26「征四郎さんと神剣ちゃんが戦うんじゃね?」
神奈征四郎は、男神と対峙していた。
神は、長髪をひとつに結った、黒いスーツを着崩した三十ほどの外見に見えた。
「……七森千手、さすがだ。不遇な扱いを受けていたが、能力ならば七森家歴代最強と言われただけはある」
新たな神を屠った千手と虎童子に、征四郎は感服する。
同時に、自分もすべきことをしようと目の前の神に集中した。
「――神奈征四郎と申します。お名前を伺ってもよろしいだろうか?」
「我が名は剣の神。新たな神々として生まれた、剣の神だ」
「――なんと」
征四郎は震えた。
まさか剣を司る神と戦えるとは思いもしなかった。
「恐怖で震えているのか?」
「否。――歓喜だ!」
「なるほど、お前は剣士か。なにやら憑かれているようだが、ほう、神剣を持つか。ならば、私にとって良い相手となるだろう」
剣の神は、征四郎の背中で屈託なく笑う少女の正体を神剣であると見抜いた。
神は腰を低くして構え、右腕を掲げた。
すると神の右腕が剣となる。
「――それがあなたの剣か?」
「そうだ。お前も抜け」
征四郎も、右足を前に出し、腰を低くして構える。
右手を左の腰に置き、抜刀するような体制に入った。
剣の神に、なぜ絶望の神と共に行動しているのかなどと無粋なことを問うつもりはない。
彼の行動理由など――どうでもいい。
征四郎の胸は高鳴っている。
恋をした乙女が、恋文を書いた時のように。
初恋を覚えた少年の昂りのように。
――やっと名前を呼んであげることができる。
――待たせてしまってすまない。
「行くぞ、神奈征四郎!」
「名を覚えていただき感謝します! ――剣の神よ!」
――だんっ。
同時に地面を蹴った。
人間と神。
比べるまでもない。
神のほうが早く強い。
だが、戦いにおいて強さが絶対ではない。
弱者が勝つこともある。
それは征四郎がよく知っている。
暴力が全てではないのだ。
ひとりで勝てないのなら、力を借りればいい。
仲間がいる。
相棒がいる。
ならば、頼ろう。
恥ずかしいことではないのだから。
「――共に行こう――夜刀」
「――うん!」
ずるり、と闇が抜かれる。
闇は征四郎の望んだ刀の形を取る。
神剣である夜刀は征四郎に力を与える。
神と戦えるだけの、身体能力を授けた。
――世界が遅くなった。
――否。
――征四郎の速度が限界を超えたのだ。
――世界がゆっくり動く。
――夜刀を握りしめ、幼い頃から何度も繰り返した抜刀を行った。
――するり、と黒い刀身が剣の神の腕を斬り落とし、返す刀で首を刎ねた。
「――見事」
転がった首から、満足そうな声が響く。
征四郎は、剣の神に感謝し、礼をした。
「剣の神よ、感謝します。あなたのおかげで、俺は強くなれた」
「お、う」
剣の神はそう言い、朽ちていった。




