっけ? なんか知らない間に千手さんと親密度高くなってるし! イベント見逃しちゃった!?)
夏樹としては、杏が反省しているのなら許せばいいと思っていた。
それは今も変わらない。
杏は本当に反省している。
異世界で、ガープたちとどのような話をしたのかまではわからないが、彼女なりに自分を見つめ直すことができ、反省できたのであればいいことだと思う。
彼女の人生は、これからだ。
幼少期から十年ほど、少々拗らせていたことなど大人になれば笑い話になってできるはずだ。
頭では理解しているのに、心が許せない。
許す、と言えない。
それは、夏樹が杏に怒りを覚えているからではない。
夏樹は、杏に対して特に感情を抱いていないのだ。
怒っていないし、彼女のしたことも過去のことだと考えてしまっている。
なにせ、夏樹は異世界で数年過ごしている。
杏が家族を壊したことも、ずっと悪く言われていたことも、過去のことだった。
時間が経ちすぎていたのだ。
もともと、さほど興味がなくなっていた杏に対して感情を持続することができなかったのだ。
(言葉を選ばないと。さすがに、どうでもいいです、とは言えない。それじゃあ、この子が立ち直れない)
もう杏に思うことはない。
ただ、一登や母や誠司が悲しまない未来に進んでくれることを願うのみだ。
だから、夏樹は笑顔を作って言うのだ。
「もういいよ。気にしてないから」
ちゃんと笑えているだろうか。
自信がない。
一登は夏樹の変化に察したようだ。
やはり一番付き合いが長いだけある。
それでも、夏樹は作り笑いをして、杏のために言葉を紡いだ。
「誠司さんのことを大切にしてあげてほしい。本当にいい人だから、もう心配させないでほしい」
「――うん」
「俺から言えるのは、それだけだよ。もう俺のことは気にしなくていいから」
「……うん」
なんて気が利かない人間なのだろう。
嘘でもいいから笑って許すと言えればよかったのに。
きっと自分の心はどこか壊れているのだろう。
それでも、彼女の未来を願う気持ちだけは本物だった。




