10「スルーされたからおこじゃね?」
「……勇者?」
「や!」
「……待ってほしい、なにか気に触ることをしただろうか?」
「や!」
「そんな幼い頃のラーラのように頬を膨らされても」
「ちょっと、ママ!?」
膨れっ面になってそっぽを向く夏樹に、魔王ギーゼラは困った顔をしてしまう。
急に不機嫌になった夏樹を何事かと、誰もが伺った。
ラーラは、急に自分の昔話をされて恥ずかしそうに顔を赤くしている。
「なーんで、おどれは駄々っ子さんになっとるんじゃ!」
「そうっすよ! 夏樹くん! 魔王さんが宝物庫の魔剣を全部くれるって言ってるんすから、急に不機嫌にならないで、ささっとかっぱらっていきましょう!」
「いや、すべての魔剣を持っていかれると困るのだが」
「ぷいっ!」
「ええいっ、この駄々っ子さんめ! ……魔王、なんかしらんがこうなった夏樹は面倒じゃ。魔剣は後にするとして、話を進めることにせんか?」
小梅と銀子に左右から頬を突かれながら、夏樹はフグのように膨らませた頬のままだ。
ぶすっ、とした夏樹を置いて、ギーゼラたちは話の続きをすることにした。
「……まあ、お前たちがそれでいいのなら、話を続けさせてもらおう」
ごほん、と咳払いをしてギーゼラはまっすぐと夏樹を見て、目を逸らして小梅を見た。
「では、話を続けさせてもらおう」
「おう! 続けるとええんじゃ!」
「……まず、魔王軍は半壊している。これは良いか?」
「えー、こちらの駄々っ子河童勇者の由良夏樹さんが大暴れしたせいじゃな?」
「戦いだったので責めることはしないが、そうだ。そなたたちが味方になってくれることは感謝するが、人間に悪感情を持つ魔族は多い。特に、勇者由良夏樹には、な」
「その辺はしゃーないじゃろ」
「そうっすねぇ。魔王さんと夏樹くんの戦いが終わって一週間ってところみたいっすから。早々に禍根が消えるわけがねーっす」
「理解があって助かる」
ギーゼラは胸を撫で下ろした。
そういう彼女も、人間、いや、勇者由良夏樹に思うことはあるだろう。
夏樹が奪ったこの世界の命は数え切れないほどだ。
その大半がギーゼラの部下だ。
「あー、なんだ、魔王のあんた的にはウチの勇者に対する感情はちゃんと折り合いがついているのか?」
魔王に尋ねたのは千手だ。
「こっちの大将が今さらどうこうされちまうとは思わねえが、魔族のトップのあんたが勇者に関して何かしら思っているんじゃ、下も感情を抑えられやしねえだろ」
「せやねぇ。戦いというんか、戦争だったんやし、水に流して手を取り合いましょ――となるんやら、戦争なんて無くならへんし。その辺りはどうなん?」
千手に続き、東雲も笑みこそ浮かべているが警戒を隠さない。
魔王は静かに口を開いた。
「あなたたちの懸念は理解できる。我も、勇者殿に何も思わないわけではない。正気に戻してもらった感謝は大きい。娘を殺さなかったことにも感謝している。そして、我の命も奪わなかった。本当に感謝している。だが、それとは別に、我の部下を駆逐するように殺したことには……割り切ろうと思っていても簡単にできない感情はある」
「誠実な回答に感謝するぜ。んで、その感情を飲み込めるのか?」
「別に恨むな、なんて言っとらんよ。恨みをもたん聖人君子なんておらへん。せやけど、魔王はんが背後から夏樹くんを攻撃するなんてことになってもうたら困るんよ」
「そのようなことはしないと、歴代の魔王と先祖に誓おう」
千手と東雲が魔王と静かに睨み合う。
「その言葉を信じるぜ」
「ま、攻撃したところで夏樹くんをどうこうできるなんて思っておらへんけど、ケジメは大事やもんね」
ただし、とふたりは続けた。
「あんたが勝つとか勝てないじゃなくてよぉ、うちの大将に何かしようなら」
「相応の覚悟をしてもらうことになると思うんよ。覚悟しいや」
「――肝に銘じておこう」
魔王さん「ふっ。勇者は部下から慕われているようだな」
千手さん「河童勇者が激おこになったら世界滅んじゃう!」
しののん「皆殺しは夢に出そうで嫌ややもんなぁ」
魔王さん「…………」
魔王さんに釘を刺すことで、祟り神なっちゃんを荒ぶらせないようにしました。




