23「小梅ちゃんが戦うんじゃね?」②
小梅の拳が絶望の神の顔面を捕らえた。
鈍い音が響き、絶望の神の顔面が陥没する。
「――な、んと絶望的な!」
「おどれは同じことしか言わんのう!」
そのままの勢いで、絶望の神は後頭部から地面に叩きつけられた。
地面が砕け、絶望の神の顔も砕ける。
しかし、絶望の神の再生能力は高く、すぐに治っていく。
「ぜっぜっぜ! わかるか! この地には絶望が蔓延している! 君たちが絶望した人間を倒そうと、絶望は消えない! むしろ、死んでいく最中に絶望した者の絶望は強く、私に力を与えてくれる! 絶望すればするほど私は強くなるの、だ!」
「面倒臭い神じゃのう。他人に頼らんと喧嘩もできんのか!」
神力を込めた小梅の拳が絶望の神を襲った。
何度も。
何度も、何度も。
何度も、何度も、何度も。
「ぐちゃぐちゃにしてやるから喜ぶとええ!」
絶望の神は小梅をテクニックタイプと言ったが、正解はどちらも優れている。
ただ、このような戦いにおいてテクニックなど必要ないと小梅は考えている。
魔王サタンの圧倒的な力のように、勇者由良夏樹の笑える力のように、小梅・ルシファーの力も強大であり巨大だ。
その力をシンプルに叩き込むだけで、大抵の者は死ぬだろう。
いちいち技やなんやと力を変換しなければ戦えないほど、小梅は弱くない。
――実際、小梅は夏樹と戦うまで負けたことがない。
「ぜっ、ぜっ、ぜ……駄目だ、小梅くん。君では私を絶望させることはできない!」
「まーだ、よくわからん笑い方をする余裕があるんじゃなぁ。ある意味感心するんじゃが。まあ、ええ。絶望しようとせんでも知らん。――――死ね」
光の槍を絶望の神の腹に突き立てる。
「ぜぇえええええええええええええええええええ」
小梅の力が絶望の神の腹から体内に駆け巡っていく。
これだけでも全身がバラバラになる激痛だ。
むしろ、身体が弾け飛んでいないほうが不思議だ。
「存外しぶといのう……こちとら疲れてきたんじゃが」
「では、絶望的にこちらの番かな!」
「――っ、まだそんな元気があるんかい!」
絶望の神が小梅の細い身体を蹴り上げた。
ダメージはほぼない。
翼を広げ、宙に退いたことで事なきを得た。
「……なるほどのう。おどれを殺すには一瞬で消しとばすしかないのう」
「火力が足りない君にできるかな? ――絶望的な力をお見せしよう!」
絶望の神の腕に黒い霧が集まっていく。
霧はひとつに集束し、剣となった。
「――絶望ソード!」
「絶望的にだっさい名前じゃのう!」
「さあ! 絶望的に第二ラウンドといこう!」
■
「やれやれ、姐さんは大暴れだな。俺も負けちゃいられねえ。ここで活躍しておかねえと、なんのために異世界くんだりまで来たのかわからねえ」
「……ダーリンはツッコミ担当じゃないか!?」
「ちげえよ! なんでツッコミするために異世界に来てんだよ! つーか、なんで虎童子が俺と一緒にいるんだよ! 姉妹と一緒に戦えよ!」
「もう、そんなとらぴーと一緒で嬉しいなんて。――ぽ」
「お話聞いて!」
七森千手は、いつも通りにツッコミを入れながら虎童子と共にいた。
眼前には、目を布で覆った長い黒髪の女だ。
「戦場でイチャつくとは……余裕のようね」
「だーれーがーイチャついているんって!? お前の目は……隠れているようだが、耳はあるだろ!」
「ダーリン、照れなくてもいいだぜ」
「お前も黙ってって!」
普段と変わらないノリの千手だが、内心は緊張していた。
目隠しの女は、「神」だ。
人間では太刀打ちできない力を持っている。
だが、不思議と怖くはない。
(由良に思いっきりボコボコにされて、宇宙で大暴れしてきたんだ――今さら俺に怖いものなんてない!)
「ほう。私を前に恐怖しないか。ならいい。楽しい戦いになりそうだ」
「ご期待にお応えできるよう頑張るさ」
ふん、と女は鼻を鳴らした。
「私は天眼の神。新たな神々の一柱だ」
「こりゃご丁寧に。神様に名乗っていただけるたぁ光栄だ。名乗り返さないと失礼だな。――俺は七森千手。魔眼使いだ」
「妻の、とらぴーです」
「ちょっと、真面目にやってよ!」




