30「銀子さんも大概やばくね?」
青山銀子は、魔剣を肩に担ぎながら、カラカラと笑っていた。
「いやー、まいったまいったっす!」
彼女の着ている制服はあちこちが焼けこげている。
自慢の艶やかな長い黒髪も、炎によって焼かれてしまい少し短くなっている。
「まったく近寄らせてくれないとか、戦いにならないじゃないっすか! 魔剣太郎の斬れ味を、偽物とはいえ神様で試せると思ってわくわくしているのに、ひどいっすよ!」
新たな神を斬ることができず、銀子はフラストレーションが溜まっていた。
だが、いつも以上に笑顔だ。
格上の相手を、それも神を斬ることができる可能性が目の前にあることが、楽しくて楽しくて仕方がないのだ。
「さあ! さあ! さあ! 次の攻撃いくっすよ!」
銀子が獣のように走る。
まだ名前さえ聞いていない神に向かい、疾走する。
「つまらない女ね」
銀子と相対する新たな神々は女だった。
赤い着物を身につけた、赤髪の女だ。
女神は手のひらに炎を灯すと、「ふう」と息を吐く。
刹那、銀子に向かい炎の渦が放たれた。
――が、銀子は気にせず炎の中に突っ込む。
「つまらないだけじゃなくて、愚かでもあったのね」
肩を竦める女神だったが、
「いやいや、これは一度見たじゃないっすか。新しい技を見せてくださいっすよ!」
炎の渦を斬って眼前に現れた銀子に驚き、硬直する。
「ダメっすよ! なんでびっくりして動き止めちゃうっすか! そこは攻撃しないといけないっすよ! こんな風に!」
魔剣太郎が振るわれると、容易く女神の腕が飛んだ。
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああ」
絶叫が響く。
だが、銀子は気にせず、女神の腹を蹴りくの字に身体を折ると、魔剣太郎を胸に突き立てる。
「よいしょーっす!」
「ぎ、あ」
口と胸から血を流しながら、女神が銀子の腕を掴んだ。
「よく、も、炎の化身である、炎の、神を」
「炎の神って、そんな大層な名前を名乗っちゃ駄目っすよ」
腰に差していた魔剣花子を引き抜き、女神――炎の神の腕を斬り飛ばした。
再び絶叫が響く。
「心躍らねーっすねぇ。もっと命を削るような戦いがしたかったっすよ。ま、夏樹くんからもらった魔剣が業物ってせいもあるんでしょうけど、それにしても炎の神さんは新たな神々の中でも群を抜いた弱さっすねぇ」
絶望の神や、門の神が目立っていたので勘違いしていたが、新たな神々が全員強いわけではなかった。
人間にも一般人から夏樹のような規格外がいるように、新たな神々も絶対的な強者ばかりではないようだ。
――それが残念でならない。
「私って引きが悪いんすよねぇ。くじとか引くとハズレばっかりっす。まさか異世界で戦う相手までハズレとか、もう凹むっす。銀子さんがっかり!」
青山銀子は、強い。
霊能力者としては、中堅ほどだ。
剣士としても、一流ではない。
しかし、剣を持って戦うことに関しては――異常に強い。
スキルや能力などではない。
単純に、青山銀子は剣が好きで、剣で戦うことが好きで、剣で勝つことが好きなのだ。
たったそれだけ。
だが、自分の「好き」を追い続ける銀子は、強い。
相手が神であろうと、なんであろうと、手に剣を持ち、その剣が相手に届くのならば――斬ってみせよう。
「せっかく魔剣太郎と魔剣花子の合体技をお披露目しようと思ったのに、がっかりっす!」
「ふざけるなぁああああああああああああああああああああああ!」
女神が怒りの声と共に爆発した。
身体中から炎を吹き上げた姿は、まさに炎の化身。
身に纏う炎は、銀子を容赦無く焼くだろう。
いくら銀子が強くても、肉体は人間でしかないのだから。
――もっとも、すでに勝負は終わっていた。
「あ、れ?」
ぐらり、と炎の神が、肉体の真ん中から縦にズレた。
「申し訳ないっす。せっかく新しい力を見せてくれたっていうのに――もう斬っちゃったっす!」
炎の神は、全力を出すことなく絶命した。
銀子の力を見誤り、人間を舐めた結果だった。
両断された炎の神が地面に前のめりに倒れる。
そして、炎が神自身を焼いて灰にしていった。
「銀子さん、大勝利ー!」
銀子はいつも通りのまま戦い、いつも通りに勝った。




