20「杏と話をするんじゃね?」①
夏樹と一登は、足を止めてしまった。
「うわぁ、予想していたのと違う光景で膝から崩れ落ちそう」
「……正直に言うと、俺もこうなるとは思っていなかったかな」
まさか杏が反省しているとは思わなかったのだ。
しかも少々面倒くさいほどの反省をしている。
「……どうするんじゃ、なんか気まずいじゃろ。夏樹、小粋なジョークで和ませながらなんとかするんじゃ」
「俺にどうしろと!?」
「ガープさん! ガープさんなら」
「……お前、こんな時だけガープさんって、気まずいから嫌だよ!」
「使えねえ」
「おまっ」
「じゃあ、私に任せてくださいっす。同じ黒歴史を持つ仲間として……あれ? もしかしたら、自分の黒歴史の方がやばくないっすかね?」
「……銀子さん。ええい、一登任せた!」
「ちょ、丸投げはよくないから!」
みんなが誰が先に行くかを押し付け合う。
杏を目覚めさせようと意気込んでいた一登でさえ、彼女の落ち込みっぷりには気まずくてどう触れていいものか悩んでいた。
「面倒くせぇ。っていうか、漠のマレーさんよ。あの子は本当に綾川杏でいいのか?」
「そうだよん」
「で、実際、反省もしている、と」
「反省以上に後悔だと思うのねん。あの子は、現実世界でずっと強がっていたのねん。だから、夢の中では嘘をつけないのねん」
「……そうか。なら、きちんと反省と後悔をしているってことだ。まだやり直せるってことだ。じゃあ、早く目覚めさせてやれ」
千手はマレーさんに確認を取ると、廊下から茶の間を覗く夏樹と一登の尻を足で推した。
「どわっ」
「うわ!」
夏樹と一登が転がる。
勢いがよかったのか、夏樹はそのまま茶の間の壁に顔をぶつけ、一登は杏の前に飛び出してしまった。
「あ、すまん、由良」
千手が謝るが、もう遅い。
「――え? 一登、どうして?」
大きな音がして顔を上げた杏は、困った顔で笑みを浮かべている一登を見つけて驚いた顔をした。
「……ガープさんと……お兄ちゃんの友達たちも。え? これ、夢?」
「杏の見ている夢だけど、俺たちは本物だよ。目覚めない杏を迎えにきたんだ」
「――嘘」
「嘘じゃないよ。ほら、夏樹くんも来てるよ」
「お兄ちゃんも? ……もしかして、そこで壁にぶつかった感じで硬直しているの、お兄ちゃん?」
「残念なことに、夏樹くんだよ」
かつて兄と妹だったふたりが、ちゃんと向き合うはずだったのだが、なんとも言えない再会になってしまった。
「いたた」
夏樹は壁から離れて立ち上がると、顔を押さえながら叫んだ。
「俺はお兄ちゃんじゃない! 三代目ギャラクシー河童勇者様だ!」
「あ、はい」
一登たちは思った。
「あ、いつも通りのノリで行くんだ」と。




