27「アマイモンさんが動くじゃね?」
ガープは、苛立っていた。
その理由は綾川杏だ。
魔族から見ても問題のある少女だったが、ガープたちと言葉を重ねたことで、意識改革ができていた。
昔から、厄介な女と出会うことが多い、ガープにとって杏はまだ可愛いほうだ。
幼く、弱い。
しかし、実に人間らしい。
気に入っていない、と言ったら嘘になる。
少なくとも暇を持て余していたガープに慌ただしさをくれたことに感謝している。
一緒に食事をした仲だ。
彼女のこれからを見届けることはできないだろうが、一歩大人になることを祈っていた。
――それを絶望の神が台無しにした。
「……あのクソ絶望の神が! 戦う意志のないガキを使って、何がしたいんだ!」
「落ち着け、ガープ。杏には私が加護を与えている。押さえ込めば、あの絶望の神とはいえなんとかなる」
「アテーナー! あの絶望大好きな神が全力を出したら主神クラスだぞ! お前の加護程度でどうにかなるのか!」
「ならばどうしろと!」
「――落ち着け、ふたりとも。私が行こう」
アマイモンが静かに言った。
ガープが跪く。
「アマイモン様」
「由良夏樹と戦うまで力を温存しておきたかったが、あの少女をそのままにしておくのも違う。絶望の神は私が殺そう」
「ならば、私は門の神を」
アテーナーも戦おうとするが、アマイモンが軽く手を上げて制する。
「よせ。アテーナーよ。絶望の神に唆されたとはいえ、この世界に来てしまったのは事実。戦わずして、地球に帰るといい。さすれば罪には問われまい」
「しかし、アマイモン!」
「ずっと強くなることしか考えていなかったが、賑やかな時間は存外悪くなかった」
「アマイモン様……良いのですか?」
どこか気遣うガープに、アマイモンが頷く。
「問題ない。由良夏樹と全力で戦うために、憂いを全て排除しておこう」
「――はっ! このガープ! アマイモン様のためならどのような敵でも蹴散らせて見せましょう!」
「頼りになる。我が友、ガープよ! ならば共に戦おう!」
■
夏樹はゴネていた。
「なんで? なんでこのマンタさんくれないの? もうマンタさんマイ座布団だよ! そっちにもマンタさんいるんだから俺にくれたっていいじゃない!」
「ダメだって言ってんだろ! しつけーんだよ! 何度目だよ、このやりとり!」
「マンタさんくれないなら、この世界滅ぼす!」
「子供か! ていうか、やめて! まんたまんた! 君はそれできちゃうから、やーめーてー!」
夏樹は座布団になってくれているマンタを持って帰りたいと駄々を捏ねていた。
管理者の少女――まんたさんは、必死に抵抗している。
「面倒臭い子だなぁ! 超まんた!」
「なんか悪口言われた気がする!」
「言ったさ!」
「ぐるるるるるるるるるるる」
「がるるるるるるるるるるる」
しょうもない理由で睨み合う、勇者と管理者。
「……はぁ。つまり、なんだ。君は、私の乗るマンタさんと、君が乗っているマンタさんを引き裂くんだね」
「――え?」
「この二人は恋人関係なんだ。そのふたりを、遠い世界に引き離すんだね!」
「う、うぐぐ」
「それってとてもまんたまんただと思わないかい!」
「……とってもまんたまんたです……」
「わかってくればいいのだよ。君の世界でもきっと良いマンタさんと出会うさ」
「……うん。ごめんね、マンタさん。俺、恋人と引き離すつもりなんてなかったんだ」
泣きそうになった夏樹を、マンタさんが優しく尻尾で撫でてくれた。
「うんうん。素直でよろしい。んじゃ、止めていた時間を戻すね。あ、そうだ。君が痛めつけたアールウェルスくんを治さないと」
「えー、贔屓!」
「贔屓じゃない! 門の神が君をこっちの世界に放り投げなかったら、負わなかった傷だから今回だけサービスなの!」
「ぶー」
「一応、言っておくけど君が怪我をしていたらちゃんと治すからね。でも、無傷だよね?」
「――勇者ですから」
「いや、そんなキリってされても。まんたまんた的には勇者っていうか、破壊神に見えるんだけど」
「ひどい!」
「いや、ひどくねーし」
まんたさんが軽く指を振るうと、傷ついたアールウェルスが癒えていく。
「んじゃ、時間を戻すよー」
「うぃー!」
夏樹が返事をすると、世界が再び動き出した。




