19「夢の中じゃね?」②
夏樹はガープに襟首を掴まれる。
抵抗しようかと思ったが、この夢の中では力が十全に出ないので無駄だと思いやめた。
「ほら、行くぞ。俺も暇じゃねえ。さっさと杏を引っ張り出して、親御さんに会わせてやろうぜ!」
「――うん」
ガープの言葉に一登が頷く。
(……急に好感度あげてきたなぁ。ガープのくせにぃ!)
さっさと終わらせることに反対する気はないが、いまいち杏のために夏樹は行動できない。
記憶を深く深く掘り起こせば、杏と出会った日のことや一緒に遊んだ記憶は確かにある。
だが、それ以上に、彼女の悪い記憶の方が多いのだ。
三原優斗が関わったせいで、彼女の歯車が変わった可能性もある。
ゼロではない。
だが、杏の言動は彼女の本質的なものだと考えている。
誰もが三原優斗と接触して変わったのではないからだ。
家族をバラバラにして、母を、一度は父と呼んだ綾川誠司を悲しませた杏のことを夏樹は消化できていない。
子供だからか、それとも、他に理由があるのか。
夏樹にはわからない。
思考停止と言われたらそれまでだが、杏のことを考えたくはない。時間の無駄だ。
「今更、もう嫌だとは言わないけど。どうやって? もしかして、無理やり引き摺り出すことができるって感じ?」
夏樹の疑問に答えてくれたのは、漠のマレーさんだった。
「そう簡単じゃないのねん」
「やっぱり?」
「ここは夢の世界でもあると同時にん、綾川杏ちんの心の中でもあるのねん。漠らはあくまでもお邪魔している身なのねん」
「マレーさんって一人称、漠なんだ」
「それはもう俺様たちが突っ込んだんじゃ」
「ちょっと遅かったっすね」
「ちくしょう!」
個性的な一人称に、さすがの夏樹も動揺を覚えた。
「由良ぁ、話が進まねぇ。マレーさん、続けてくれ。つまり、俺たちは何をすればいいんだ?」
「杏ちんを許してあげてほしいのねん。彼女のことを受け入れることが難しくともん、彼女が反省をしているのならん、許してあげてほしいのねん」
「反省していれば、だけどね」
散々「杏は悪くないもん」と言い続けていた彼女が、反省しているとは思えない。
もし「杏が悪いんだもん」とか言っていたら寛大な心で許してやろう。
「漠ちんにはわかるのねん。この世界は、杏ちんの後悔で満ちているのねん」
マレーさんにそんなことを言われても、夏樹はもちろん、一登たちも、杏の後悔を感じ取ることはできなかった。
ただ、杏が過去の由良家を懐かしんでいることだけはわかった。
「ここで時間を消費していてもなにも変わらないのねん。夢の中に、他人がいるというのは結構ストレスなのねん。漠はともかく、君たちも他人の夢に入るのはストレスなのねん」
「んじゃ、さくっと家の中に入って反省しているかどうかを見てやろうじゃない」
夏樹がそう言うと、みんなが頷く。
ガープが手を離すと、夏樹は一登と一緒に先頭に立って杏の夢の中の由良家に入った。
すると、
「杏が悪いんだもん。杏が悪いんだもん。杏が悪いんだもん。杏が悪いんだもん」
茶の間で正座をして、自分を責めて泣く杏の姿だった。




