25「千手さんととらぴーカップルが戦うんじゃね?」②
虎童子が軽いバックステップで退くと、天眼の神の口から血と吐瀉物が地面に大量に撒き散らされた。
「……意外と固いじゃねえか。穴を開けるつもりでぶん殴ってやったのに」
「ごほっ、おえっ、ごぇ……この、鬼風情が! ――――停まれ!」
天眼の神が叫ぶと、虎童子の身体が停止する。
「――マジかよ」
「ええ、マジですとも。私の能力は、未来予知だけの身体能力が低いから戦いに向いていないわ。本当なら、この鬼のような前衛が必要なのだけど……、未来予知だけじゃないのよ」
にぃ、と笑い天眼の神は虎童子の肉体を蹴り飛ばした。
千手が虎童子の身体を抱きしめ、地面を転がる。
「……面倒臭えことになったな」
「人間が神を相手にできると思っている時点で、傲慢だ。新たな神々と呼び侮っていたか? 神は、神ぞ」
「知るか。――停マレ」
「本気を出した神にこの程度の魔眼が効くわけがないだろう!」
神気が吹き荒れ、千手を襲う。
天眼の神の力が風となり刃となり千手を襲う。
手足、顔、首、肩、背中を切り刻まれていく。
「ぐ、あ」
反射的に虎童子を庇ってしまったせいで、負わなくていい怪我を負ってしまった。
「ほう。迷惑そうにしていた割には、その鬼を庇うか」
「反射だ。気にすんな」
「ふん。まあいい。さて、神を相手にした報いを受けてもらおう」
天眼の神が千手に近づき、髪をつかんだ。
「馬鹿野郎……髪を掴むんじゃねえ、抜けたらどうする。てめえと違って再生しねえんだよ」
「この期に及んで頭髪を気にするとは愉快な男だ。その舐めた態度も可愛らしく思う」
「死ね」
天眼の神の拳が千手の顔に叩き込まれる。
「生意気な男だ。神を相手に不遜な!」
繰り返し殴られ、千手の顔面はあっという間に血だらけになった。
「痛くねえし。由良にボコされた時の方が痛かったんだけどなぁ。あんた、本当に戦いには向いていないみたいだな。眠くてあくびが出るぜ」
「ふふ。では、神としても可愛がってやろう。私は天眼の神。お前の持つ魔眼とは比べられぬほど強い力を持つ神である。なぜ天眼かわかるか?」
「天気予報が得意なんだろう?」
再び殴られ、血が舞う。
「お前たち魔眼使いの能力全てを持っているのだ。わかるか? 魔眼を全て制する目、すなわち天眼!」
「くだらねえ、手数が多いのが自慢か」
三度殴られた。
鈍い音がし、口と鼻から血が止めどなく流れていく。
「手数が多いのではない。すべての魔眼は私の下位でしかないのだ! ひとつしか使えないお前たちのような矮小な者と一緒にするな! どれ、私の天眼を味合わせてやろう。とっておきだ。精神が狂うまで幻覚を見せてやろうではないか! 私の目を見ろ!」
天眼の神に髪を掴まれたまま、無理やり千手は瞳を合わせられた。
「お前がもっとも苦しむ幻覚を見せてやろう!」
「う、うわぁああああああああああああああああああ!」
千手が叫び、天眼の神が笑った。
「なーんっちゃって!」
「――は?」
「お前の目は俺が停めたんだよ! とらぴー出番だ!」
「あいよ!」
能力が発現しなかった天眼の神が、驚いたわずかな時間が彼女にとって致命的だった。
千手の腕の中にいた虎童子が動き、鋭い爪を全力で振るった。
――天眼の神の首と腕が宙を舞い、地面に落ちた。
彼女の肉体の断面から血が吹き出す。
「――な、ぜ」
立ち上がった千手は、電子煙草を加えると煙を吸い、吐いた。
そして、何が起きたのかわからないでいる天眼の神の顔を踏みつける。
「あんたは確かに神様だ。強くておっかない神様だ。だけど、能力を使いこなせてねえし、人間を、鬼を舐めすぎたな。あんたの力は言うほど強くねえんだよ。たくさん持っている装飾品を見せびらかしているだけだ」
足に力を込めた。
「や」
「そうそう、教えておいてやる。俺が持つ魔眼は動きを停めるんだよ。単純な行動だけじゃない。能力だってその気になりゃ停められる」
「やめ」
「あんたが新たな神々の中でも三下でよかった。俺みたいな雑魚で勝てたぞ。なあ、由良!」
「――やめ」
――ぐしゃり。
千手は天眼の神の顔を思い切り踏み潰した。




